2016年2月21日日曜日

インド調査2016(3) Ajrakhの木版刷り

車での移動の途中、何やら人が集まって作業をしている場所が。
木綿の布を洗っているところだそうです。

https://youtu.be/j4lQIg3Zv0o


ザクロの皮の粉で染めた布から余分な粉を取るのだそうです。

洗った布は同様に天日で干されています。

次に案内されたのは木版摺りの工房です。
まだ建設途中だそうですが、かなりの広さです。

さすが木版がたくさん並んでいます。
これらはチークの木で、アーメダバードにいる職人に彫ってもらうそうです。
一枚の布に複数の版を使います。
というわけで、Sufiyanさんが多色摺り見本を見せて下さいました。
残念ながら私は布地プリントはど素人なので、
その都度説明をメモしていたものの、今読むと???で
間違っていたらすみません。
1. まずは、ラクダの糞、ソーダ灰、ひまし油で布を洗います。
ラクダの糞?!?!  はい、間違いなく乾燥したラクダの糞でした。

2. 洗った後、ミロバランで下染めします。
上にあるのがミロバランの実です。
3. 次に、石灰、アラビアガムで印刷します。

4. 裏面も同様に印刷します。

5. 錆びた鉄と砂糖を混ぜて発酵させ、
そこにタマリンドの種を混ぜたものでプリントします。

6. 粘土と明礬を混ぜたものをプリントします。

7. アラビアガムと石灰で防染します。

8. 最初の藍染め

9. 二度目の藍染め

10. 最初の水洗

11. 二度目の摺り

12. 水洗い

13. ヘナの粉(黄)、ルバーブの根(茶)、茜(赤)、ラック(紫)

14. 粘土、明礬を混ぜたものをプリント(媒染)

15. 藍染め

16. 水洗い

17. 赤い染料で2時間煮る

18.ザクロ、ターメリック、明礬少々、
または、タマリンドの種と明礬を溶かしたお湯で煮る。
と、なんとこの完成品の写真取り損ねていましたが、
この上の17の上をご参考になさってください。

最高8メートルの布に、これらの作業を16日間かけて行うそうです。

右側がラクダの糞、左は、Lanio plantというラクダが好んで食べる植物を燃やした灰で
天然のソーダ灰として使うそうです。

藍染めの還元剤にはデーツとCasia Tora Seedを使うと言われ、
後で調べたら、決明子なんですね。

薄い色は明礬だけ、
濃い色は明礬と鉄を混ぜたもので媒染するのがここの特色です。

プリント作業も見せてもらいました。
とにかく正確です。


こんな仕掛けのバットに染料を入れているのですね。


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この調査は科研費の助成により行われました。

インド調査2016(2) Ajrakh染色工房

残念なことに、頼んでいたガイドさんもご家族のご病気で都合がつかなくなり、
3日間で行くべき場所をリストアップしてもらってから
3人目のガイドさんを紹介されました。
翌朝はBhujの中心地より東にある村々の訪問です。

町中、やたら建物が歯抜けだなと思っていたら、
実は2001年1月にここから20キロの地点を震源とする大地震があり、
2万人以上が死亡、37万戸以上が全壊、
それからまだ町が戻っていないのだそうです。
とにかくラックのことだけ考えて来ていたので何も知らず、恥ずかしい限りでした。

そんなこんなで最初の場所はAjrakhpur村の
Dr Ismail and Sufiyan Khatriさんの染色工房です。


Dr IsmailはイギリスのDe Montfort大学の名誉博士号も持っておられる方ですが、
生憎数週間前に癌の手術をされたばかりで体力がないとのことで、
息子のSufiyanさんが説明にあたってくださいました。

まずは、ラックで染めた布を一枚見せて下さいます。

そして、隣のショールームにある布の山から

別のラック染めの布を取り出して見せてくれます。
ラックで絞り染めした上に藍を木版摺りしています。
やばい、もう欲しい(笑)

さて、外では何人かが作業をしています。

プリント布地を畳む作業のすぐ側では、

なんと、藍染め作業中!
こんな近くでやって藍の水がはねないんでしょうか・・・
でも、藍のあの独特の臭いがしません。
これは大量販売用の製品なのでインディゴピュア(合成藍)を使っているけど、
高級品は天然藍で染めているそうで、
別の場所の藍甕を見せてくれました。


混ぜるとこんな感じ。

近くにはちゃんとインド藍も生えています。
別の場所にある農園で大量に栽培しているとのこと。

ところで、今日は藍じゃなくラックの調査だよね〜
今日、時間はあるよね〜
別の場所でラックを使って染めをしよう、という話になり、
さっそく準備に入るSufiyanさん。

ラックと、

へ、これは何?

