2013年9月30日月曜日

漆かぶれ

先週、作業場の冷蔵庫から物を取り出した際、
うっかり生漆の入った茶碗を倒してしまっていたらしく、
3日後に気づいた時には、茶碗の中身が半分以上が冷蔵庫の中に流れてしまっていました。

こういう場合は慌てないのが一番なのですが、
こぼれた漆を集めるために冷蔵庫に入っていた物を一旦全て移動していた際、
物についていた漆が自分の足の方に垂れてしまいました。
すぐに着替えて拭けば良かったのですが、
物を移動したために漆がどんどん広がってしまうのでそんなわけにいかず、
一段落してからやっと着替えられたため、
久し振りに大かぶれしております(笑)

自分はかぶれにくい体質とは言え、
漆がつく場所や、自分の体調など、さまざまな要因でかぶれが出ます。
今回は久し振りに太ももに付着したのですが、
直接付いたところはもちろん赤く腫れましたが、
数日経ってから膝の裏側を中心に疱疹ができています。
皮膚が弱いところに出て来るんですよね。
面白いです。

昔からかぶれの治療方法は、沢ガニの汁やら杉の葉っぱやら
酒を飲んで塩水の風呂に入れとかいろいろ言われていますが、
私は放置しておくだけです。
それで数日後には治るのだから有り難いことです。
それでも現実、かぶれると疲れやすくなったり、調子が悪くなります。

かぶれやすい人は、空気中の漆成分にも影響を受けるようです。
南アフリカ出身の白人の友人はとても漆に敏感で、
漆を使った授業の後、しばらく起きていなかったという喘息の発作を起こしたことで
漆アレルギーが発覚しました。
しばらくして、扉を閉めた部屋でちょっとだけ漆を出していただけなのに、
「あなた、漆を使ってたでしょ?」と図星。
廊下を通っただけで首が真っ赤になったと、
「私には嘘はつけないわよ。」と言われました。
彼女はアレルギー体質で、そのための薬をいつも持っていましたが、
別のアレルギー体質の白人の人も呼吸器系に影響を受けるらしく、
そういう人達にとっての漆かぶれは生命の危険にもさらされる一大事になります。

外国人だからかぶれやすいのではないということはありません。
これまでの生涯で絵すら描いたことがないという
エジプト人の物理学の学生に漆を教えたことがありましたが、
いくら注意しても手袋も嵌めず素手で作業をし、
手に漆をつけていた時には
「次回から君には会えないね。」
と半ばジョークで言ったのにも関わらず、
次の講座にはけろっとした顔で出て来て、
何も変化も起きていない手を見せてくれました。
逆に、日本人でもかぶれる人はかぶれますし、
丁寧な作業をしている生徒でも体質によってはかぶれます。

私は漆にかぶれにくいということで漆を使うようになりましたが、
かぶれやすい人ほど漆を手や道具につけないように注意深く作業をするので
技術が上達すると言うのは言えるかと思います。
なので、私のようなかぶれない人間はいつまでたってもへたくそなまま、
と、言い訳をしてみます。

さて、冷蔵庫にこぼれて3日経った生漆は、
ほとんど自然にくろまっていましたが、
全く乾かない漆になってしまいました。
これはよく乾く漆に混ぜて使うことができるので無駄にはなりませんが、
冷蔵庫の壁面に吸われた漆はかなり無駄になってしまいました。
他の物に染みこんでいなかったことは不幸中の幸いです。

2013年9月27日金曜日

藍の花

今月末から月頭にかけて用事が立て込んでおり、
更新がなかなかできません。

そんな中、藍の花が開花しております。




たまにはゆっくりボケ−っと花を眺めていたいところですが、残念です。

あまり生長しなかったので心配していましたが、
花が咲いてくれて嬉しいです。
今年は生葉染めはあきらめて
来年用の種が採れるように葉は残しておこうかなと。

2013年9月25日水曜日

極薄の世界

日曜日に、竹中大工道具館主催の講演会に行って参りました。
9月29日(日)まで開催の、「鉋鍛冶 碓氷健吾の仕事」展
http://www.dougukan.jp/contents/249_jp.html
に関連し、
碓氷さんからいろいろ学ばれたという刃物鍛冶の船津祐司氏の講演の後、
「削ろう会」
の会長で、長野県にある上松(あげまつ)技術専門校
の講師、上條勝さんが、碓氷氏の鍛えられた鉋を使っての削り実演をされ、
聴講者の中の希望者も薄削りの体験を行いました。
講演会は希望者が多数だったそうで、
午前の部、午後の部の2回も行われました。

