昨今の日本はあちこちで異常な豪雨災害が発生して何とも悲しい限りです。
被害に遭われた皆様には心からお見舞いを申し上げます。
そんな豪雨、雷雨、竜巻警報が頻発する日の合間に
真夏の暑さが戻った日が2日だけあり、
そのタイミングを狙い、ほんの少量ですが漆の手黒目(てぐろめ)をしました。
漆は、いわばマヨネーズのように
油性の主成分(ウルシオール)の中に、水の分子が分散した乳化状態です。
漆は漆掻きさんによって木から採取された「荒味漆(あらみうるし)」から、
木くずや樹皮、ゴミなどを濾したものが
「生漆」(きうるし)として販売されます。
この状態ではまだまだ漆中に水分が多いため、
摺り漆や拭き漆などには適していますが、
刷毛で塗っても厚みがつかないので、
「なやし(攪拌)」「くろめ(水分を飛ばす)」作業を行うことで、
「透漆(すきうるし)」となります。
色漆を作るにはこの「透漆」(市販名は「木地呂」「赤呂」など)と
朱や各種顔料を練るのです。
今回くろめるのは、昨年採取された丹波漆です。
チューブ1本100gのうち半分よりちょっと多いくらいをくろめます。
この1本で9,000円くらいなので、無駄にできません。
台は、学生時代に作った塗り定盤の蓋で、四方に縁があるので
垂れを気にすることがなく漆を広げることができます。
チューブから出した状態はこのようにカフェオレのような色です。
丹波漆は粘度が低いので、蓋を開けるとすぐに漆が垂れてきます。
自分だけが日陰になるような場所を選んだので、影が入って見づらいですが、
より効率良く水分を飛ばすためにはこのように漆を広げます。
今回は艶消し漆が作りたいので、最初から広げて攪拌しますが、
艶のある漆が作りたい場合は、温度を上げないうちに攪拌(なやし)をした後で
温度を上げて水分を飛ばします。
広げて混ぜるを繰り返すと、
漆は空気に触れた表面から水分が蒸発し、どんどん褐色に変化していきます。
そして、透明に。
さらに広げて混ぜるを繰り返します。
この日はかなり暑かったおかげで、
みるみるうちに漆もくろまります。
適度にくろまった頃に、チューブに残していた生漆を垂らすと、
色の差が顕著にわかります。
そして、ガラス板につけて透け具合を見ますが、透けが悪ければもう少し続けます。
この時に注意する点は、ここで温度が上がりすぎると、
漆を硬化させる酵素「ラッカーゼ」が非活性になってしまい、
漆が硬化しづらくなってしまいますので。
できれば温度計を準備しておいて、温度を37℃程度に押さえることです。
空の雲が写るくらいにくろまったところで終わり、
これを漆濾し紙で濾して、少量をテストピースに付けて漆風呂に入れ、
漆がちゃんと乾くか、艶や透けはどうかを確認します。
その時に元の生漆もつけておけば、生漆とくろめ漆の乾燥後の状態が比較できます。
今回のくろめは短時間で行えたこともあり、
硬化後はちゃんと艶消しで乾きました。
万が一乾かない漆が出来てしまっても、
良く乾く漆と混ぜれば十分に使えるのが漆の良いところです。