2013年5月4日土曜日

量産の工夫

日本でも岸田劉生のように「劉生額」とまで言われるような
自分の絵に会う額をわざわざ作っていた人は多くないと思います。
公募展でも仮枠のままの展示がされていますし、
日本には額縁文化は根付かなかったのかもしれません。

しかし、ヨーロッパでは絵に付属する額縁の価値は高く、
時代や地域によってその様式も異なり、
額縁修理の専門家が多数存在します。



英語で「金箔貼り」を「Gilding ギルディング」
箔貼り職人を「Gilderギルダー」と言います。
ということで、イギリスの学校でのギルディングの授業のうち、
日本ではなかなか見られないと思うものをご紹介します。

デジカメがまだ普及しはじめた頃の2000年頃で、
当時、デジカメで写真を写していたら、周囲に人が集まってきたくらいの時代です。
このために見直してみたら容量が100KB以下の写真ばかりで、
そういえば当時のメモリーカードは8MBでした。
画像が鮮明でない部分はご容赦ください。

これらは額縁や家具、室内の飾りによく用いられる模様の一部です。
実は、このうち、木で彫られたものはごく一部なんです。
それ以外は何で作られているかと言うと、
和菓子を型抜きするのと同じ方法なのです。
これをイギリスでは「Compoコンポ」と言います。

辞書を引いてもこの意味が出ているものは少ない専門用語です。
同じ模様をいちいち木で彫るのも大変だから、
うまく量産できる方法を編み出したわけですね。

これらは伝統的なコンポの木型です。
和菓子の型同様に、ツゲなど堅い木で彫られている他、
最近ではレジンの型もあります。
このような特殊な型が彫れる職人さんも今ではほとんどいないので、
辞めた額縁職人から古い型が高値で取引されているそうです。

それでは手順です。
型にはあらかじめ、離型剤として機械油を塗っておきます。
細かい部分にもちゃんと塗っておかないときれいな形が取れません。

コンポの主な材料は、白亜(Whiting)と、膠です。
この膠は、Scotch Glueという、馬や牛の骨から作る接着力の強い堅い膠で、
家具職人が木を接着する時に使うものです。

 溶かした膠を白亜の粉に混ぜます。


柔軟性を出すために、亜麻仁油少々を混ぜます。
人によってはここに紙パルプを混ぜたり、
松ヤニを混ぜて乾燥時のひび割れや極度の縮みを防ぎます。
この処方も人それぞれで、秘密にしている人もいます。

すべてをよく練り合わせます。

油を塗っておいた型に押し込みます。
空気が入らないように均一に。
逆さにして押さえ、コンポを型のすみずみまで行き渡らせます。
プレス機を使うこともあります。

 型から抜きます。
写真だけだとお菓子みたいで美味しそうに見えますが、
実際は骨膠と機械油の匂いでかなり臭いです。

 不要部分をナイフで切り取ります。
余ったコンポは実は再利用できるのです。
たくさん作って冷凍しておいて、必要な時に電子レンジでチン!もできるんですよ。
 模様部分だけをそぎます。
これを、加飾したい額や板に膠で貼り付けます。
乾燥したら、その上に白亜粉とウサギ膠を混ぜた「Gessoジェッソ」という
白い下地を塗り、さらに、金箔の色を鮮やかにみせるための黄色の土や
赤い土を薄めた膠に溶いたものを塗ります。

そして、その上から「Gold Sizeゴールド・サイズ」という金箔接着剤を塗ります。
これはフランスのルフラン社の「ミクスシオン」という名前の
油性のゴールド・サイズで、黄色く着色されています。

ゴールド・サイズがほどよく乾いた頃に、金箔を乗せます。
 このタイミングが重要です。
この場合は、リス毛の「ギルディング・モップ」という道具を使って、
細かい部分にも金箔を押し込んでいます。
画面中央下に見える黒っぽいものは
同じくリス毛の「ギルディング・ティップ」という道具で、
平面に金箔を置く時に使います。

金箔は、「ギルディング・パッド」という、鹿革が貼られたクッション台の上で
「ギルディング・ナイフ」という刃がそれほど鋭くないナイフで切り、
モップやティップで移動します。
箔がうまくモップにつかない場合は、髪の毛にある微量の油をつけたりします。

これはオイル・ギルディングのやり方ですが、
この他にウォーター・ギルディングという方法があります。
これは下地に含まれる膠分を利用する方法で、
薄めた膠水を糊がわりに使いますが、箔を置くタイミングが難しく
初心者にはオイル・ギルディングの方がやりやすいですが、
磨いて艶を出すにはウォーター・ギルディングでなければなりません。