「削ろう会」は、
「極限まで薄い鉋屑を出すことを中心に、手道具や伝統技術の可能性を追求する会」
ということで、削り実演では、樹齢300年の木曽檜を削っておられました。
薄削りは鉋刃、台、鉋刃の研ぎ方、鉋の調整、削りの技術、
そして削る木も重要になります。

講演開始前から鉋の調整をされておられました。

講演終了後の実演の前、さらに鉋の調整です。
空調の効いた部屋にしばらく置くだけで狂いが来るほど微妙です。



鉋刃が透けて見える程の薄さで、材の長さを均一に削っています。


碓氷さんが打たれた鉋を次々と使われて、削る時の音の違いを聞かせてくださいます。




台が平らなのはもちろん、台の刃口と刃の間が狭く作られています。
碓氷さんの鉋で薄い削り、語呂も良いです。

この鉋屑がどれだけ薄いかと言うと、
手で触ると、まるで極薄のストッキングを触っているような感じです。

左が今回の削り屑、右は普通の仕上げ鉋がけの削り屑。
右側でも十分薄いのですが。

さらに比較対象として、一番左に漆濾し用の吉野紙を置いてみました。
吉野紙と変わらないくらいの薄さです。

実際問題として、ここまで薄く削るという作業は現場では発生しないそうですが、
電動でない木工具の使用頻度が減少している現代では
人気があるのも納得します。

2013年9月24日火曜日

亜麻ちゃん

近年、水性ペンキが圧倒的に売れるせいか、
油性ペンキは市場からほぼ消滅しているそうで、
明治以降の近代建築を保存修復する際には、
海外の会社に特注で注文せねばならないという話を数年前に聞きました。

「ペンキ」という言葉は和製英語で、語源はオランダ語の"pek"だそうです。
英語では単に"paint"ですから(市販品はhouse paintとか書かれてます)
日本の塗料会社も「○○ペイント」という社名ですね。
塗装工も画家も英語では同じ"painter"になるのはちょっとややこしいです。

しかし、油性ペンキと油絵具は元々同じ材料から出来ているのでしかたありません。
どちらも亜麻仁油、つまりリンシードオイルと顔料を混ぜたものです。

「亜麻仁」とは「亜麻の種」の意味です。
最近は健康食品として販売もされています。

リンシードオイルを熱したり(Boiled)
日にさらしたり(Sun thickened)
金属塩を加えることにより酸化が促進されて硬化が早まります。
そのため、さまざまなリンシードオイルが市販されています。


亜麻は英語ではflaxです。
種だけでなく、茎は繊維の「リネン(リンネル)」になります。
公共宿泊施設で「リネン室」という部屋を見かけることがありますが、
シーツとしてよく使われていた素材です。
(日本のシーツは主に木綿ですが)
大麻(hemp)から取る麻とは植物からして違うものですが、
日本ではどちらも麻として扱われてしまいがちです。

種も茎も使えるだけでなく、花も愛らしく美しいのですが、
残念ながら日本では北海道くらいしか栽培に適している場所がありません。
残念です。

昔、「亜麻色の髪の乙女」という曲がありましたが、
それにまつわってもう1つ、
「琥珀」をドイツ語で"Bernstein"と言います。
有名な作曲家の名前と同じです。
Bernsteinの語源は「ベレニスの石」、
ギリシャにベレニスという亜麻色の美しい髪の女性がいて、
彼女の夫が戦争に出かける際、彼女はその美しい髪を切り、
神様に捧げたところ、それが「かみのけ座」になり、
彼女の髪の色と同じ石、琥珀がBernsteinになった、というものです。
実は、「ニス」の語源は「ワニス」
そのさらに元の"varnish"(英語)、"vernis"(フランス語)、
"Firnis"(ドイツ語)、"barniz"(スペイン語)の語源も
この「ベレニス」だということです。
というわけで、varnishは元をたどれば「亜麻色の塗料」というだけでなく、
琥珀で作られていた、という流れになるとまた長くなりますから、別の機会に。

