カンボジアの伝統絹織物の復活に尽力された森本喜久男さんが
7月3日にお亡くなりになりました。
森本さんと親しくお付き合いのあった方とは違い、
偉そうな追悼分も書けませんので、しばらく考えておりました。
私はカンボジアに行ったことがありませんが、
日本で二度お目にかかりました。
そのうちの一回が、2014年4月に開催された、
森本さんは社会貢献的な部分での評価と報道が多くされていますが、
実際にどのように自然物を使った染めをされているのか、
カンボジアに行かずとも見られる、またとないチャンスと思い参加しました。
1泊2日のワークショップの詳細を書くのは、
これが森本さんの絶対的な方法だと思われてしまっても困りますので、
数年経過した今、思い出したことを書いてみます。
「木綿は自然の色素に染まりにくいといわれているけれど、
灰汁でしっかり精錬すれば染まる。
灰に水を注いで、上澄みがヌルヌルしていればOK。
一番良いのはバナナの灰。」
バナナはカリウムが豊富な植物ということが知られていますが、
つまり、炭酸カリウムが豊富で精錬に適しているということでしょう。
ヌルヌルは、漂白剤を触ると手がヌルヌルするのと同じく
アルカリで皮膚や油脂が溶ける、
つまり繊維の油やタンパク質を落としてくれるということです。
しかし、残念ながら日本でバナナの木は暖かい地域でないと育ちません。
バナナの皮でも大丈夫と言われましたが、
なかなか大量に手に入れることはできないですね。
日本にあるカリウムが豊富な木は何でしょう。
「木綿はオーガニックの方が染まりやすい。」
最近、処分品で買った白い木綿のTシャツを染めたのですが、
何度も精錬したり、タンニンで処理してから染めても定着しませんでした。
オーガニックコットンはお値段も相当なので
自宅で育てている綿の木からの綿が十分たまったら
糸にして染めてみようと思います。
「染め材は細かく砕いてよく煮て、持っている色素を全部いただく。
そして、必ず細かい布で濾す。
染めには時間をかけること。一晩、1日置いたっていい。」
「鉄媒染用のお歯黒は鉄とライムと黒砂糖で作る。」
カンボジアは暖かいので、外に放置しておけば十分だけど、
石徹白は気温が低いので、ということで、鍋を火にかけました。
かつて、黒い漆「呂色」を作るのにもお歯黒が使われていました。
江戸時代には、古釘に熱した焼酎を注いで放置したり、
お酢を注ぐ方法がとられていました、
酢酸鉄、クエン酸鉄、タンニン鉄の違いで、
それぞれ若干色味が異なるので、
現在、呂色漆を作る際には硫酸鉄や水酸化鉄をベースに
複数の酸化鉄を混ぜて色の深みを出すそうです。
以前ご紹介しましたが、私は以下の方法でお歯黒を作っています。
ケヤキの樹皮で染めた二重織りの絹のストールを
明礬で媒染した後、水洗いし、広げて見ていたら、
森本さんが「ちょっと貸してみて」と、下の方だけをお歯黒液に浸します。
手は染まってないよ、と見せてくださいます。
お歯黒液につけたところはみるみるうちに色が変化して、
こんなシルバーグレイと黒に近い焦げ茶に変化しました。
この瞬時の判断、さすがだと思いました。
「黒色はアーモンドの葉を使う。」
森本さんが2日目にかけていらした黒いショールがそれのようです。
しかし、アーモンド??
イギリス在住時代、2月頃、近所に桜によくにた花が咲いていて、
大家さんによればアーモンドの花だとのことでした。
カンボジアのような暑い国に育つような木にはとても見えなかったので、
不思議に思っていました。
そして、2月のラオス調査で
大きく真っ赤な葉っぱを発見。
寺院の庭にあったこの木は、日陰を作るために植えられているようです。
帰国後、植物に詳しい友達に聞いてみたところ、
モモタマナ (Terminalia catappa)だと言われました。
別名、Indian almond。
これで謎が解けました。
日本では沖縄や鹿児島など暖かい地域にしか育たないようです。
先に知っていたら落ちていた葉っぱを全部拾って帰ったのに。
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森本喜久男さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。