2013年6月4日火曜日

鋸の目立て

実家の町に「○○鋸刃物店」という看板の道具屋さんがありました。
大学に入ってから実家にはほとんど帰っていなかったので、
このお店の存在は知っていましたが、何かを買ったこともありませんでした。
エジプトで仕事をしていた時に、
お土産に日本の刃物を持って行ってあげようと思いつき、
このお店に初めて足を踏み入れました。

「ごめんください」と中に入ると、裏からおばあさんが出て来ました。
お話を伺うと、ご主人が鋸の目立て屋をやっていたものの、
数年前に亡くなり、最後の注文品をお客さんが取りに来たら
もう店を閉めようと思ってる、という話になりびっくり。
お奨めの、安いけど良く切れるという小刀をとりあえず10本買って、
「数ヶ月先にまた買いに来るので、それまでお店閉めないで下さい!」
としつこくお願いしたにもかかわらず、
次に帰国した時にはシャッターが閉まっており、
中には人の気配もなく、そのまま数年です。

「ゼットソー」という商品名の、替え刃鋸が主流となってしまった今は、
鋸を目立てしてもらってまで使う大工さんも、
何よりも手動鋸を使う大工さんすら希少になってしまい、
こういう道具屋さんは絶滅寸前と言えるでしょう。
おばあさんのお店の最後の注文品も電動鋸でした。

その後、日本のある地方都市に住んでいた時のこと。
路地をうろついていたら、珍しい「鋸の目立」の看板を発見しました。


実家の町のお店の件もあって、せっかくなので目立てをしてもらおうかな、
と、数日後に手持ちの鋸を2本持って行きました。

お店の名前と場所は伏せさせて頂きます。

常連さんでない人が鋸の目立てを頼みに来たからか、
珍しがっていろいろ見せて下さいました。

 こんな複雑な形の金鎚とか。

角度を変えて見ると形が違う金鎚とか

自分たちも切り出しなどの裏出しに使う刃鎚とか、
いろいろ駆使して刃の「あさり」を作ったり、平らに直したりするそうです。

これが、鋸身を挟む板です。
あと、写真を撮り損ねましたが、
大きな四角い金床が商売道具だとおっしゃっていました。

で、肝心の仕上がりですが、
家の前に置かれていたグラインダーの存在に注意するべきでした。

鋸は身をかなりグラインダーで削られてしまい、
あからさまに傷が目立つ、とりあえず切れるだけの仕上がり。
高い鋸を頼まなくて良かったということと
いくら昔からやっている職人さんでも、腕や直しの方針は別ものだ、
という、社会勉強になりました。
高い鋸を使うなら、鋸の目立ても自分でできるようになるか、
それなりの腕のある目立て屋さんに頼まねばならないと、
改めて反省です。

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