2013年10月29日火曜日

秋の漆

さて、またしばらくご無沙汰していた庭の漆も、既に秋の様子です。


漆の葉は基本的にモミジのように紅葉はしません。
よく間違われるのはツタです。

透かして見るときれいです。

今年出てきたひこばえです。
父がいちいち掘り起こして移植してくれていて、どんどん増えています。

オレンジ、緑、そして近くの花の黄色がきれいです。

去年、鹿に幹に傷をつけられた木は

今年はちょっと太くなりました。
でも、傷がついたところは埋まりませんね。
後ろのひこばえも1年でかなり生長しているのがわかるでしょうか?

漆が掻けるようになるまでにはまだ数年かかります。

2013年10月28日月曜日

用途のある難しさ

10月はとにかく多忙で更新があまりできませんでした。
せっかく登り窯で焼いた作品も一切お見せできておりませんでしたが、
実は今回は、現在の共同研究に関する復元品の製作や、
実験製作の作品を含んでいる関係上
現段階ではお見せできないものがいろいろあります。

共同研究のために制作していたもののうち、窯場に運ぶ時の車の振動で
複数パーツを組み合わせた大きめの作品一点が無残に壊れ、
(山の急な坂道を登らねばならないため)
別の大きい作品は、無釉なのに、焼成室にこれを並べた方が
どういうわけか仮止め粘土を3箇所につけられていて、
そのため粘土で固定していた部分が均等に縮まず、
正円になる予定が三角に変形してしまい、
円形でなければ意味をなさない品なのでこれもボツ。

焼いていない粘土状態なら、乾かして粉にして水で練ればまた作品ができますが、
一度焼いてしまったものは再生ができません。
欠けたりヒビが入っているわけでもない大きな品なので、
割るのもなんとももったいなく、
かと言って器でもないため他に使い道もなく、現在保留中です。
陶芸作家の方々はこういうものを貯めておいても困るし、
自分の作品クオリティを保つためにも容赦なく割られるんですよね。

基本的に工芸品というのは、用途があってこそのものですから、
その用途に使えなければ単にガラクタなのだなと改めて思います。

さて、復元品を作った残り粘土では個人的な実験作品や
遊びの作品を作りました。

北欧雑貨の店、"The Time Has Come"さんのリストにあった
このコーヒーポット



デンマークのRichard Kjaergaadが1956-59年ごろに製作した品だそうです。
これをティーポットとして作ってみようと、
粗い信楽の土で少々形をアレンジして作ってみました。

少々下に重心を持ってきました。

表面は無釉、内側だけ白の釉薬をかけました。

単独で見ているとあまりわかりませんし、
もちろん土も違いますが、
元の品の写真と並べてしまうとやはり形の洗練度が違いますね・・・
実物は見たり触ったりもしていませんから、
重さや厚みも違うはずですし。

外見上は登り窯の効果できれいに焼けたように見えるのですが、
前の登り窯の記事に書いた通り、
釜が高温になってからの時間が長すぎた影響で、
ティーポット用として開けておいた内側の茶こし穴部分が、
かなり多めに釉薬を掻き落としていたにもかかわらず、
数カ所を除いて埋まってしまっておりました。
そのため、注ぐ時の液体量のバランスがとても悪く、
全く使えないわけではないものの、
もちろん人様に売ることはできないクオリティです。

その他、感覚的に視覚バランスだけで作ってしまいましたが、
注ぎ口が下すぎて、うっかりお湯を溢れさせてしまう点、
片付ける際に余計な面積を取る点など、
実用的な面では不合格品です。
数を作り、使ってみなければわからないことが多いなと、いろいろ勉強になりました。

2013年10月21日月曜日

銀座の金だこと招き猫

金継ぎがここ数年静かなブームとなっているのにも関わらず
金相場の高騰により
金の丸粉を使った本格的な蒔絵も
なかなかしにくい状態が続いています。
現在の価格はなんと1グラム8,000円程で、
私が記憶している限りで最安値だった頃の4倍近くです。
そんなこともあり、金粉や金箔の売れ行きもかなり落ち込んでいるそうです。

現在日本で蒔絵用の金粉を製造販売しているお店は2軒のみです。
(他のお店はこの2件から仕入れて販売しています)
一件は金沢の「吉井商店」
http://www.yoshii-kanazawa.co.jp/

もう一件が、銀座8丁目にある「浅野商店」です。

現在の店舗名は、その名もなんと「金座」です。

通販で購入できてしまうので、わざわざ店舗まで行って買う方も少ないかと思いますが、
店舗ではウエブサイトには出ていない、
浅野商店がお客さんの意見を取り入れて直々に筆工房に依頼して作ってもらったという
特製の蒔絵筆や関連道具の販売はもちろん、
蒔絵粉の見本手板も見せて頂けます。