2013年9月21日土曜日

コーヒーから刃物

職人さんが行く道具屋さんというのはなかなか
初心者には近寄りがたい場所ですよね。
「○○ありますか?」
「ありません。」
「もう作ってないのですか?」
「わかりません。」
というようなそっけない応答をすることで有名なS屋はもちろん、
大学生の頃、ここの切出しがなかなか良いという話を聞いて訪れたS刃物店。
「ごめん下さい」と店に入り、店主が出て来たところで
「すみません、切出しが欲しいのですが」
と言ったら、
「うちのは高いよ。」
と言ったきり、奥に引っ込まれてしまった経験などから
(見た目が貧乏そうに見えたのか)
道具店が普通の人に門戸を閉ざしてしまっているのも
興味のある人から日本の伝統文化を取り上げてしまっているようで
勿体ないんじゃないかなと思っていました。

しかし、そうではない道具屋さんも世の中には存在します。
墨田区にある、井上刃物店さんはその一件です。
(都営新宿線菊川駅から徒歩5分くらい)
大通りに面してはいますが、看板も何もありません。
しかし、周囲のビルディングの中でひときわ目立つ古い日本家屋です。
(後ろに見えるのは首都高速です)



通りから見える入り口の右手にはこのような研ぎ台が置かれています。

ご主人の井上さんは、ご自身も「手考会」という木工の会に参加されており、
道具を売るだけでなく、作り手側の立場も理解して、
初歩的な質問にも親切に答えて下さいます。

都内でも決して便利とは言えない場所にありながら、
若いお客さんや女性も来られて、長居をされています。
店構えからも想像がつくように、店内もお宝の山です。

その井上刃物店さんにはオリジナル商品があります

これは、コーヒー豆を挽いた粉を計量するスプーンですが、

スプーンそのものではなく、これを作るための独特の形状に
鍛冶屋さんに打ってもらったという刃物です。



コーヒーを飲まない私も話を伺って思わず購入してしまいました(笑)

井上さんご夫妻はコーヒーが大好きで、
常連のお客さんが奥さんの誕生日にコーヒーの粉の計量をするスプーンをあげようと、
刃物を特注しスプーンを作ってプレゼントされたのだそうです。
このスプーンが大変使いやすく、
さすが木工道具の店、スプーンを買いたいというのでなく、
自分も作りたいという人が何人も出てきたため、
この刃物を追加注文したところ大人気商品になった、
というような話だったと記憶しています。
(細かい部分が違っていたらすみません)
そして、お店にはお客さんが作られたスプーンの製作工程を
写真入りでわかりやすく説明したファイルまであり、
お願いすれば誰でも見ることができます。
(※奥様の許可を得て撮影しましたが、全部をご覧になりたい方は店頭で)



井上さんご夫妻がお客さんにとても愛されているということもよくわかります。

お話もとても面白く、いろいろ丁寧に教えて下さるので、
まずは電話をして、井上さんがお店におられる時間を確認の上、
時間の余裕を持って行かれると良いと思います。
もちろん、欲しいものがどんどん出て来ますから、
お財布の中身の準備もお忘れなく!

井上刃物店
 墨田区立川3-17-8 電話03-3631-4268 
都営新宿線菊川駅のA3出口を出て、右二つ目の信号の反対側

2013年9月19日木曜日

初秋の漆の木

中国の話題を書いているうちに、季節はすっかり秋です。
今年は80個近くも取れたスイカの季節も終わり、
父がスイカの上のネットを外したので、やっと漆の木にも近づけるようになりました。
葉の緑がとても濃く、黄色い枯れ葉も見られます。

台風一過のいいお天気です。

鹿に葉を食べられた木も見事に復活しております。

と、上をちょっと見たら

わわわ、虫が喰ってる!

と、落下したのがこんな虫。何の幼虫でしょう。
幸い、喰われていたのはこの一カ所だけでした。

そして、やはり葉を虫に喰われていた藍。
他の植物の影になってしまって日当たりが悪かったのか、成長がいまいちで、
これでは生葉染めにも使える量にならなさそう。残念です。

西洋茜はなんとか生き延びています。

しかし、日本茜はどんどん小さくなってしまっており、
これはいけません。
もう少ししたら日当たりの良い場所に植え替えしてみます。



2013年9月18日水曜日

カイロの金鋸刃

中国の話題はまだまだいろいろありますが、
研究代表者が私でないため、ここに書けない内容も多々ありますので、
あとはぼちぼちということで。

さて、数日前に金鋸刃の利用方法の話題を書きましたが、それに関連して。

芸大受験のための美術予備校に通っていた時に、
水粘土で「10センチ角の立方体を作る」という課題が出ました。
その時、市販の粘土篦以外の便利な道具として
先生から金鋸の刃を教えてもらいました。
もちろん、そのままでは長すぎるので半分に折って使います。
刃のついた方で表面をなでると凹んでいる部分がよくわかり、
そこに粘土を足して徐々に形を作っていきました。

