2011年の夏にブータン漆調査を行った際、ガイドのTさんから、
モンガルから車で3時間半くらいのケンカル(Kengkhar)に
酒筒パラン(Palang)を作る工房を知っているけど行くか?と言われましたが、
未舗装の道だということで、雨季の土砂崩れも怖くその時は諦めました。
その2年後の2013年、ブータンのテレビ局BBSのウエブサイトに、
足踏み轆轤を使って酒筒Palangの製作を行っている職人の記事が
動画入りでアップされました。
(現在動画は見られなくなっています)
タシヤンツェでは既に足踏み轆轤を使う職人がいなくなっており、
ここも早く見に行かないと電動に変わってしまう!と思いつつ3年、
今年ようやくKengkharを訪問することができました。
道中、一部舗装したての道も通れたものの、
その後は崖っぷちの砂利道続きです。
途中、土砂崩れの場所を何度も通ります。
道が落ちそうな場所も、車幅ギリギリの場所も何度もあり冷や汗ものです。
今日泊まる村はここだとのこと。
車で入れる道は途中で閉鎖されており、
そこに宿泊先の農家のご主人Sさんが待っていてくださいました。
そこに宿泊先の農家のご主人Sさんが待っていてくださいました。
Sさんとと運転手のWさんに
重いスーツケースを担いで運んでもらうのも申し訳ない限りです。
重いスーツケースを担いで運んでもらうのも申し訳ない限りです。
Sさんはタラヤナ財団の援助で家を建ててもらったそうで、
家もまだ新しかったです。
この地区でつくられるPalangもお宅にいくつもありました。
Sさんによれば、BBSの記事に出ていた職人さんの村は、
ここから歩いて2日がかりになる場所なので、
もう少し近いところにいる職人さんの工房に連れて行ってくださることになりました。
近いと言っても、やはり徒歩で1時間近くだったでしょうか?
連れてきていただいたお宅で、まずはなぜか仏画師さんの工房へ。
仏画(タンカ)は仏様への奉仕となるので、
仏画師に場所を貸すのは一種の功徳になるということですが、
実はこの方は職人さんの息子さんでした。
その間に、Sさんが勝手知ったる、という感じで、竃で火を燃やし始めました。
竃の上には麹の種。
これでお酒を作ります。
それを珍しそうに見るお嬢さん。
こんな山奥でもキティちゃんです。
目の前にPalangに使う木が植えてありました。
地元でドンツォ・シン(Boehmeria rugulosa)と呼ばれる木です。
(BBSにはGongtshong shingとありますが、同じ木だと思います)
この材は腐りにくいことから、特に酒筒に使われるのだそうです。
台所の床下に材が保管されていました。
さて、火が必要だった理由は、
木地を轆轤の回転軸に取り付ける、
色を煮出した後のラック樹脂「ラチュ」を溶かす必要があったからです。
現役の足踏み轆轤です!
木地師のDさんの横で慣れた様子でペダルを踏むのはなんとSさん。
木地師のDさんの横で慣れた様子でペダルを踏むのはなんとSさん。
息もぴったりで、いつも一緒に仕事をしているような感じ(笑)
挽いているのはお椀の木地です。
ペダルの間に棒を一本たてて、ペダルが絡むのを防いでいます。
これはいい工夫ですね。
Dさんが足踏み轆轤を使われている理由は、
伝統の方法を守っていきたいということと、
貧しいので電動轆轤が買えないからという2つの理由を教えてくれました。
しかし、後でガイドのDさんが言うには、
実は轆轤用のモーターは買ってはみたものの、
この地域の電圧が弱くて使えなかったのだそうです。
そういえば、仏画師さんの工房の隅でモーターを見かけていました。
Palangの木地はこれです。
底を抜いた筒状に作るのですね。
轆轤カンナの柄はタシヤンツェの職人さんより長めですが、
やはり全体を彫り抜くには別の刃物も使うようです。
ところで、なぜ今回このPalangを作るところを見せてもらえないのか
職人Dさんに伺ったところ、
実は木地を回転軸に接着するラチュがもうなくて、
大きい木地が接着できないからというお返事。
私は昨年のブータン調査で深刻なラック不足を聞いていたため、
今回、日本の染色関係の方から、
色素を煮出し後不要になったラック樹脂をいただいていたものを
木地師さんにあげようと持ってきていました。
公共バスの便もない山奥ですから、ラチュの入手もさぞかし大変だろうということで
この職人さんにラック樹脂を差し上げることにしました。
(ご提供くださったY先生、Kさん、ありがとうございます)
それをガイドのDさんを通して職人Dさんに伝えてもらいましたが
Dさんも最初は状況を理解できなかった様子。
この後、我々の宿の農家まで取りにいらして、現物を見てびっくり。
大変喜んでくださいました。
日本の染色関係者が捨ててしまっていたラック樹脂が(もともとはタイやブータン産)
この地で新しい工芸品の製作に役立つというのも不思議なご縁です。
さて、この後はどのようにPalangが完成するかを見に、
別の職人さんの工房にお邪魔します。
(続く)
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この調査はサントリー文化財団の助成で行われました。
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