ホームセンターや画材店だけでなく、
100円ショップでもさまざまな道具が手に入る世の中になっても、
まだまだ自分で作らないといけない道具があります。
蒔絵では金粉を磨く「鯛牙(たいき)」という道具を使います。
過去にこれを作るのに、あちこちのスーパーで大きめの鯛の頭を探し、
その中でも大きめの歯がついたものを買い、竹の箸に接着して作りました。
おかげで、鯛の兜煮や兜焼きを何度食べたことか・・・
しかし、スーパーで売るような鯛では大きさに限界があるだけでなく、
形や歯の状態も重要で、
何十本も作ったものの、
やはり、大相撲の優勝力士がもらうくらいの大きさの鯛でないとダメかなあ、
相撲部屋にお願いしようかな、
でも、優勝力士を出す部屋じゃないとダメだよな、
などと考えたこともありました。
これらは漆芸家のY先生お使いの鯛牙です。
さすがに立派な牙です。
この他に、昔は広い面積には犬の牙「犬牙(けんき)」も使われていたそうですが、
ヨーロッパのギルディングでも犬牙の磨き棒は使われていました。
大きさや形状が使いやすいのでしょうが、
さすがに犬の牙を入手して使うのは
今の世の中ではためらわれます。
イノシシの牙の「猪牙(ちょき)」も
紙の上に書いた金銀の文字を磨く際に用いられます。
このように専門店で販売されているものは、
お値段も相当です。
最近、山にイノシシが増えて農作物などに被害を与えていますが、
退治された猪の牙がどうなってしまうのか、気になります。
さて、ヨーロッパのギルディングや、黄金背景テンペラに使われるのは
主に瑪瑙の磨き棒です。
市販品はかなり高いので、
100円ショップや流行のパワーストーンの店で売っている
端材でつるつるした石の形の良いものを
細い竹筒の穴に差してエポキシパテで固定させると
立派な磨き棒になるというのを
画家のI先生にご教示頂きました。
石は衝撃で割れやすいので、
切り売りのホースを切って石の上にかぶせておいた方が良いとも
アドバイス頂きました。
イギリスの学校ではギルディング用の台(ギルディング・パッド)も自作しました。
ベニヤ板と鹿皮の間に硬質ウレタンフォームを入れ、
周囲を鋲で留めるだけです。
左が市販品(羊皮紙の風避けつき)
横のしまつはこんな感じです(左が自作品)
裏側には、親指を入れる部分を作ります。
左が自作品で、どちらも中にクッションが入っています。
鹿皮は自動車手入れ用のセーム皮を使うか、
端切れのスウェード皮を使います。
ギルディングナイフは、町中にあるチャリティショップで、
食事の時に使うナイフの古いものを探して来て研ぐだけ。
上が市販品、下が中古のステンレス刃の食卓用ナイフです。
ちょっと手入れが悪くてお恥ずかしい(苦笑)
(ハンドルは、元々象牙で作られていたのを真似たプラスチック)
パッドだけで日本円で1万円、ギルディングナイフも5000円くらいしますので、
市販品があっても自分で作るというのも良いですね。
話は漆に戻りますが、
漆では、漆と顔料を練る「練り棒」というものも作らねばなりません。
現在では絵具のように既に練った色漆も販売されていますが、
漆はどうしても顔料と分離しがちなため、
市販品は顔料を倍にして練ってあり、
使う前には顔料の入っていない漆を足して練り直さなければなりません。
もちろん、粉の顔料と漆を自分で練った方がはるかに安く、
我々の時代の東京では既製品もなかったので、
漆を勉強しはじめた時にまず最初に作る道具のひとつでした。
画材店で売っているガラスの練り棒は
油絵具を練るには良くても
粘っこい漆では使い辛いのです。
我々が先生から教えてもらった基本形は
これが少量用
これは大量用。(Hさん提供)
さらにM先生ご推薦の、磁器のドアノブです。
これはイギリスの古道具屋で見つけたものですが、
M先生によれば、日本の古い西洋建築のドアノブが一番使い勝手が良いそうです。
今では見つける方が大変ではありますが。
前出のY先生の仕事場を拝見した際
見せていただいた練り棒には仰天。
おわかりでしょうか?
折れた野球のバットの柄だそうです。
これは間違いなく持ちやすそうです。
さらに、ある職人さんのところを見学に行った際は
木固めと朱漆練りを同時にやってしまうという最中で
こんな練り棒、というか練り板をお使いでした。
先端の角を斜めに落としただけの板です。
拝見していて、これも確かに使い易そうでした。
道具というものは実際使ってみなければ使い勝手はわかりませんし、
色漆を練る量などにもよっても違います。
なかなか本には出て来ない他人の道具を見るというのは
大変興味深く、勉強になります。
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