2019年7月21日日曜日

理想の色と化学染料(2)

これまでも何度か化学染料の染めは見る機会がありました。
これはラオスで見たもの。

タイ製の染料のようです。
この袋の粉末を沸騰したお湯に入れて溶かし、
糸を入れて加熱するだけ。助剤もなし。

加熱もわずか10分くらいでした。
「今はこんな便利で綺麗な色が出るなものがあるのだから、
天然染料にこだわる必要はない。
でも、加熱している時は臭いけどね」

天然染料では絶対に出ない色合いです。
こんなに簡単なら専門の染め職人なんか必要ないなあ、と思っていました。

アッサム州のブータン国境近くの染色工房を見るまでは。

メインストリートから歩いて数分の場所に工房はありました。
創業してから30年ほどだそうで、それほど古くはありません。
ブータン染織品の色が揃っています。

ご主人は糸の精練の最中でした。

左は機械紡ぎ、右は精練前の手紡ぎの野蚕(ブラ)糸です。
これはどちらも精練済み。左が手紡ぎ、右が機械紡ぎです。

この工房が使っているのは全て化学染料です。
さっそく、これから染めるところを見せてくれることになりました。
鍋の水は100リットル、
機械紡ぎの糸よりも、手紡ぎ糸の方が水をたくさん必要なのだそうです。

精練済みの糸5kg分はあらかじめ2本づつの棒にかけたものを
9つ分準備してありました。

25歳の息子さんが染料の準備に入ります。

あれ、染めるのは1色ですよね?

実はラック色を出すには、赤、ピンク、紫の3種の化学染料を
15:15:1という微妙な割合で配合しているのだそうです。

黄色を出すには黄色と黄緑の2種、
緑は4色、深緑は3色、藍色は3色、などなど。
配合比は秘密かと思いきや、それぞれの重量も続けて教えてくれはじめたので
慌ててメモをとりました。
(ピンクとオレンジだけは染料1種のみでしたが、入れる量が異なりました)

そして、サンプルとしてその比率の染料を小分けしてくれました。

これらは直接染料で、助剤には塩酸を使うそうです。
このポリタンクに入っていたのが塩酸です。素手でマスクもなし。
塩酸も持っていくか?と言われましたが、さすがにお断りしました。

これを沸かしておいたお湯に溶かしてよく混ぜます。


そして、糸を一気に鍋に入れて染めます。
2本の棒をうまく使い、糸同士がからまないように動かしています。

たった1分でこんな色になりました。

この後、高温で最低30分(でないと色が褪せやすい)
5分おきに糸をひっくり返しながら煮続けるそうです。

この近くにラックの産地がありますが、
25歳と18歳の2人の息子はラックを一度も見たことがないそうです。
55歳のご主人は、昔使っていたことがあるけれど、
値段が高いので、いつも化学染料と一緒に使っていたとのこと。
ラックだけだと色が薄く、鈍いのだそうです。
その他の天然染料も然り、でしたが、
唯一、酸度調整用の乾燥ボケの実がありました。
ブータンでは「コマン」と呼ばれる酸っぱい果実です。

ここはインド人用の糸も染めており、
インド人は機械紡ぎの糸を好み、
ブータン人は手紡ぎ糸を好むとのこと。
こんな布になるんだよ、と見せてくれました。

ちなみにこちらもムスリムのご一家で、染め作業は全て男性がやっていました。
完成した糸の鮮やかさ(周囲の光と空気の影響は大きいです)
作業中の皆さんの無駄のない動き、
そして、各色の染料の配合比を全て暗記している(!)。

彼らにとってこれらの色は「記号」であり、
「記号」少しでもが違ったら、意味が変わってしまうのです。

もし将来、この化学染料が製造中止になっても、
彼らは試行錯誤を繰り返し、
目指す色を染めるための最適な配合を見つけるでしょう。

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