2015年1月20日火曜日

インド博物館

今年3月から東京国立博物館で
開催されるということで、
せっかくですからインド博物館もご紹介します。

インド博物館はコルカタ地下鉄のPark Street駅からすぐの場所にありますが、
すぐ近くにNew Marketという大きな市場があるために、
入り口の近くまで出店が一杯です。

入り口前には人だかりがしてはいますが、
中に入る人ではないようです。

入場券は入り口の左手方向にある窓口で購入します。
インド人は10ルピー、外国人は150ルピー、
その時にカバンは預けなければなりません。(無料)
カメラ撮影は一台ごとに50ルピーで、カメラにタグをつけてもらう必要があります。
入り口入ってすぐにあるのが生命の木です。

1814年設立のインド最古の博物館ですから、去年が設立200年だったのですね。

 建物はVictoria and Albert Museumを彷彿とさせる
中庭をぐるりと囲む形の建物となっていますが、

ご覧のようにあちこち工事中でした。

V&Aと違うのは、中庭に面した通路は中庭に向けたバルコニー形式になっているところが
寒いイギリスとは違う、コロニアル様式となっています。

さて、展示の方ですが、
エジプトのカイロ博物館を彷彿とさせる、
イギリスのヴィクトリア風の展示ケースが並んでいます。
で、奧に見えるのはもしや象の化石?
そうなんです、ここは自然誌博物館も兼ねているのです。
ですので、染織や工芸品の展示室はなんと鳥類や魚類の剥製や模型が展示されている
二階右の動物コーナーの奧にあるとか、(年末の休暇中で親子連れでごった返し)
他国の博物館では考えられないような配置な上、
現在、中庭だけでなく展示室もかなり工事中でした。

しかし、いくら日本で巡回展があったとしても
持って行けなさそうなものはたくさんあります。
これがその一つ、
マディヤ・プラデシュ州で1878年に発見されたBharhut仏塔にあった
紀元前2-3世紀頃に作られたという赤い砂岩でできた門と柵の現物です。
最初見た時は鋳鉄で出来ているのかと思ったくらいですが、
表に合成樹脂を塗って保護しているようです。

で、これがシッタルーダの一生を浮き彫りで描いているのです。


これが面白くて、ここだけで30分くらい費やしてしまいました(笑)
 その他、ガンダーラ仏や、
 もちろん、ヒンドゥーの神像コーナー(圧倒的な数)

そして、鳥類コーナーの奧の工芸品コーナー、
さらにはエジプトコーナーまで(ご覧のようにミイラが大人気)。

工事中で半分くらいしか展示室が開いていないにも関わらず、
3時間半ではとても見切れないボリュームでした。

さて、工事中のために売店も閉まっていたのですが、
カタログだけは奧の方の事務所で買えると言われ、探しに行きました。
右の回廊をずっと先まで行って、トイレを越した先にこんな場所が。
この左手の真ん中くらいに図録売り場があります。
売り場というよりは事務所みたいなところなので、
まずはパンフレットをもらってそこから欲しいものを頼んで出してもらいます。
日本で開催された仏教展のカタログもありました。
図録が欲しい方は忘れずにご訪問を。

ところで、この博物館にはカフェテリアやレストランなどの設備はありません。
みんなお弁当を持って中庭でピクニックをするようです。

2015年1月19日月曜日

ラーンチーの工芸品

ラックの他にももちろんインドには様々な美術工芸品があります。
私が訪問したRanchiには、インド天然樹脂研究所の他に、
この地域の特産の野蚕の一種であるタサール絹の研究や
希望者へ養殖やタサール加工についての職業訓練を行っているそうです。
残念ながら、ここの見学は最低半日かかると天然樹脂研究所のラマニ所長に言われ、
また次回来た時に、となりました。
このサイトを見ると成虫の羽の模様が結構怖いので、行かなくて良かったかも?

しかし、せっかくなのでお土産にタサール絹の布か糸が欲しいと伝えたところ、
市内のMain Roadという、その名の通りのメインストリートにある
服地の専門店に連れて行ってもらいました。

ラマニ所長が連れて行ってくれた店は、
政府関係者が使う布も扱うという老舗だそうで、
絹だけでなく、木綿やウールなどの高級布地ばかりの感じです。

見せてもらった布はそれぞれ質が違いますが、どれもタサール絹だそうです。
左はおそらく蚕蛾が出た後の繭から取ったギッチャだと思います。

後で調べたところ、左上の黄色いものは半養殖もののようです。
ラマニ所長によれば、卵から幼虫に孵化する最初の頃は家の中で飼って、
ある程度大きくなってから外に出すという方法だそうです。

タサール絹は我々の知るクワの葉を食べるのでなく、
オークの仲間の木の他、
Asan (Tilia tomentosa、シナノキの仲間)、
Arjun (Terminalia arjuna)の葉を食べるそうです。
このArjunの方は、染め材として販売もされている「さだらの木」のことだそうで、
樹皮はタンニンを含むということから、
このような茶色い色の糸ができるのですね。

