2017年3月17日金曜日

撥水セラミック塗料

さて、岐阜県立森林文化アカデミーの公開ワークショップ
2日目午後は「撥水セラミック塗料」についてです。

「撥水セラミック塗料」を含む「ガラス塗料」といわれるケイ素塗料の試験片が
朝から入り口付近に並べられていました。
これは、長野県工業試験場の三宅さんという方が
現在市販されている数種のガラス塗料を試すために作られたものを
久津輪さんがこの日のためにお借りしたのだそうです。

:これは昨年長野県で行われたガラス塗料WSの参加者の方が
個人で購入・使用されていた製品も使っての試験であり、
保管状況や新しさなど条件が異なるため、
あくまでも参考程度にしてくださいとのことです)

耐水性と輪ジミ試験(ウォールナット材)

防汚試験

鉄汚染試験

目止め試験(ハルニレ縦木)

硬化時間試験

塗膜強度試験

浸透試験

さて、徳永家具工房tataraの「撥水セラミック塗料」。
鉋仕上げの家具をより良い状態で使ってもらうため
徳永さんはこれまたいろいろな塗料を試された末、
これにたどり着いたそうです。
詳しくは徳永家具工房のホームページにをご覧ください。

無色透明、無害、木質強化、汚れ防止、一液性で無駄が少ない、溶剤不要、
いやな臭いがない、無駄が出にくい、合成樹などに見られる妙なツヤが出ない、
普通に刷毛塗りができ、使ったあとの道具は乾いてから水洗いでOK、
などなど、とにかくいいことづくめなのですが、
残念ながらまだ普及していないため結構なお値段となっており、
我々にはおいそれと買えないというのが現状です。
また、製品は6種類もあるので、
自分はどれが必要かは、やはり使ってみないとわからないですよね。

写真のカップの左から順に
・マルチタイプ
・HD(高浸透性のハードタイプ、杉がヒノキくらいの固さになる)
・オイル(エゴマ油とのハイブリッドオイリーな風合い)
・ヤケ止め屋内用
・ヤケ止め屋外用(実際は銀鼠に焼けるがヤケ深度が全く違う)
・輪染み アク止め(下地材、ケイ素なし)
です。
微妙に液の色が異なるのがおわかりになると思います。

今回はこれら全種を自分の作品に試し塗りができるというわけですから、
参加者が多いのも当然です(笑)

まずは、撥水セラミック塗料担当の佐々木さんからご説明いただき、
(この内容はウエブサイトでご覧いただけます)

その後、徳永工房のお弟子さんから、塗り方の説明です。
普通の刷毛でたっぷり塗り5分ほど浸透させ、余分は布でふき取る、
二度目は30分以内に追い塗り、それをもう一度、
合計3回、塗料が固まらないうちに塗ること。
前の塗料が固まってからでは染み込まないそうで、
このあたりは一般の塗料と異なる性質です。

半硬化には1日(オイルは3日)
硬化乾燥には1週間(オイルは2週間)かかり、
アク止め、やけ止めはその上から撥水セラミック塗料を塗布することも必要です。
(ウォールナット、チェリーなど色の濃い材には
輪ジミ・アク止め材の下地塗布が推奨されています)

サンプル量が限られているため、
参加者は20cmx20cm程度のものを持参、ということだったのですが
笑ってしまうほどの大物を持ってこられた方も(笑)
もちろん、他の方が塗り終わった後に確認してから塗られていましたが。

とにかくこの中ではやはり「マルチタイプ」が一番人気で、
塗り待ち時間が続きました。

作業がひと段落ついた頃、久津輪さんから
長野県工業試験場の三宅さんの試験片の解説があり、
最後に、50ml入りのサンプルを一人1本選び、
みなさん大満足のうちにお開きとなりました。

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当日の参加者はほぼ木工の方だろうということから、私はちょっとひねくれて
・コルカタで入手した素焼きのチャイカップ
・オーガニック三河木綿のガラ紡の端切れをクチナシで黄色く染めたもの(無媒染)
などを持参していました。

以下、これらがどの程度の耐水性が加わったか
試し塗りが完全に硬化したことを確認してから実験です。

素焼きカップは、コルカタで泊まったホテルで一番近いチャイ屋で入手したものです。
1杯10ルピー(18円くらい)。

このカップは一度使ったら投げて割って土に返すという
究極のエコフレンドリー品ですが
持つとぴったり指に吸い付くような指跡の生々しさも気に入っただけでなく、
他の店にあったカップは形が違うことがわかり(写真左)
未使用のカップだけをわざわざ数個買ってきたものです。

コルカタでは何度も腹が立つ目にあったのですが、
このカップを買うだけに行ってもいいと思えるくらい気に入っているのですが、
最初から割るのが目的で作られているのでとても脆く、
これを使ってお茶を飲めないことを少々残念に思っていたのです。