左から丸(まる)粉、梨子地(なしじ)粉、
右は平目(ひらめ)粉

平目粉の大粒のもの
平目粉の別の見本

平極(ひらごく)、平極2,半丸(はんまる)から丸粉15号まで。
半丸粉は現在は作られていないようです。

これらの見本手板はこのように撮影許可を頂いたとしても、
粉の大きさを調べられるくらいの精度の写真はなかなか撮れるものではないですね。
蒔絵を修理する場合、小さいものなら現物を持って行って
この見本と比較させて頂いてから粉を購入すると良いと思います。

さて、このお店におられた浅野直樹さん、
浅野商店のホームページで
金粉作りの作業をされている写真のご本人でした。

中指には長年の粉作り作業の証しである「金粉ダコ」が出来ています。

蒔絵粉の作り方は「無形文化財記録〈工芸技術編4〉『蒔絵』」文化庁、1973年
に、当時東京両国におられた清水佐太郎氏の道具と作業の手順が掲載されています。
独特のふるいや、粉を丸めるすりこみなどが出ていますが、
これも絶版です。
著作権の問題があるので、残念ながら画像もご紹介できません。
浅野商店さんは工房は別の場所にあって、見学も受付ていないそうですので
私も作業現場の様子は全くわかりません。

さて、浅野商店は、
以前その名も「ゴールデンビル」の9階にあった店舗を1階に移動してから、
化粧用あぶら取り紙や、金箔粉を使った手軽な商品も店頭で販売されています。
ご存じのように、あぶら取り紙は金箔を打つ際に使う
箔打ち紙の古くなったものを利用したのがはじまりですが、
人気が出た現在では一度も箔打ちに使われたことのないあぶら取り紙も
いろいろな店で販売されています。

浅野さんによれば、ここで一番人気の商品は、
金粉でもあぶら取り紙でもなく、
この、招き猫のうつし金蒔絵なのだそうです。

この招き猫のオリジナルは豪徳寺の焼き物の招き猫で、
これまでずっと浅野商店の守り神=マスコットとして置かれているのだそうです。
(浅野さんの写真の右側に見えるのがその招き猫の現物です)
お店の守り神であるこの猫をデザインして販売をはじめたところ
これを携帯電話などに貼った人に次々に良いことが起きたと、
特に、近くの飲食店で働く女性に口コミで広まったのだそうです。
購入者で希望される方には特製の道具を使って、
店頭できれいに貼って下さいます。

そう言われてつい買ったものの、
携帯電話に貼るのがなんとも惜しく、このように台紙のまま持っている次第です。
宝くじに当たるような驚く程良いことはまだ起きてはいませんが、
無事に暮らせているだけでも御利益かもしれません。

2013年10月20日日曜日

背景の重要性

外付けHDDに入っている写真を探していたところ、
ちょっと面白いものを発見しました。
これは京都の有名なお寺の庭です。

何だか違和感ありますよね。


周囲に白い幕が張られているのです。

これらは石庭が有名な竜安寺を2006年1月に友人と訪問したときの写真です。
残念ながら壁面工事の真っ最中で
こんな不思議な景観となっていたのです。
入り口に「壁面工事中」という説明看板が出ていて、
しかしながら入場料も普段と同じということで、少々悩みましたが、
せっかくここまで来たんだし、と入ったところ、こんな感じだったわけです。
「逆に、珍しいものを見たと思うしかないね。」と友人と話をしていたのですが、
白い幕が前方に張り出している関係もあって、
なんとも窮屈な感じで、全く落ち着きませんでした。

実際こういった場合にはどういう方法を取るのが良いのでしょうね?

1. 工事中でも構わないという人だけ通常料金で入ってもらう
2. お客さんに申し訳ないので工事が終わるまで閉鎖する
3.石庭の本来の良さが激減するので、入場料金を下げる
4. 壁面は白い幕でなく、例えば写真を使ったり、
元の壁に近い落ち着いた色の幕を使い
少しでも雰囲気を壊さないようにする

竜安寺の方法は1で、お寺の負担が一番少ない方法です。
しかし、納得してお金を払って入ったとは言えども、
これで満足するお客さんはほとんどいないのではないでしょうか。
(修理が終わってからもう一度来るという動機になるかもしれませんが)
2の場合だと、わざわざ遠くから来られた方はがっかりしますし、
3ではお寺の手間が増える上に減収にもなります。
4の方法はお金もかかる上に、やり方が中途半端だと逆に雰囲気を壊します。
どれも一長一短で
どの方法を取るべきか決めるのもなかなか難しいところです。
皆さんはどう考えられますか?