Sufiyanさんによれば、これはアーメダバードで買った「ラックの粉」で、
ラックが足りない時はこれを使うんだとのこと。
こんなもの今まで見たことがないので、
天然樹脂研究所のラマニ博士に見せて聞くために
サンプルをいくつか頂き、次の場所に移動です。

藍染め作業はまだ継続中。
この布は横の広場で天日干しされていました。


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この調査は科研費の助成により行われました。

インド調査2016(1) Bhujの街

なかなかブログの更新ができず、記憶が薄れてしまっていけません。
1月のインド調査の内容を順番にご紹介していきます。

昨年夏に大阪の国立民族学博物館の金谷美和外来研究員から
「グジャラート州のNirona村でラック塗装品を作っている職人がいる」
という情報を頂き、これは行かないわけにはいかないと決意。
現地のガイドさんもご紹介頂き連絡を取ったところ
博物館なども含めてラック関係の場所を回るには最低3日は必要だとの返事。
言われるままに日程を組んだものの
ラーンチの天然樹脂研究所の元所長の出張と重なり、
仕方なく日程を後ろにずらしたところ、そのガイドさんの予約とバッティング、
別のガイドさんにお願いすることになり出発しました。

デリーからムンバイ経由で到着したのは、
パキスタンとの国境に近いBhujという空港です。
北京よりPM2.5が酷いと言われるデリーと違って、
さすがは青空が広がっています。


そして、町中は牛だらけ。

日の暮れないうちに町中を散策していたら、素焼きの焼き物を売るおばあちゃんが。
英語は全く通じず、
でも、3つ残っているオイルランプが欲しいので、身振り手振りで交渉。
ひとつ2ルピー(4円!)らしいのに生憎小銭がなく、
近くの店で水を買い100ルピーを崩しても、まだ最低は10ルピー札、
10ルピー札を出したら3つを袋に入れてくれ、おつりを出す気配は全くなし。
うん、インドだなあと納得してそのまま持ち帰りました。

その様子、牛も見てました。


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この調査は科研費の助成により行われました。

2016年2月16日火曜日

第一回ラック研究会・講演会「ラック生産の現場から」無事終了しました

おかげさまで2月13日(土)に、京都市の稲盛記念会館にて開催致しました
盛会をもって終了することができました。
北は群馬、茨城、南は九州から、
ご来場頂きました皆様、どうもありがとうございました。

また、時期が悪い、遠方で参加できないとご連絡を下さった皆様からも
是非第二回の開催を、というご要望を頂き、
改めて現在の日本におけるラックの注目度に驚いているところです。

日本セラック協同組合加盟会社様にもご協力いただき、
シェラック(セラック)製品のご展示と、
製品解説パンフレットをご提供くださいました。
どうもありがとうございました。

京都大学名誉教授の渡辺弘之先生からは、
貴重な1990年代のラック生産現場のお写真を拝見できた他、
先生が長年にわたり収集されていた
ラックやコチニールを使用した食品の包装紙などもご展示頂きました。

知らない人が見たら一体何だこれ!?ですよね。
渡辺先生の収集力に脱帽です。

先生はなんとこれらを2種類のゴミ袋(!)に入れてお持ちになられたのですが、
種ラックを入れる竹籠(左)、2005年のブータンのラックという貴重な品も。

中国留学経験のある画家の沓名弘美さんは
長年、綿臙脂について調べられており、
貴重な中国語の文献資料と、雲南省の山中での現地調査の写真は
さすがという感じでした。

また、各地で収集されたスティックラックと
綿臙脂についての解説ポスターを展示してくださいました。

ブータン渡航歴70回以上の久保淳子さん、
現地での貴重な写真と、ラックの利用方法を動画を交えてご紹介下さいました。


貴重な染色品コレクションと、染め糸見本です。
ラックの色が重要な役割を果たしています。

最後に私がインド調査の報告を致しました。
特に、3日しか生きられないラックカイガラムシのオスの成虫の写真と動画は
皆さん驚いて下さったようです。

一昨年と去年インドで収集した品と、ラック染め布の見本、
ラベルを印刷する余裕がなかった上、解説もできず失礼致しました。

ラック研究会のfacebookページに当日の要旨やポスターをアップしておりますので、
ご興味のある方はご覧ください。

では、この後ぼちぼちと1月のインド調査の報告もさせていただきます。

2016年1月23日土曜日

インドでのラックの利用

インドでのラック利用の調査に来ています。
今回は、初めて西インドのグジャラート州のBhujという町の周辺の工房を訪ねました。
インドのラックの主要生産地では行われていない技法での
工芸品制作が残っているとの情報を頂いたからですが、
予想外の情報もあり既にご報告するにも盛りだくさんのため
2月の講演会でお話させて頂きたいと思います。


地元で集めた天然ラックを使った染めのデモンストレーション。
(Dr Ismali and Sufiyan Khatriさん工房)

弓旋盤を使ったラック塗装
(Nirona村)

Nirona村に行く途中の道にあった、ラックのホストの木。
地元ではBerryと呼ぶ、インドナツメの一種。
ラーンチーで見かけたインドナツメ(Ziziphus mauritiana)とは別の種類です。
昔はこれからラックを集めていたけれど、
最近は既に精製されたものをBhujで買えるのでそれを使うそうです。
ラックカイガラムシがついていないか探しましたが、見つかりませんでした。

その他はまた後日!


