ここまで鼈甲、象牙について私の見聞きしたことを書いて来ましたが、
現代では世界中の手工芸全般が既に絶滅危惧職種とも言えるかもしれません。
作り手がいても、材料を採取する人、道具を作る人がいなくなってしまえば、
作り手の負担も増えるだけでなく、素材を吟味できなければ完成品の品質も
それなりになってしまいます。
頑固な職人さんのうちには、自分の納得いく素材が手に入らないからと
廃業される方もおられるのも仕方ないのでしょう。
最後ですが、ワシントン条約と言うと思い出すのがクジラです。
日本には、クジラの歯や骨、髭を加工する「クジラ細工」というものがあります。
これは、長崎の「海洋工芸社」というお店のディスプレイです。
こちらも、これまでのストックを大切に使いながら加工を続けられているそうです。
クジラの工芸品への利用は、この「鯨研通信」に詳しく書かれていますが、
東北、和歌山、長崎と、捕鯨が行われていた地域に残っているようです。
有名どころで、クジラの髭は文楽人形の頭や、
カラクリのゼンマイに使われているというのは皆さんもご存じかと思います。
髭と言っても毛でなく、
先が毛のように裂けた黒っぽい爪のようなもので、
クジラはこれでオキアミや小魚を漉しとって食べるのです。
上から、ナガスクジラ、イワシクジラ、ミンククジラのヒゲです。
クジラの髭は漆の篦としても使われていたのですが、
現在ではプラスチックの篦が圧倒的に普及しているため
現物を見たことがない人も多いと思います。
クジラの髭の篦材を扱う漆道具店も少なくなり、
あっても一本数千円もするため、こだわる人しか使えないだけでなく、
真ん中に置いているのがイワシクジラとナガスクジラのヒゲで作られた
漆用の篦の材料として販売されている材です。
象牙や鯨の利用について、日本に6年くらい住んで剣道をやっていた
イギリス人の友人と議論したことがあります。
象牙椰子というものがあるというのを教えてくれた友人です。
日本人も象牙椰子をどんどん使えば良いのに、
どうして象の牙になんかこだわるのか、とか、
鯨なんか使わなくても現代はもっといい素材があるだろう、とか。
いくら説明をしてもなかなかわかってもらえないのは、
目に見えるものだけでなく、見えない部分を大切にするという
日本の宗教観と言うか、何と言うか。
ことばが通じる、通じないという以前の問題で
いつも難しいなと思います。
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