今回はコンポについてのご説明ということで、ギルディングについてはまたいつか。
欧米の絵画の展覧会があったら、今度額縁にも注目してみてください。
飾りは木彫か、それともコンポか。
大きい額の場合は中に針金が入ったものもあります。

2013年5月3日金曜日

大地の色

ブータンの首都、ティンプーのジュンシ紙工房のすぐ近くに、
「High Quality of Bhutanese Thangkha Painting」という
チベット仏画「タンカ」の工房兼お店があります。


店内にはタンカ以外のお土産物も置いてありますが、
正面右手にはタンカに使われる顔料のディスプレイケースがあります。
土性顔料はブータン製、植物顔料はシッキムからの輸入です。

その他、日本画同様、鉱物系顔料は輸入品です。

膠とアラビアガムを併用しているのでしょうか。

ここのお店の奥では、伝統技芸院の卒業生が中心となって、
展示されていたような材料を使っての伝統的仏画を描いています。






ここの所長のペマさんも伝統技芸院の卒業生です。
「うちはネパールのタンカと違って、天然の顔料しか使っていない。
だからこんなに色が自然できれいなんだ」
と、ネパールのタンカの上に、
ここで描かれたタンカを広げて比較して見せてくれました。

 左がペマさんの工房製、右の大きいのがネパールのタンカです。
こうやって比較すると一目瞭然ですね。
もちろん、ブータンでも天然素材にこだわらないタンカを描かれている方はおられます。

 金粉はブータンではできないので、
ネパールから粒状になったものを輸入しているそうです。
黒地に金で描かれたタンカの部分です。細かいですね。

さて、ここで使われている天然の顔料はどこで作られているのでしょうか。
その後訪問した、東部タシヤンツェの伝統技芸院のタンカ科の先生に伺いました。
(伝統技芸院の紹介はまた別の機会に)
これらの顔料はすべてブータンにある自然の土で、
作っているのはWomrongという、
タシヤンツェから南のインド方面に向かう道中にあるということを
優秀な当時のガイドのツェテンはちゃんと覚えていてくれて、
Womrongの町に着くと地元の人に聞いてくれました。
 この家の人が顔料の原料になる土を山から採取して、
選別、水干して作っているのだそうです。
壁に描かれている絵も間違いなく自家製顔料でしょう。


これが、顔料小屋です。
壁の木の上に並んでいる黄色い塊が、乾燥中の黄土です。

赤、黒、白、黄色をそれぞれ入手してきました。

翌年は、逆ルートでインドから入国しました。
洪水でガタガタになった道路を延々と3時間くらい走り、
入国手続きに2時間かかり、さらにブータン国内の悪路を数時間、
よれよれになって半分寝ていたのに、
不思議とこの場所の直前で目が覚めました。
急いで車を停めてもらって、あの家に直行。
道を挟んだ反対側の小屋は去年と作りがちょっと違っていましたが、
まだあって良かった!



これらの顔料は、タンカだけでなく、建築塗装にも使われています。
あの暖かみのある色はここで作られていたのですね。

ブータンの大地の色で彩られた美術工芸品と建築物がいつまでも残りますように。

南米の堆錦

沖縄には、大量の顔料を漆と混ぜて粘土のように練り合わせて、
餅のように搗いて混ぜたものを薄くのばし、
それを切って漆器の表面に貼り付ける「堆錦」という技法があります。

これは、沖縄の気候だからこそできる技法であり、
本土でやるとなかなかこの餅状のペーストが固まらなくてうまくいかないのですが、
岡山県の漆芸作家、山口松太さんは、
ウルシオール分が多い岡山県産の備中漆を高温で加熱する技法を編み出し、
独自の作品を作られておられます。


さて、南米コロンビアには堆錦のような工芸品があります。
Mopa Mopaというアマゾンの熱帯雨林にしか生えない木
Elaegia pastoganomophoraの実
(※ネット上には蕾という説も見かけますが、
私が聞いた解説では「実」でした)
から採れる樹脂に顔料を混ぜて加熱し、
薄くのばしたものを器物に貼り付けるのです。

これは、南コロンビアのPastoという地区に住むインディアンに伝わる
伝統技法だそうです。
スペイン語では"Barniz de Pasto"「パストのワニス」と言われます。

Eduardo Muños Loraさんという有名な作家さんが、
ロンドンのギャラリーで個展をされた時に実演をされた時の様子です。

 これが原料の「モパモパ」という木の樹脂を集めたものです。
これを何度もお湯で煮て、金槌で叩いて不純物を取り出すそうです。
この工程は2-30回繰り返されるそうです。