というわけで、さっそく水漏れ実験です
左が無塗装、右が撥水セラミックHDを3回塗装済み。

それぞれに同時に20ccの水を入れました。既に違いが歴然です。

1時間後、左はどんどん水が吸い込まれていますが右は無変化。

3時間後、左だけ下に水が浸みみ出してきました。

5時間後、左はどんどん水が減り、漏れも増えてきました。

翌朝、左の水はもうほとんどありません。

右の水を計量してみると、ほぼ自然蒸発分だけの誤差です。

24時間後、左の水はほぼなくなりました。

左は水が全体に浸み込んでいて、触るとひんやりします。
右は、一般の塗料にありがちな妙なツヤもなく、
素焼きそのものの風合いも残っています。
これならお茶を飲んでも大丈夫そうです。

次はオーガニック三河木綿ガラ紡の木綿布端切れです。
撚りが緩いため、柔らかな風合いの布ができるのです。
左にマルチタイプ、右にHDを浸透させました。
(マルチタイプは人気だったためたくさん塗れませんでした)
黄色のマスキングテープ付近が無塗装です。
乾いた状態で触ると、HDの方が十分浸透していたせいか硬くなっています。

水に入れると、浮いて水を弾きます。
これを無理やり沈めると、
塗料が浸透していない部分だけ水が浸みていきます。

一昼夜置いた状態です
水が浸み込んでいる部分には塗料が浸透していないということがわかります。

これを乾燥させました。

実は、浸しておいた水が少し黄色くなっていたので、
おそらく真ん中の部分から色が落ちたと思われます。
この後少し日干ししてみて、紫外線により染めた色が落ちず褪せないことがわかれば、
染色方面への応用範囲も広がると思います。

さて次は何に塗ろうか、楽しみになってきました。

2017年3月15日水曜日

カンナ革命

岐阜県立森林文化アカデミーでのワークショップの2日目です。
午前中は、徳永さんの削り技について。

鉋仕上げはサンドペーパーのように表面を荒らさない、
わかっていても、なかなかできるものではありません。

「皆さんの中で、一枚刃の鉋を使われている方はおられますか?」
今日は木工の専門家ばかりが集まっていることに気づき、
あげそうになった手を引っ込めました。
木工のど素人の使う一枚鉋とは全く意味が違います。

「皆さんがこれまで学校で習ったことはすべて忘れてください。」

徳永さんの使う鉋はすべて一枚鉋、
それも、三木市で砂鉄を集め、
ご自分でタタラを作って玉鋼を作り、それで鉋の刃を作っている
原田さんという鑿鍛冶さんの鉋をお使いだそうです。

会場から質問が
「そのの鉋刃を買うことができますか?」
「買えません。」(笑)
鉋を使えない人に刃を与えても無駄、とは正論ですが耳が痛い話です。
市販の鉋刃でもそんなに変わらない、単に研ぐ回数が増えるだけだそうです。

しかし、その使い方も常識とは異なります。
「木に負担をかけない」
「鉋の台で木を押さえない」
「浮かしなが刃で削る」

研ぎ台を兼ねている道具箱から取り出されたのは砥石と、


豆鉋や南京鉋などの入っている引き出しです。
台はすべて手作り。





お弟子さんの道具箱も、とにかくひとつひとつが美しい。

まずはお弟子さんの一人が、1枚刃の鉋で実演をしてくださいます。
真ん中上側に杢があり、逆目になるはずなのですが、
削られた板はつるつるしています。


何が秘訣なのかを知りたくて、みんなが鉋に興味津々。


刃口も特別狭いわけでもないです。

別のお弟子さんが南京癌なを迂回、やはり逆目がある椅子の背を削ります。
さらさらと軽いタッチです。

若干ハマグリ刃にするのがコツ、
幅広の鉋屑を出す必要はないし、筋がつくのを防ぐそうです。

背削りの鉋だけは、鉋刃の研ぐ方を裏にして入れています。

ここで、徳永さんが研ぎの実演をしてくださいます。
道具箱の上が研ぎ台です。
手を汚さないため、ブラシを使って水を補給するのがポイント。

直線研ぎでなく回転研ぎです。
名倉は品質が一定しないので使わないそうです。



 研ぎは3-4分で終わらせるため、荒砥はよく下りるものを使う。
この合成砥石(ナニワの1000番のダイヤモンド砥石)の
砥石層は約1mmと薄いのに1万円くらいするので、3−4年持たせるそうです。

とにかく砥石も台も汚れていないのにも驚きました。

道具箱の上は微妙に斜めになっています。

続いては徳永さんによる削りの実演です。




さらさらと表面を撫でるような動きです。

完成品が美しいことがすべての答えです。


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こちらもnaeさんのブログ、
岐阜県立森林文化アカデミーのブログ

