2013年7月31日水曜日

絶滅危惧職種4&道具 (象牙)

象牙細工の続きです。
荒川区の象牙加工業者さんを見学に行った時の写真です。
 材料のアフリカ象の牙です。
牙ですから、中に神経等が通っている穴があいています。
これをうまく避けて加工するのが職人の技術です。
昔は中央に見えるような手引きの鋸で切っていたそうですが、
現在はさすがに電動鋸を使うそうです。

訪問時は、印鑑用の象牙を削っているところでした。

四角く切った象牙を轆轤にかけて円筒形に削ります。

象牙を支える「やっとこ」類です。

様々な太さや形があります。

その数、大きさにあわせてこんなにたくさん!

ヤスリや他の道具も多種多様です。

どうしても削りかすが気になってしまいます。
これを焼いて純粋なアイボリー・ブラックを作るとかできないものでしょうか。
捨ててしまうのは何とも勿体ない。

研磨には、「トリポリ」を使うそうです。
トリポリとは、元々はリビアのトリポリ付近で採取される天然の珪藻土で、
シリカ分が多く研磨能力に優れています。
通常「トリポリ」と言う場合は他国産の珪藻土を蝋で固めたものを指します。

ネックレスのビーズなどに穴を開けるボール盤です。

研磨用のモーター

前回、象牙はまだ少しは輸入ができるということを聞いて安心していましたが、
それよりも、この電動轆轤のベルトの生産が終了してしまっており、
この工房も、このベルトが切れたら店じまいするつもりだとのこと。
既に日本では木工用轆轤を製造する会社が
なくなってしまったという話を聞いていたのですが、
轆轤用のベルトを作る会社もなくなってしまったとは・・・
素材の供給と、職人さんに能力があっても、機械の部品がなくなってしまっては
昔の人力加工に戻るしかないのか・・・
なんとも残念な話です。

どうしても象牙でなければ、というものもまだまだ存在します。
例えば、三味線の撥は、三味線の音色が全く違ってしまうそうです。

工房の横のお店には、さまざまな象牙製品が展示されていました。

海外のもの、古いものもありそうです。

象牙が彫刻に用いられた理由は、
独特の質感が人間の肌の感じに似ていたことや、
質が均一で適度な堅さがあって加工がしやすいことなどがあげられます。

日本や中国だけでなく、欧米での象牙使用の例を次回ご紹介致します。

2013年7月30日火曜日

絶滅危惧職種3(象牙)

鼈甲の他、ワシントン条約で輸出入規制がかかっているものに、象牙があります。
象牙は日本では明治時代に細密彫刻をして海外に輸出して好評を博したり、
現在でもアクセサリーや印鑑として利用されています。

私の行っていたイギリスの学校では、
学部生は象牙彫刻の修理が必修になっていた時期がありました。
学生が修理をすることで技術を学び、依頼主は安く修理をしてもらえ、
修理代はコースの運営費に追加されるというメリットがあり、
外部から多くコンタクトがあるのです。

私は、自分では手がけなかったものの、
それぞれの象牙彫刻が日本製か中国製かいちいち聞かれたため、
付け焼き刃でいろいろ勉強せねばなりませんでした。

例えばこれが修理前
全体にカビが生えたように白い粉が吹いています。

修理後
白化部分がなくなり、象牙特有の色と質感が戻りました。

その他、さまざまな作品がありました。
これらを英語で"Okimono"と言うのです。
Okimonoは置いておくだけですからまだ良いのですが
根付のようなものに染みついた色は落とせません。


こういうものが日本製か中国製かの判別がつけづらいのです。
銘があれば手がかりになるのですが。

象牙だけでなく獣骨製品もありました。
獣骨は象牙よりも組織が粗いのでわりと簡単に判別がつきます。
これは中国製のからくり人形です。

これは19世紀の中国製のチェスのコマで、
マゼンタで着色されていました。
日本でも「撥鏤(ばちる)」というものがありますね。

さて、浅草の国際通りを一本裏に入ったところに、
「象牙会館」というのがあります。


ここの一階は「象牙工芸館」となっており、
象牙の製品や加工工程のビデオを見ることができます。
いきなり行くと担当者がおられない場合があるので、
電話をしてから行った方が確実です。
私も伺った時間がお昼の時間帯で、お昼過ぎてから出直しました。

さて、ここではずっと担当の方とお話をしていたので
写真を撮らせて頂くのをすっかり忘れておりました。

ご説明を伺ったところ、実はワシントン条約以降、
限定量ながらも正式に象牙は輸入されており、
私が会館を訪れた前日には、なんと象牙業者さんによる市(?)がここであったのだと
おっしゃられていました。
現地で管理されていた象が自然死した時に取った牙を販売することで
それが象の保護活動の資金になるのだそうです。
鼈甲とは扱いが違うということにも驚きました。

こちらでは象牙彫刻教室も行われておられます。
象牙を削ったことがある人はご存じかと思いますが、
特殊な刀を使い、かなり力を要します。

また、毎年4月上旬には、象牙供養という行事が
護国寺で行われているそうです。

2013年7月29日月曜日

絶滅危惧職種2(鼈甲)

