今月のブログの更新が滞ってしまった最大の理由は、
現在、インドにラックの調査に来ているからです。
インドのビハール(Bihar)州から2000年に分離した
ジャールカンド(Jharkhand)州の首都であるラーンチー(Ranchi)は、
人口が100万人以上の、日本で言えば政令指定都市に相当する市ですが、
これと言う目立った観光地もないため、
地球の歩き方をはじめとする日本のガイドブックには地名がやっと出ているくらいです。
この調査旅行のコーディネートをお願いしたインドの旅行会社の人からも、
ラーンチに行く日本人を扱うのは初めてだと言われましたが、
私の知っているだけでこれまで少なくとも10人以上の日本人が
ラック目的で訪問しています。
ラックカイガラムシKerria laccaは氷点下になる環境で死滅してしまうため、
残念ながら日本では育てられません。
その為、冬でも暖かいインドをはじめとする東南アジアの温暖な地域で
養殖が行われているのです。
旧ビハール州に属していたビハール、ジャールカンド、オリッサの3つは
古くからインドのラック生産の中心地であり、
その中央のラーンチの郊外のNamkum地区に、
元インド・ラック研究所(Indian Lac Institute)、
現在はインド天然樹脂研究所(Indian Institute of Natural Resins and Gums)
があります。
現在はインド天然樹脂研究所(Indian Institute of Natural Resins and Gums)
があります。
この研究所は1924年にイギリス人が設立したもので、
所内の敷地には当時植えられた木々が大木になってあちこちにありますが、
それらのほぼ全てがラックカイガラムシの宿生木です。
入り口から入ってすぐのところに立っている記念碑の横には
ラックカイガラムシの幼虫の図が描かれており、
ラックの最初の利用の記録は、Atharveda-V(5) 3500-3000BCの
薬としての利用だと刻まれています。
最初に建てられたという建物に1924年の礎石があります。
ここには現在30人の科学者がそれぞれの分野でラックについて研究している他、
図書館やミュージアム、宿舎、ラック製品の売店も備えており、
ラックを養殖したい人にアドバイスや訓練を行ったり
様々な農業関係分野の研究発表会も逐次開催されています。
アッサム州から5日間のラック養殖研修を受けに来ていた皆さんです。
この研究所の裏手には広大な農園があり、
各地から収集されたラックカイガラムシの宿生木と、
ラックカイガラムシが育てられている遺伝子バンクや、
育てたラックを収穫し、粉砕加工ができる施設も備えています。
見渡す限りの農園は、様々なプロジェクトごとにそのエリアが区分けされています。
これらのうちの巨木はイギリス人が何もない土地に植えたものだとか。
別名「セイロンオーク」と呼ばれるKusumの木、
Scheichera oleosaがまるで軍隊のようにきれいに並んでいます。
これは、より多くの木を一度に見渡す為の工夫だそうです。
下の方を白く塗ってあるのは、
この時期発生するシロアリの駆除薬を石灰に混ぜたものだそうです。
こちらは日本名で「花没薬の木」
現地名でPalasと呼ばれるButea monospermaです。
2−3月頃には真っ赤な花をたくさんつけるため、
遠目にはまるで山火事のように見えるというこの木の葉は、
このインド天然樹脂研究所のシンボルマークになっています。
ちなみに、この葉は食事を入れる使い捨て容器として
市場や町中の屋台で見ることができます。
自然に土に還る元祖エコな使い捨て皿も
残念ながら近年はプラスチックや紙皿に取って変わられてしまっているそうです。
さて、長々と書いているのに、
なかなかラックカイガラムシもラックも出せずすみません。
ラックとは何ぞや?という方もおられるでしょうから、
まずは工場で加工された「シードラック」の見本をお見せします。
シードラックとは、ラックカイガラムシが分泌した樹脂、「ラック」を
粉砕・洗浄したものです。
何故色が違うのか、粒の大きさが違うのか、などなどについては
次回以降に少しづつ説明していきます。
※この調査は生き物文化誌学会「さくら基金」の助成を受けて行われました。
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