をご参考にしてください。

曲木の80˚C

先月末、岐阜県立森林文化アカデミーで開催された
「曲木」と「撥水セラミック塗料」の2つのワークショップに参加しました。

2つの講座とも兵庫県の徳永家具工房の徳永順男(としお)さんが講師です。

徳永さんは家具の製作だけでなく、
撥水セラミック塗料の開発にも関わられていることから
同アカデミーの久津輪雅准教授の企画で
2つのワークショップが2日にわたり開催されたのです。
貴重な機会、私も泊りがけで参加しました。

(この日に限ってカメラが行方不明だったため、携帯での撮影ですみません)

徳永さんはこれまでThornet式蒸し技法を始めとする様々な曲木技法を試したものの、
どれも今ひとつ満足いく結果が出なかったことから、
この方法を考案されたそうです。

曲木に必要な道具、まずはバンドソーの刃を利用した帯鉄です。
帯鉄の全体はこんな感じです。両端に木の持ち手が付けられています。

ここが持ち手、兼、材のストッパー部分です。
曲げる木が帯鉄の寸法にぴったり収まる長さや幅にならないと木が割れてしまうので、
寸法が長すぎる場合は木片を挟み、
幅が足りない時は帯鉄を2枚使って調整をするそうです。

その他
・曲げる木全体を包める大きさの布
・アルミホイル
・アイロン(家庭用の普通のもの)
・軍手(熱くなるので)
・曲げる形状にあわせて作った木型
・クランプ(Gクランプ数個とパイプクランプ)
が必要になります。
水を補給する入れ物もあると良いです。

今回使ったのは、幅30mm、長さ110cmの山桜の木でした。
小口が割れやすいので、必要なサイズよりも長めの木を使う必要があります。

まずは、濡らした布で曲げたい木全体を包みます。
この際、小口は出ていても構いません。
タオルのような厚い布でない方が良いようです。


次に、アルミホイルで全体を包みます。

それを、高温のアイロンで数秒づつ押さえつけながら4面を徐々に温めます。
木の太さ1cmにつき10分が目安なので
今回の30mmの木は30分くらいになります。
アイロンはアルミホイルの表面を滑らせるのでなく
一箇所に数十秒くらい留まり、温まったら移動、
という感じで、各面を繰り返し温めます。

木の内部温度を80˚Cくらいにすることがポイントだそうで、
必要に応じて小口方向から水も補給します。
温まってくると小口の反対側から蒸気が出てきます。

木の温度が十分上がったことを確認したら、木を帯鉄にセットし、
木の中央部をクランプで木型に止め、数人で一気に曲げます。

あんな固い山桜の木がびっくりするくらいするっと曲がり、
会場から一斉に「おお〜!」という声が上がりました。

パイプクランプで両端を止めて、このまま少々おきます。

さわれる程度まで冷めたらクランプと板金を外します。

クランプを取ってももう戻りません。
アルミの中に木が入っているとは思えないような角度です。


アルミホイルと布を取ると、こんな模様ができていました。
曲がった内側を触ると、表面が微妙に凸凹しています。


翌朝の状態。こんなに曲がっているのかと改めて驚きます。
木が完全に乾いてから鉋がけしてスムースにします。

寒い部屋にしばらく置かれていたにも関わらず微妙に暖かく
木の保温力も実感しました。

この日の工程は、絶好の位置に座られていたnaeさんのブログ
http://wood78.com/blog/2017/03/01/gifushinrin_iron/
岐阜県立森林文化アカデミーの久津輪さんのブログ
http://www.forest.ac.jp/academy-archives/steam_iron_bending/
をご覧いただくとさらによくご理解いただけます。

今回、私が曲木ワークショップに参加したかった理由は、
一体どのように作られたのかがずっと謎だったからです。

平面だったはずの漆パネルがなぜ3次元曲面に?

フランスの家具職人、J.A. Rouboの
"L'art du menuisier ebeniste "に、曲木加工の図が出ています。
熱した砂袋を使う、ということだけは人から聞いていましたが、
残念ながら本文が古いフランス語ということもあり、
どのくらいの温度の砂を使っていたのかなどの詳細が全くわかりませんでした。


そして、今年になり、蒔絵パネルを貼ったBombe commodeの製作技法の
新発見についての論文が出たのです。

蒔絵パネルは薄くスライスされていることも知られていましたが、
さらに、四隅から切り込みを入れていたというのがわかったのは大発見。
あとは薄い板を曲げる方法だけでした。

このタイミングで
「木は80˚Cくらいから曲がるようになる」という情報が得られたことは奇跡です。
機会を見つけて3次元曲面でも実験してみたいと思います。

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貴重な方法を惜しみなく公開してくださった徳永さんとお弟子さん、
この企画をしてくださった久津輪さん、
また、当日の記録を見せてくださったnaeさんにお礼申し上げます。