インドだけでなく、無地の布を探すというのは意外に大変ですが、
値段はやはりそれ相応だったものの、ラマニ所長のおかげで良いものが買えました。

無地に拘らなければ、ラーンチーのMain RoadにはJharcraftという店舗もあります。
4階まである大きな建物です。

ここではJharkhand州の手工芸品の他、蜂蜜や石鹸などの製品も購入できます。

布類はさまざまな加飾が施されたものです。

中には、こんな手描きのスカーフや、

手刺繍のものや、

木版印刷のものがあり、それぞれが珍しく面白いです。

インドの絹製品は、このラベルがついていれば安心して買うことができます。

 布製品の他にはラックの腕輪や革製品、紙製品、

 メソポタミア時代からあるというDhokraの真鍮細工。
 ロストワックス製法で作られているそうですが、
そのワックスとはラックと土を混ぜたものらしく、
今度は作っている村にも見学に行きたいです。

焼き物の仏頭の上にジュートの毛を植えた置物。
中国のガンパウダー茶みたいです。

これらの他に、竹筒の表面に彫刻を施したものがありました。

魚の模様が彫られています。

片側は只の穴ですが、

もう片方にはこのような金具が填まっています。

ラマニ所長に教えてもらいましたが、
これは、金具のついていない方の端を持って回すと音がする
Wind Fluteというものだそうです。
竹の太さや厚みによってか、それぞれ音が微妙に異なり、
面白いので一本買って帰りましたが、
スーツケースに収まらない長さで、持ち帰るのはちょっと大変でした。
YouTubeに動画がないかと探しましたがありません。
これは直接音を聞かないとそのおもしろさがわからないのですが、
インド各地に同じものがあるらしいので、
行かれた方は探してみてください。

2015年1月10日土曜日

ラックを訪ねて1500里(10)

滞在中にはたまたま「インドの田舎の栄養環境を改善する国際会議」
というものが研究所で3日間開催されており、
無関係の私もたまたま外国人ということだけで壇上に引っ張り出されたり、
さらにその期間中には州の総選挙もあり、
国の機関である研究所の職員も選挙事務に駆り出されて不在だったりで、
所内の見学も通常の順番通りにいかず、
皆さんがお忙しい時は付属図書館に行っていました。

 農業省の施設のため、ラック関係だけでなく
多くの農業関係のジャーナルや雑誌が収蔵されているのでこの蔵書数です。
必要なものはコピーさせてもらえるのですが、
お手間をかけるのも悪いのでデジカメで撮影させてもらいました。


インドでしか出ていなさそうな古い本は鍵付きの書庫に入っています。

当初は、ここまで皆さんがいろいろあちこちに連れて行って下さると思っておらず、
最悪一週間図書館でもいいや、と思っていたくらいですから、
資料を全部調べるなんてことも到底できず、
出してもらった担当者さんのお勧め本1冊と、大昔の博士論文2部を読んだくらいで
あとは在庫がある研究所の古い出版物を購入してきました。
簡単に購入と言っても、
まずリストをもらって在庫を探してもらい、
一部はすぐに見つからないのでまた後日となり、
都合2日かかりました。
一部の稀少な古い本は虫害に遭っていて買えなかったのは残念でした。

そんな感じで、出発の前日になってようやく残っていたCoating Labを見学できました。
ここは、塗料としてのラックについて研究している施設です。
これは通常の家具ワニスとしての模型です。
ちゃんと人に見せられるようにこういうものが準備されているのですね。

ここで開発した水溶性のラックを塗布した竹と土器です。

ラックはアルコールの他にアルカリでも溶けるのですが、
硼砂や鹹水などでは水分の蒸発後にアルカリが残留するため、
木や竹を傷めてしまうことになるけれど、
アンモニアは揮発してしまい残留しないので、
素地を傷めない上耐水性になるということでお勧めだとのことでした。

その他、ラック博物館にあったような金属の保護塗装や、

近年流行のマニキュア、

同じく博物館に展示されていた歯医者での型取りサポート材。

電球の接着材。ラックの電気絶縁効果を利用しています。

石やセメントにも塗布できるエマルジョンペンキや、

え、屋根の波板まで?
紫外線や水分は大丈夫なの?と聞いたところ、
これについてはマレイン酸やメラミンなどの合成樹脂を混ぜているそうです

ガラス繊維だけでなく、ジュート布を補強に使っています。

この日はまだ国際会議が続いていて、
担当者はこの後口頭発表だからじゃあね、って駆け足で説明は終わり、
所長から「じゃあ、昼食後に君のプレゼンを見せてもらうから。」と突然言われ、
とにかくなぜこの研究所に来たのかの理由と、今回の調査での成果について
約30分でパワーポイントをまとめて、
その日いた研究所の科学者の皆さん20人ちょっとの前で発表しました。
データが揃っていないためまだここには書けませんが、
現場でのある実験を含めて、文化財や美術工芸分野からの視点は
皆さんにとって新規な内容が多かったらしく、
終了後に様々な質問を受け、喜んで頂けたようです。
ラマニ所長からも、是非再訪するようにと言って頂け、
今度は別の時期に訪問をしたいと思っています。

研究所の皆さん、お忙しい中どうもありがとうございました。


※この調査は生き物文化誌学会さくら基金の助成を受けて行われました。