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この調査は科研費の助成により行われました。

2016年1月9日土曜日

2月13日(土)ラック研究会・講演会開催致します

新年あけましておめでとうございます。

さて、本年、2月13日(土)に、
京都市の稲盛記念会館にて、
第一回ラック研究会・講演会を開催する運びとなりました。



私がラックの研究を始めたきっかけは、
ラックは欧米で漆工品の修理や、模造品に使われるということを知り、
イギリスの額縁修理の仕事をしている友人の協力を得て、
専門の先生を紹介していただいて、伝統塗装材料の研究を始めた時です。

17世紀、東インド会社の交易が盛んになったことから
ヨーロッパではこれまで見たこともない黒地に金蒔絵の施された
東洋の漆工品が大人気となったものの、
その供給が需要に追いつかず、ヨーロッパでも同じものが作れないかということで
使われたのがラックだったのです。

ラックは水や油には溶けませんが、
アルコールやアルカリ水溶液などに溶けます。
その当時、蒸留技術が進み、純度の高いエタノールが作れるようになったことから、
エタノール(酒精)に溶かしたラックワニスを使った塗装が
イギリスを中心に広まりました。
その最も有名な本が、1688年に発行された、John Stalker & George Parkerの
この本の現物をお持ちのラッカー研究家で
既に高齢のため学校を退職されていたB先生宅に通いながら、
先生と共に、その処方に沿った当時の塗装品の復元製作を行っていました。

この本の塗装法は「ジャパニング」と呼ばれるもので、
ラックの他にも複数の植物性樹脂を用いており、
北ロンドンのBethnal Green駅から徒歩5分くらいにある
AP FITZPATRICKという画材専門店でいつも材料を購入していました。
ここは、ドイツのKremer Pigmenteと、
イギリスのAF Suterという会社から樹脂を仕入れていました。
AF Suter社は1990年代までは小売りもしていたそうですが、
私がロンドンで研究をはじめた当時には既に郊外に移転しており、
小売りも止めていましたが、
B先生はロンドンにこの会社があった当時はここで材料を買っていて
いろいろ資料ももらっていたとのことでした。

"A Treatise of Japaning and Varnishing"では、
材料として、松ヤニなどが混ぜられている可能性があるシェラックでなく
スティックラックを粉砕・洗浄しただけのシードラックを使うことを薦めており、
いつもシードラックを使っていたのですが、
ある時、足りなくなり、買いに行ったら、
値上がりしていた上に、以前と品質がガラリと変わっていたのです。

右が後で同じ店で買っていた友人から譲ってもらった古いシードラック
左が新しく入荷していたシードラックです。
これ、どう見ても同じって言えませんよね。
私はこれを溶かしたシードラックにランプブラックを混ぜて
黒ワニスを作っていましたから、当然色は褐色の方が深みがあって良かったので、
いきなり色が薄くなってしまっては、試作品を作っても正確な比較ができません。

当時、AF FITSPATRICKは店長?も変わってしまっていて、
残念ながら以前のことはよくわからないけれど、と言いながら、
仕入れ先が変わったことだけは教えてくれましたが、
それ以上はわからないということでした。
今後、黒っぽい方を再び入手できるという保証もないため、
仕方なく新しい、薄い色のものを1キロまとめ買いし、
これまで作った手板も作り直しました。
いや〜、大迷惑!

その後調べたところ、アメリカ人の書いた古典塗装技法書には
シードラックにも種類があるとして、写真が掲載されていました。
どうも古い方はランギーニ種、新しい方がクスミ種で、
実は透明なクスミ種の方が貴重で高級だということがはじめてわかりました。

B先生はAF Suterの前の社長?からもらったという
枝がついたスティックラックをガラス瓶に入れて飾っていて、
私は先生のお宅に行く度に、いいなあ〜、自分も欲しいなあ、といつも眺めていました。
AP FITZPATRICKでSticklacとして売っている品は枝が取られたものですから。
で、これは黒っぽいので、
当時はこれを水で洗うと透明になると思っていて、
友達から黒っぽいシードラックを譲ってもらい、
水洗い実験もしていたのです。

ロンドンの別の材料店L. Cornelissen & Son、Stuart Stevenson、
ドイツのKremer Pigmenteでも
仕入れているだけでよくわからないという返事でしたが、
Kremerのスティックラックは、インドは未加工品ラックを輸出しないから
ビルマ産だということだけ教えてくれました。
結局、ラックカイガラムシが生息できないヨーロッパでは
ラックの実態を知っている人がほとんどいないということがわかりました。

ジャパニングの復元研究で博論を仕上げたものの、
日本ではさらにラックに関する情報も少なく、
また、他の方からの興味も反応も予想外に少なく、かなりがっかりして、
数年は別のことをやっていましたが、
ある学会で、ラック色素から作られた「綿臙脂」の復元を熱望されている
日本画家のKさんにお会いし、熱心なお手紙を何度も頂いたことから、
ラックの研究を再開することとなりました。

そこから更に数年が経過してしまいましたが
調査をする度に新しい事実が判明します。
つまり、大量生産のためのラックの研究はされていても、
我々の知りたい、種による品質の差などの研究はほとんどされていないようなのです。
日本ででラックカイガラムシを育てられないのが大変もどかしいのですが、
現在わかっている事実だけでも皆さんと共有できればと思っています。