2016年6月17日金曜日

東ブータンの染色1: 素材のいろいろ

5月から6月にかけて、ブータンに漆の調査に行っていました。
かつて漆器製作を行っていた地域での漆の木の存在確認と、
ブータン漆器の木地製作に欠かせない素材のひとつ、
染めに使った後のラックの塊「ラチュ」を入手できないかということで、
東ブータンのRadiに行きました。

宿からはこんな感じで向かいの村が見えますが、
谷の反対側のRadiの方が土地が肥えていて、豊かなのだそうです。

絶好の染め日和!

すでに竃に鍋もセットされてます。

実は、せっかくなので
ラック染めの様子をぜひ見せてもらいたいと思っていたのですが、
残念ながら近年のラック不足で、
インド産の合成染料を混ぜて使っているとのことでした。

これがインド産の合成染料の箱。日本円で一箱100円くらいです。
"Industrial Use Only"とあります。


粉末ではなく固形です。

下がラックだけで染めた糸、
上が染料を加えて染めた糸。
合成染料だけでは染めないというのもちょっと不思議です。

他の天然染料での染めを見せていただくことになりました。

それぞれの素材を並べて準備してくださっていました。
左上から
リュウキュウアイ(Strobilanthes cusia)の生葉と、ブータンの藍玉。
藍玉は、葉っぱを丸めて乾燥させるだけで、何も混ぜていないそうです。
藍の葉がついた木は見たことがある?と聞かれたので、
あれば見せて欲しいと言ったところ、
ほぼ坊主になった鉢植えがありました。

ウコン。これはカレーに入れるウコンとは若干違う種類だそうです。

茜。日本の茜と違い、木質化した蔓を使います。
この近所にも生えているのですが、これはわざわざ別の村から買うそうです。

黄色いビニール袋の中身はリュウキュウアイの生葉です。

ボケの実(コマン)を乾燥したもの。
日本のボケよりもかなり大きな実です。
雲南省では鍋料理に入れられていましたが、
酸度調整に使われます。

そして、ブータンのラックです。
昔はこの近くでも養殖されていたと聞いていたのですが、
この宿の奥さんPさんは昔からモンガル州の人から買っていたそうです。

そして、もう一つ、ブータンの染めに重要な材料がこれ、
"シンシャバ"と言われる下染めの葉です。
前夜から細かく刻んで水に浸してありました。
藍染以外の全ての染めの下染めに使うとのこと。
ブムタンで使われているハイノキ科の木の葉ではなく、
ツヤと厚みのある緑色の濃い葉のようです。
これの完全な形の葉はないの?と聞いたら、

こんな枝だけになったものしかないということで、
正確な種名は残念ながらわかりません。
葉のつき方から、マメ科の木でもありません。
峠のような標高の高い場所にしか生えない木なので、
この近くにはないとのことでした。

そして、糸はインドのメラ・バザールで入手する
ブラという野蚕の紡糸です。

これと、日本から持ち込んだ布も使っての染め開始です。
(続く)


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この調査は2015年度サントリー文化財団の助成を受けて行われました。

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