ゴミを取り除いてから再び茹で、植物性色素を良く混ぜ込んだものがこれです。

モパモパは、加熱すると柔らかくなるのですが、水に溶けないので、
直接お湯の中に入れて茹でます。

手で良く練ってから、口にくわえて

 引っ張ると、こんなに薄く伸びます。

 細工の様子が見えやすいように、白いお皿の上で実演して下さいます。
薄くした樹脂は、お皿にぴったり貼り付きます。

 デザインナイフで、下書きもなく手慣れた感じで模様を切っていかれます。

 細かい模様もすべて下書きなしです。

 顔料を入れない状態だと、こんなに透けているということを見せて下さっています。

この透明感を活かして、重ね貼りなどの技法も可能です。

で、肝心のEduardoさんの作品の写真は撮影できなかったので、
ネットの動画でご覧ください。
何かを切って貼って作ったとは思えない、
まるで絵画のようなクオリティーです。


Eduardoさんは英語をまったく話されないので、通訳の方がついておられましたが、
日本にも来られたことがあるそうです。

その他の作家さんの動画もYouTubeにアップされています



南米には、まだまだ我々の知らない謎の樹脂が存在するのですね。

なお、この樹脂で加飾された17世紀の銅版に描かれたフランドル絵画の木彫額が
エジプトのボゴタの古い協会で発見されたという話題もあります。
これは、コロンビアという国ができる前の時代のものとされています。
(リンク先はスペイン語です)

2013年5月2日木曜日

絞りのアイドル

2008年のある日、まだ始まったばかりで試行錯誤中だったのか、
番組の内容がごちゃごちゃだったころの「和風総本家」を見ていました。

あるコーナーで、強烈な名古屋弁のおばあちゃんが弾丸の如くしゃべりながら、
絞りの糸を巻いているのに驚愕。
なんとしてもこのおばあちゃんが生きている間に会ってお話したいと調べたところ、
毎年6月の第1土、日に有松絞り祭りで実演があるということがわかり、
とにかく勢いで行って来ました。
日本に帰国してまだそれほど経っていなかった頃なので、
同じ国内なら遠いという気がしなかったという時期です。

有松は東海道の宿場町で、東海道線や名鉄線の駅からすぐと交通の便も良く、
古い町並みも残った雰囲気の良い町でしたが、
この日はさすがに狭い旧東海道の道一杯の人、人、人です。

「有松山車祭り」で使われる山車も展示されていました。
からくり人形が乗っています。
こちらは10月の第一日曜に開催されるそうです。



さすが、幕の刺繍も素晴らしいです。

まずは「有松・鳴海絞会館」で、絞りの技法について下調べです。
様々な絞り染めの技法が、くくり糸を解く前の状態と、染めを行って広げた部分が
つながった状態で展示してあり、大変わかりやすいです。

江戸から続く老舗の絞専門店の竹田嘉兵衛商店さん
の展示など見学しつつ、実演会場のある東の方に向います。

いらっしゃいました、こちらがお隣の鳴海町在住の本間とめ子さんです!

絞り職人最高齢の北野とよさんとの2ショット。
当時北野さんは92歳、本間さんが86歳だったと記憶しています。
北野さんは8歳、本間さんは7歳の頃から絞りをされていたそうです。

丁度お昼時で、職人さんが半分お食事に行かれていたため、
本間さんが大サービスでほとんどの技法の解説をやってくださいました。

三浦絞り(やたら)

巻き絞り

巻き上げ絞り

鹿の子絞り
 会場では、熱心な皆さんが真剣に、質問しながら見入っていらっしゃいました。

手蜘蛛絞り
当時は本間さんしかできないという話でした。
なんだか生き物みたいですね。

糸を解く前の状態を見ても、どんな模様ができるのか、
素人にはなかなか想像がつきません。

北野とよさんの三浦絞り。眼鏡を使われていないのが凄いです。

こんな複雑な模様が絞技法でできるというのに驚きです。
巻き上げ絞り


縫い絞りには、ちゃんと針穴が空いているのがわかります。
縫い絞り

こんなに手間のかかっている作業を見るだけでも、
絞りの反物が高価な理由がわかります。
この後には、染め、糸解き、仕立ての作業がまだまだ続くわけですから。
しかし、着物を着る機会の減った現代では、こういう需要もどんどん減少し、
この技術で食べて行く後継者の養成も
なかなか難しいことだと思います。



2013年5月1日水曜日

花はもう少し先

しばらくお見せできませんでしたが、今年の春は気温が安定しないせいか、
漆の花はあともう少しです。

写真を撮りに行くと必ず風も吹いていて、こんな感じです

つぼみはだいぶふくらんできました。

こうやって見ると椰子の木のようですね(笑)
こちらは幹からも葉が出て来ています。

昨年根元から苅った木賊もどんどん復活してます。
ほんとうに丈夫です

タデアイもちょっとだけ大きくなりました。