ところでこの粘土の「10センチ角の立方体」なかなか勉強になります。
実際の入試には出ませんが、
まじめに10センチを正確に計ってきっちり作っても
そのように見えないんですよ。
実は、少々のトリックが必要なのです。

立方体の角や辺を正確に作るよりも、
真ん中を微妙に凹ませた方がよりきれいな立方体に見えるのです。
(やりすぎると気持ち悪いので注意)
逆に、正確に計測して作った立方体は、真ん中が若干ふくらんで見えるんです。
興味のある方は是非やってみてください。

こういった工夫が実際の入試で大勢のライバルの作品の並ぶ中から
目を引くための作品を作る秘訣になるということを学びました。

というわけで金鋸の刃。
当然受験生だけでなく、人間国宝の先生も使われているのですが、
エジプトでも見つけました。

カイロのザマレクというナイル川の中州の島に美術学校があり、
その近くの半分廃墟のようなショッピングセンターに小さい画材店が数軒入っていました。
その一件に、こんなものが売っておりました。
一番左が日本の金鋸の刃を折ったもので、
それ以外がカイロで売っていたものです。
エジプトの金鋸刃は日本のより若干薄くペナペナしていることもあって、
右の2つは使ってみて手が痛かったのでたこ糸を巻きました。

金鋸を2つに切って、それをグラインダーで削っただけの簡単なつくりですが、
こんなものを作って売っているということに感動し購入しました。
実際に使ってみると、なかなか使いやすい角度になっていることがわかります。
(しかし、そもそもこれは粘土造形用に作ったのかどうか未確認です。
アルミの棒で作られた粘土篦らしきものと一緒に並んでいたのです)

粘土造形の場合、カッターの刃などでは切れすぎて危ないのですが、
これは刃の角度もゆるく、切れすぎないところが良いですし、
もちろん、砥石で研げばもっと切れます。
自分で角度を少し変えることもできますね。
半分に折ることで満足していた自分には目からウロコでした。
しかし、地球の反対側の違う文化を持つ人達も、
本来の道具の使用目的とは違う使用法を思いつくというのがいいですよね。

2013年9月16日月曜日

甘粛省の泥人形

中国で言う「非物質文化財」というのは、
日本の「無形文化財」とはちょっと違うかもしれません。

伝統芸能やお祭り、民謡、地域の風習だけでなく、
少数民族も多い中国では民間工芸も「非物質文化財」として
国、省、市などによって指定されているようです。
甘粛省の泥人形もそのひとつのようです。
こんなグループの立体だけでなく、


百面相まで。かなりのクオリティです。

実は1989年に訪問した北京の中国博物館で、
たまたま少数民族の工芸の展覧会が開催されており。
その時に展示されていた泥人形や刺繍が大変面白く、
いくつか買って帰っていました。
当時はそれらが広い中国のどこの物なのか全く関心もなかったのですが、
今回の蘭州で同じようなものが展示されていたため、
古い写真を調べてみたら、確かに「甘粛省」「蘭州」の文字がありました。
何十年ぶりかに身元発見!という感じでちょっと情けないですね。

 当時の展示の写真です。

作者はもちろん違うでしょうが、
こちらの方が素朴なつくりです。

「清真」の文字があり、店主のかぶっているのは
回族の帽子ですね。

「甘粛省民間民俗美術展覧」の文字が見られます。
回族のおじさんが売っているのは
ハミ瓜でなくスイカに見えますが。

これもスイカ売りのお兄さん。

お爺さん2人。

タバコをふかす物売りのお兄ちゃん。
人民帽をかぶる人も今ではほとんどいません。

子供とお爺さんでしょうか?

子供

そして、こちらが私が購入して持ち帰った、素焼きされた泥人形です。
どうして同じ形の人形を2体も買っていたのか、今となっては謎です。

焼きもので人形のような立体を作る場合、
全体がみっちり粘土でできていると
焼成の際にヒビが入ったり破裂したりするため、
中には空洞を作るのが基本です。
陶俑なども中は空洞か、底を塞がないで作られていますが
この人形は全くのムクで空気穴もなく、持つとずっしりと重いです。


秘密は背中を見てわかりました。
写真で向かって左側の背中の一部が割れていて、
中から白いものが見えています。
これがどうも緩衝材の役割を果たす素材のようです。
素朴な民間工芸品のように見えて、
実は中はハイテク(?)が詰まっているのかも。
この素材は一体何なのか、今後調べてみたいと思っています。