2013年7月9日火曜日

最初の道具

大学に入ってわりとすぐ、神保町の本屋街を歩いていた時、
靖国通りの角に刃物屋さんがあるのを発見しました。
そこの店が有名なのかどうかも知らないで、当時2,000円代の切り出し小刀を
思い切って買いました。

使い方もよくわからないで、石膏取りの石膏型まで削ったり、
かなり乱暴に使っていたため、
かなりちびてしまいましたが、
これが今も一番使いやすい小刀なのです。

あからさまに短くなってきたのでもったいなくなり
別の切り出しを買って使ってみたものの駄目。
やはり同じ店で買わないといけないかと、わざわざ出向いたにもかかわらず、
研いだ時の感触やら全てが違いました。

上がその小刀(持ち手部分にはたこ糸を巻き付けて漆を塗りました)
下が約20年後に同じ店で買った、同じランクの切り出しです。
ちなみに値段はおよそ倍でした。
裏押しして数回研いだ状態なので、ほぼ新品の長さです。
並べて写真を撮ってみて、これだけ減っていたんだなとわかりました。

この店では15年前に「青鋼」という、上と違う鋼でできた
一本6,000円以上のものも買って使ってみましたが、
値段が高くても、なぜか手になじまないんです。
不思議なものです。

あちこちで古い道具屋を見つけては、買って研いで試し切りをして、
切り出しばかり10本以上になってしまったので、もう打ち止めです(笑)

最初に買った鉋も同様です。
やはり、いくら後から高い鉋を買ってみても、
最初の鉋が手にしっくり馴染むし、研いだ時もぴたっと決まる。
鋼の癖もわかっているから、研ぐ角度も力の入れ具合もわかる。
そして、鉋台は自分の手で持つ部分というのが凹んでいるのが
台直しをする時によくわかります。
金鎚仕事をする人の金鎚の柄が
指の形に凹んでいたりするというのが理解できます。

道具は道具屋に売っている状態では半分仕上がりで、
自分で育てるものだということを納得します。
しかし、刃の裏押しや、鉋台の調整などの最初の地味な作業を含め、
道具を育てるのに時間を費やしていられない時代、
買ってすぐ使える道具ばかりが売れるようになり、
そして、古い道具屋さんも鍛冶屋さんも廃業していきます。

神保町の刃物屋さんも、数年前に閉店になってしまいました。

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