2015年6月20日土曜日

消えた織機?

ブータンには漆の調査目的で行っていますが、
特に東ブータンは工芸が盛んなことと、
首都ティンプーとタシヤンツェにしかない
伝統技芸院(Institute for Zorig Chusum)があるので、
その他の工芸についてもついでに調べています。

特に、染織はそれでツアーが組まれる程人気ですが、
既に国内外で何冊もの本が出版されていますから、
我々が調べるまでには及ばないとしても、
せめて、ここでいついつこんなことをやっていたという
記録はとっておくべきだと思っています。

雑貨屋の店内にあった腰機

漆木地師さんの家の近くにあった枠機

前回、前々回では、漆職人さんの工房を訪ねた時に、
その家の女性が織りをしていたり、
近所で織りをしている方を何人も見かけていましたが、
今年は、その時見かけた機をひとつも見ることができませんでした。
ブータンが初めての同行者Oさんに是非見てもらいたいと思っていたので
ちょっとショックでした。

伝統技芸院の縫い物コース

刺繍コース


伝統の長靴も手縫いです。

不思議なことに、伝統技芸院にはミシンで民族衣装や靴や飾りを縫ったり
仏画の刺繍をするコースはあるのに、
染めや織りのコースがありません。
これは、普通の家庭の主婦が普通にやっているから、
学校で教えるようなものでもない、という考えらしいのです。
労働省管轄の職業訓練校としての伝統技芸院の立場としては、
手に職をつける為の特殊技術の教育がメインなんでしょうか。
しかし、使っている布や糸のほとんどが化学染料で染められたものだというのが
何よりも残念です。

Kさんのお宅では、奥さんや地元の方が織られたというキラを見せてもらいました。
 東ブータンのメンタとか、
花織りのような細密な模様や、

これは王妃が皇后陛下にお目にかかった時に着用されたキラを
アレンジして織ったものだそうです。

確かに織りや模様は素晴らしいものの、
既に糸も全てインド産の上、染めは化学染料だなあと思うと、
無理しても買いたくならないのがいいのか悪いのか。
KさんSさんすみません。

そんなこんなで東を出発の朝、
思いもかけないところで機を発見!
 横にいるのはここの娘さんです。

色もこれまで見たのとは違う、自然の色です。

さらに、バックストラップは皮製です。
伺ったらトナカイの革だとのこと。

実はこれ、以前も数日泊まっていたホテルの裏なのです。
そこにやってきたガイド君曰く
「あれ?知らなかった?ここの奥さんは染めから全部やるんだよ」って。
奥さんに素材を聞いたら全て天然素材。
このホテルの売店で売っている布も(日本円で最低5万円くらいから)
ここで織っているのだそうです。
まさに灯台元暗し。
次回は是非、染めか織りをやっているところを見せてもらわねば。

2015年6月16日火曜日

ブータン漆器の新製品

3年ぶりにブータン調査に行ってきました。

毎回行く時期が微妙に違うため、違う景色を見られますが、
今回は植物の専門家Oさんにご同行いただいたことで、
これまで漆や茜などばかりに注目していたため、
まったく視界に入っていなかったさまざまな植物も見ることができました。
驚いたのは、道路脇の植物はもちろん、
自分ではこれまでその存在にすらほとんど気づいていなかった、
テーブルによく置かれている造花にすらOさんは反応していたことです。
異分野の人と同行するのは、別の目を持てるのと同じですね。

3年ぶりの訪問で、やはり様々な変化を感じました。
今回もインド方面からの入国でしたが、パソコンでの電子指紋認証をされたり、
大きな町には銀行ATMができていたり、
そして、民族衣装のゴやキラを着ている人がどんどん減っている感じも。
今回はたまたま国民の祝日の法要の日や、
田植え時期の農繁期に重なったことで少々事情が違ったかもしれませんが。

そんなわけで、毎回訪問していた漆職人さんもお留守だったり、
また、タシヤンツェの多くの家で見つけていた織機もかなりなくなっていたり、
製作現場をあまり見られなかったのは残念ですが、
世界中でブータンだけ時間が停止しているわけはありません。

30代の木地師さんがデザインしたという新しい形のツァムデです。


大きさも色もなかなか良くて、
同行のOさんもこれ欲しい!と言ったのですが、
残念ながら今年挽く分の材は既に準備が始まってしまっていて、
新たに追加する分はこの冬以降しか入手できず、
できるのは来年以降になるとのこと。
タシヤンツェの木地師さんの多くは、
仲介業者が木地を持って来て、挽き賃だけをもらうシステムで、
その場で売ってもらえるものはほとんどないのです。
通常、漆塗りは塗師さんが担当しますが、
これはどうも、日本から輸入した朱の顔料を混ぜた漆で塗られたようです。

そして、数年の間に、漆器の仕上がり具合、
特に、底の仕上げが格段にグレードアップ。
以前は、裏は漆が塗られないのは当たり前で、
さらには轆轤の回転軸に接着するラチュ(ラック樹脂)がついたままも普通で、
テーブルに置いてもカタカタ言うくらいでしたが、
今回、底もきれいに削って磨かれ、漆が塗られていてびっくりです。

さて、この新しいデザインのツァムデについて
ティンプーに到着してから、同市在住のAさんから伺ったところ、
なんと、これの原型はバングラデシュで作られたプラスチックの蓋付き容器なのだと。
なるほど、そういう逆転の発想ですか。
軽くて薄くて、伝統的なツァムデよりも少ない量の木でできる、
既に木目を見せるのに良い材が減っているブータンで、
こういった漆器が今後増えてくるのかもしれません。