2013年7月5日金曜日

砂漠の中の宝石

エジプトの政治の混乱がまたニュースになっていて、
エジプト時代のことを思い出しました。

観光地なのにインフラ整備が遅れているカイロでは、
当時の仕事の規約で公共交通機関を使うこと、車を自分で運転すること、
自転車に乗ることなど禁止されており、
滞在していたホテルから職場まで毎日車で送り迎えだったのですが、
最初の運転手が、エジプトでは少数派(人口の約3%)のコプト教の信者で、
毎日いろいろな話を聞かせてもらいました。

滞在も終わり頃になって、たまたまイギリス時代の先生から、
知り合いがエジプトで修復プロジェクトをやっているから連絡取ってみたら、
と紹介された、イギリス在住の修復家Elizabeth Sobczinskiさんが
カイロに来た際にお目にかかり、彼女の修復プロジェクトの現場である
7世紀に建造されたWadi el Natrunの修道院、Deir al-Surianを訪問しました。
http://www.st-mary-alsourian.com/English/default.php

Wadi el Natrunは、「ナトリウムの涸谷」という意味の地名で、
Alexandriaに向かう砂漠の高速道をカイロから1時間ほど走った脇にありました。

その頃は、運転手がムスリムに変わっていた為、
もちろん地名はわかるけど、詳しい場所はわからないとあちこち探し、
待ち合わせの時間にすっかり遅れてしまいました。
Wadi el Natrunにはコプトの修道院がいくつかあるのですが、
村人はほとんどがムスリムなため、
コプトの修道院のことなんか聞いても知らないのです。

ようやく着いた場所も、高い壁に囲まれた修道院が2つ並んでいて、
奥がDeir al-Surianでした。











普段、イスラム風の建物を見慣れている目にはまさに異世界という感じです。
ドライバーはもちろん、中には入って来ません。

外との出入りはこの木の扉の入り口だけです。
壁の外から見ると、右側が修道院の壁になります。
白い車が我々の乗って来た車で、その傍に見えるのが入り口です。

建物の窓から見た外の景色です。
かなり高い壁だというのがわかるでしょうか?


彼女の運営しているLevantine Foundation

では、ここにある古い聖書などを保存するための図書館の設立と
書物の保存修復を行う活動を行っており、
不定期に海外からの観光客をここに招き、
寄付金を募っており、ちょうどその団体の説明の時にご一緒させて頂きました。
残念ながらそれらの貴重な資料の写真は撮影禁止でしたので
お見せできません。

ここで見つかった貴重な資料のひとつに、 
411年に書かれた最古のキリスト教のマニュスクリプトというのがあります。


修理中の塔にあったのキッチンの床下から出てきた
文字の書かれた破片は、
オックスフォード大学とデューク大学の教授により、
なんと、The British Libraryに所蔵されている本の
欠落している最後のページだとわかったのだそうです。
エリザベスさん曰く「彼らの頭脳はまさにコンピューター」

これを発見したというFather Bigoulさんにもお目にかかり、
一緒に修道院のご飯を食べました。
修道士さん達は髪の毛も髭も一切切らないので、
まるでオーソドックス・ジューのようでした。
(もちろん、ご本人達にはそんな事は言えませんが、
キリスト教とユダヤ教のつながりを感じました)
見た目も砂漠の色の、質素な食事です。
この日はカイロから甘いお菓子をお土産に持って行ったのですが、
皆さん目がランランと輝いていました(笑)

エリザベスさん達のプロジェクトとは別に、
ここでは、中の礼拝堂の修復プロジェクトも進んでいました。
こちらはオランダのライデン大学のプロジェクトです。


中は白い壁ですが、良く見ると

下に壁画があるのです。

この表面の漆喰を剥がして、壁画を復元するプロジェクトです。

これが、漆喰を剥がすだけでは終わりません。

天井部分は、上から漆喰をかぶせるためのとっかかりをつけたせいで
壁画の表面はズタズタです。



横壁面はかなり残っています。


漆喰の厚さはこのくらい。
下の絵具層を傷つけないように剥がさねばなりません。





人が触らないように、保護ガラスが設置されていました。

この壁面が全て壁画で飾られていたと想像すると凄いですね。

ここの修理の様子はFacebookページにもありました。
作業が順調に進んでいるようで何よりです。

トップ写真の壁画のクリーニングにはやはり和紙が使われているようです。

エジプトはイスラムが国教なので、
特にこういったキリスト教関係の遺物の保護と修理は
資金不足ももちろん大きいですが、政府の補助がほとんどなく、
そのほとんどが外国人が主導権を握っているのが現状のようです。

さらに大きい問題として、イスラムは偶像崇拝を否定するため、
古代エジプト教の像や絵画ですら、一般のムスリムは敬遠するのです。
私の運転手も、カイロ博物館など1度も見たことがないし、
人の姿の像など見たくないと言っていました。

保存修復に関しては、宗教的価値観と自国の宝(観光資源という意味を含め)
という相反する価値観のせめぎ合いのようです。

さらに、エジプトの政治が落ち着かないことには、
こういったプロジェクトもうまく進んでいかないので、
はやく国の方針が決まるようにと願っています。

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