昨日の鼈甲細工の続きです。

長崎歴史文化博物館には、地元の工芸工房の作業が見られる場所があります。
http://www.nmhc.jp

私が行った時には、川政べっ甲さんが作業をされておられました。

材料の鼈甲が種類別に箱に入っていました。

亀の甲羅は木の年輪のように一年ごとに成長線が入ります。
この亀はかなりの年齢と思われます。

この模様は亀の甲羅の裏側です。
昔は裏側は見せなかったけれど、今はこの模様が美しいからと、
こちら側を表として使うことも増えてきたそうです。

さて、制作工程です。

まず、糸鋸などを使って鼈甲を必要な大きさにカットします。

お湯に浸して柔らかくします。
柔らかくなった板を数枚重ねてプレスします。
プレスすることで、甲羅の膠分が接着剤となって一体化します。
接着剤は必要ないのです。

プレスする前の様子

最初は重ねた厚さが右の状態だったものが、
プレスをかけると左のように薄くなります。
なので、薄くなった状態の厚みを考えて重ねなければなりません。

 部品がある場合はここで接着します。

曲面を作る場合は、木型を用います。
これは大きな型。
小さいものはこういった小型の型を使います。

グラインダーで研磨します。

最後は、バフに蝋をつけて磨きます。

使うのは堅いカルナバ蝋です。

左側が磨いた部分、右は磨く前。
艶がかなり違います。

さまざまな道具がありますね。

大きな鼈甲板は複数枚の鼈甲を同様につなぎ合わせて作ります。
べっ甲工芸館にあった帆船の帆など、何枚の甲羅が使われていたのでしょう。

べっ甲はタイマイのおなか部分の甲羅が黄色で透明で高級とされ、
背中の黒っぽい方が値段が安いのですが、
牛の蹄や卵白などを使った黄色い鼈甲のまがい物も多く作られており、
なかなか素人目には区別がつきません。

鼈甲の利用が減った要因は、ワシントン条約以前には
セルロイドなどの安価な代用品の普及、
虫がつきやすい(タンパク質ですから虫の絶好の餌食です。
特に、櫛やかんざしなどは特に虫にやられやすいです)
眼鏡フレームなどが汗で白化する、
お湯がかかると層が剥離するなどの欠点もあげられます。

鼈甲細工屋さんではもちろん修理も請け負っておられますので、
家に眠っている鼈甲製品も、是非、直して使って欲しいと思います。

2013年7月28日日曜日

絶滅危惧職種1(鼈甲)

長崎は江戸時代の日本の海外への玄関口ということで
いろいろ独特な文化が今も残っています。
鼈甲細工もその一つで、長崎市べっ甲工芸館という施設があります。


建物は国の重文の旧長崎税関下り松派出所の建物を利用していて、
これだけでも見応えがあります。

この建物の保存処置についても解説がありました。


さて、本題のべっ甲です。
漢字の鼈甲の「鼈」という字はもともとスッポンを意味しているそうですが
最近、亀の甲羅はあばら骨が進化したものだという研究発表がされたばかりです。
スッポンもあと何千年かしたら鼈甲が取れるのかも???


これが鼈甲の材料になるタイマイです。
昔は沖縄や九州でのお土産にこんな剥製が売られてもいたのですが、
ご存じのように、ワシントン条約締結以降は作られていません。

これがタイマイの甲羅の表面を削ったもので、
全ての鼈甲製品の材料です。
あばら骨が進化したもの、と言われても、成分はコラーゲンです。
なので、水につけて熱を加えると柔らかくなるうえ、
自身が接着材となるのです。

加工工程が簡単に説明されています。

地作り

万力打ち

彫刻
もちろんこれだけじゃわかりづらいので、
作業工程の写真パネルも展示されています。





道具類も展示されています。
今では使われないような珍しいものもあります。


ここでひときわ目立つ場所に展示されているのがこれらの模型類。
昔は外国人がお土産に買っていったそうですが、
残念ながら、ワシントン条約では加工品の輸出も禁止されており、
せっかくの伝統的な鼈甲細工も、現在は国内販売しかできないのです。

ところで、上の帆船の帆のような大きな鼈甲って、
どんな巨大なタイマイの甲羅なの?
そして、鼈甲って黒っぽい斑点があるんじゃないの?

と、いろいろ疑問がわくかもしれません。
それについては、次回、実際の加工の様子をご紹介する中で説明致します。

奥には、現在の鼈甲製品が陳列されていました。




これらの品に使われているタイマイの甲羅は、
ワシントン条約の実施前にそれぞれの職人さんが
孫子の代まで使えるようにと買いだめされており、それを少しづつ使っているそうです。
しかし、当然値段も高く、毎年廃業される方が出ているそうです。
タイマイは絶滅危惧種に指定されていますが、
鼈甲職人さんも絶滅危惧職種です。