終戦記念日が過ぎたところで、こんな本をご紹介してみます。
上村六郎著の「戦時の本染」(左:昭和19年)と、「野草の染色」(右:昭和20年)です。
この2冊の内容はほぼ同じなのですが、お察しの通り、間に終戦を挟んでいます。
ですので、後者はタイトルだけでなく、
本文中の「戦時」が「非常時」と変更されています。
内容は、とにかく身の回りの材料を有効活用して染めを行うというものですが、
もちろん、派手な色はご法度な時代です。
色見本として貼られているのは玉ねぎ、栗で染められた、
いわゆる「国防色」を基本とするものです。
玉ねぎの皮の鉄媒染
栗の葉の鉄媒染
栗の葉の鉄媒染の上に石灰媒染
(左が「野草の~」右が「戦時の~」の色見本ページ)
どれも草木の美しさよりも当時の世相を映し出しているようで、
きれいに染め上がったとしてもうれしくなるような色ではありません。
もちろん、当時はそんな色を染めていたら非国民と言われたのでしょうし。
あと、個人的には鉄媒染は繊維を痛めるので、極力使いたくない材料です。
江戸時代以前の染織品の調査をすると、
必ずといっていい程、箱の中に細かい粉があります。
その多くが鉄媒染で劣化して粉になった黒や褐色の糸でした。
黒の輪郭線だった糸がなくなり、寝ぼけたような柄になった着物や、
クシャミをしたら全部が粉になって飛んで行ってしまうような
絹の袋も何枚か見ました。
それ以来、鉄媒染は怖くてできません。
著者のステートメントもなんとも息苦しいものです。
使い方によってはこういった色もきれいに見えるのでしょうが。
しかし「戦時の本染」の表紙(和紙に手刷り)と、見出しページの図案は、
内容を考えなければとても美しいものです。
逆に、終戦後の「野草の染色」は、物資も乏しい中でやりくりしたのか、
表紙も地味なのですけれど、さすが和紙についても詳しい上村氏のこだわりで、
苦心して部分部分に何種類かの和紙を使われておられます。
とにかく、着る人使う人が嬉しい染めができる世の中が続くことを願うばかりです。
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