2013年10月15日火曜日

予想がつかない結果

先日、登り窯の窯出しがありました。
窯焚きも6日間でしたが、冷却期間も一週間以上取らねばなりません。

備前焼の人間国宝の伊勢崎淳氏は、
登り窯の焼き上がりは99%コントロールできるとおっしゃっていますが、
こちらは年に1度しか登り窯を使わない愛好家の集まりですし、
使う土も釉薬も大きさもバラバラです。
もちろん窯焚きの責任者の先生はおられますが、
先生も6日間徹夜というわけにはいきませんから、
この時間はこの温度が目標、という数値を見ながら
分担作業での窯焚きとなります。

しかし、1年前やそれ以前のことをしっかり覚えている人も少ない上、
私のように数年前に1度参加しただけの人間は、
毎年参加されている人に言われたことをやるだけです。

私は窯出しに参加したのは初めてなのですが、
実は、今年はかなりのアクシデントが発生しておりました。
手前の胴木間(どうぎま)では、薪を投げ入れる方向が悪かったらしく、
作品がいくつも倒れています。

他の焼成室のいくつかでも棚が傾いています。

そんなこんなで、窯出しは慎重に行われましたが、
やはり破損した作品もいくつもありました。
写真を撮ってたら怒られるくらいのめまぐるしさです。
窯焚き終了から一週間以上経過しているのに、出て来る器はまだ暖かいです。


しかし、どんどん作品が並んでいくのは圧巻です。
参加者が多いため、バラエティーに富んだ作品群で勉強になります。

 これが最前方の胴木間に入っていた作品です。
やはり、いくつかがくっついたり壊れたりしていたようで、
私が見た時には既に破損品は取り除かれていました。

これは別の焼成室にあった大壺です。
他の作品が落下して割れてくっついてしまったようです。
後ろに座っている人と比較するとその大きさがわかると思いますが、
釉薬もきれいにかかっているのに残念です。
右に見える黒い大皿も端が割れていました。

土代、釉薬代、焼成代、もちろん作るための労力を考えると
何とも勿体ないことです。
ここで嫌になってやめてしまう人と、
次回こそ!と頑張る人が篩い分けられるのでしょう。
しかし、ガス、電気、重油の窯ではできない
思いがけない効果が現れるのが面白いからということで
止められないという人が多いです。

今回は我々の焼成室は早く高温になりすぎ、さらに高温の時間が長すぎたようで、
こんな感じで釉薬が垂れて棚板にくっついてしまったものが
大量に出てしまいました。

棚板も特殊なもので高価ですから(離型材のアルミナが塗られています)
割らないよう丁寧に鏨やディスクグラインダーなどを使って
取り外しを試みますが、
どうしてもきれいに取れないものは作品の一部を割るしかなく、
なんとも悲しい瞬間です。

他の人の作品とくっついたりしたものは取り外し作業も責任重大です。
私のものでも、くっついたり釉薬が垂れすぎた品がいくつか出て来てしまい
出しておしまい、というわけにはいきませんでした。

もちろん、登り窯大成功という作品もいくつもありました。

他地区の先生が作られたというこちらの苦行のシッタルーダ像は、
一瞬鋳鉄かと見まごうばかりの出来映えでした。
いぶし蝋という釉薬をかけられたとのこと。

せっかくなので中も見せていただきました。
このように粘土を積み上げて作っているとは、外からは想像できません。
中に変形を防ぐための支えの粘土があるのもポイントですね。

失敗を経験とし、来年はうまくいくように考えて作業をせねばなりません。

すっかり空になった胴木間です。
長時間炎と格闘した壁の様子がすさまじいです。

こちらは片付けを終えた焼成室の様子です。
このまま来年までお休みです。

何年もの間焼成を繰り返した壁は、それ自体が芸術品となっています。

2013年10月9日水曜日

長崎刺繍の糸撚り

長崎は江戸時代の海外との玄関口だったことから独特の工芸がありますが、
「長崎刺繍」はそのうちの一つです。



これは、長崎くんちに使われていた、最も古い1772年(安永元年)製作、
桶屋町傘鉾垂「十二支」のうちの「辰」の復元です。

日本刺繍とは違って、立体感のある作りとなっています。

長崎刺繍について、詳しくはここを読んでいただくとして、

長崎市歴史文化博物館では毎週金曜と第三土曜日に体験教室が行われています。


というわけで、畳の間に刺繍台がこのようにセットされております。

こんなかわいいサンプルを見ながら刺繍の作品を作れるだけでなく、
刺繍をする時間がない人には「糸より」という講座もあることです。
ほんとうに、糸を撚るだけです。

長崎刺繍の糸は、京都で作られた釜糸というのを
制作者が自ら撚って好みの太さにすることにより、
表情に変化のある刺繍を作ることができるのだそうです。
糸よりに使う道具はこのような、棒の先にヒートンがついたものです。
棒の長さは3尺くらいです。

 使う糸は、撚りがかかっていない絹糸です。

糸巻から必要な長さの糸を出し、ヒートンにかけて撚ります。


講師の方は慣れているので普通にやってらっしゃいますが、
実際にやってみると、せっかく撚った糸が巻戻ってしまったり、
ゆるかったりきつすぎたりもつれたりで、
均一に撚るのはかなりの熟練が必要だとわかります。

糸を撚った先端はこんな感じです。
もちろん、撚った糸は持ち帰りができます。
(体験料金は100円)
所用時間は説明を含めても10分かかるかかからないかですから、
観光で長崎にきてゆっくり刺繍をする余裕がない人でも大丈夫。
もちろん時間の余裕があるなら、これで刺繍まで体験できれば文句なしです。

写真のようなものすごい刺繍を作るためにはこんな糸を何本も作らなければならないとは
刺繍以前に気が遠くなるような作業です。
(もちろん、蚕を飼って糸を作って染めてきれいに糸巻に巻くまでも考えれば、
さらにはるかな道のりです)

金銀箔を漆で貼った和紙を細く切ったものを巻いて作る金糸銀糸、
「漆糸」という漆を塗った艶のある糸など、
日本の染織品に使われる糸の加工ひとつを取ってみても、
さまざまなバリエーションや工夫がされていて興味深いです。

2013年10月7日月曜日

槍鉋と台鉋

数日前に神戸の竹中大工道具館の移転が決定したという情報が入り
9月22日に行ってきたばかりですので、驚きました。


道具館のシンボルの柱です。

竹中大工道具館は1984年に神戸の元町駅から徒歩10分ほどの場所に開館しました。
 現在の展示も、リニューアルされてからまだそれほど経っていないと思っていましたが、
調べてみたらリニューアルは2009年3月20日で、
まだ5年も経っていませんでした。
標準的大工の持つ道具一覧

大工道具の歴史の展示

奥が広葉樹、中が針葉樹のいろいろ。
手前の削り屑は蓋をあけると、木の香りを嗅ぐことができます。

鋸の目立て道具一式


砥石のいろいろ


現時点の展示も、道具好きにはわくわくするような品が並んでおり、
さらに地下では様々な貴重な動画も見ることができ、
まる一日過ごすことも可能でしょう。
しかし、確かに現在の場所は敷地もかなり狭く、
せっかくの貴重な収蔵品の展示も限られており、
特別展をするのもスペース的に難しいという理由も
大きいだろうなと思います。

新しい道具館には木工工房やミュージアムショップなど、
新しい施設も増えるようで楽しみです。

さて、現在の竹中大工道具館の地下には、
小さい作業工房があります。
ここでは、土曜の決まった日のみ、鉋削りの実体験ができます。

教えて下さるのは、鵤工舎(いかるがこうしゃ)で働いていた北村智則さんです。
法隆寺宮大工、故・西岡常一さんの最後のお弟子さんである
小川三夫さんの最初の内弟子さんだった方です。
数々の寺社建築を手がけられた北村さんから直接鉋の使い方を教えてもらえる、
というだけでもすごいことだと思います。
普通の台鉋だけでなく、外国の鉋や、槍鉋の使い方も教えて頂けます。
まずは台鉋での北村さんの試し削りです。
さすが、極薄の削り屑です!

これは中国の鉋です。
構造は取っ手以外はほとんど日本の鉋と同じですが、
押して削ります。

欧米の鉋はネジ式で、下が金属になっている場合が多いです。
これももちろん押して削ります。
世界中でも日本の鉋だけが引いて削るのです。
鋸も、ジュエラーズ・ソー(彫金職人の使う鋸)のような特殊なものを除いた
一般のものは日本だけが引いて切るという伝統になっているのは
一体いつからなのか、大変興味深いです。

 鉋の中でも特に、槍鉋は、西岡常一さん達のおかげで現在復元はされていますが、
めったにある道具ではありませんので、貴重な機会だと思います。

これが槍鉋の刃先です。
上に反っているため、刃を研ぐのもかなりの技術が必要です。
柄は、北村さんによれば、腕の長さくらいが最も適しているとのことです。

槍鉋は針葉樹の割製材をしていた頃に用いられていました。
しかし、目の通ったヒノキなどが少なくなり、鋸製材が主流となってからは、
衰退してしまった道具です。
台鉋は、木目が断ち切られてしまった鋸製材の表面も
均一に平らにすることができるので
現在では鉋と言えば台鉋になってしまいました。

北村さんの槍鉋の実演動画です。

 通常の引き削り

押して削ることもできます。
(ともに動画に音声はありません)

鋸屑がくるくるとカールするのが特徴です。
鉋屑の形状が全く違うというのも面白いですね。

現在の施設が閉館前に行かれるなら、是非鉋体験のある日をお勧め致します。