2015年1月2日金曜日

初詣の赤

新年あけましておめでとうございます。
うちの近くは大晦日の夜から雨が雪に変わりましたが、
幸い大雪にはならない元旦となりました。
それでも、時折ぼた雪が吹雪のように降り出したので、
その間を縫って初詣に出かけました。
まずは氏神様にご挨拶。
あたりが白黒の世界の中、朱色の鳥居が目を引きます。

次に、地元の神社です。
雪のせいで、今年はあまり混んでいません。

雪の中で朱色の社殿がやはり目立ちます。
国の重要文化財である本殿、拝殿、高舞殿などは
数年前まで平成の大修理が行われており、一層色が鮮やかです。

裏手にあるお稲荷さんの鳥居も近年新調され、
ひときわ鮮やかになっていました。

こちらはかつて神社の境内にあったものが
明治時代の神仏分離令で山の中腹に移築された
江戸時代初期に再建されたお寺の三重の塔です。

まるで全体に雪がかぶってしまったように白っぽくなってしまっています。
この塔も国の重要文化財で、1980年代に大規模修理が行われたのですが、
30年少々でここまで白化しています。

晴天時でもこんな感じです。(一昨年の写真)

除夜の鐘の時だけ撞ける、これも国の重要文化財の梵鐘と鐘楼です。
こちらも柱部分がかなり白化していますが、
屋根の下がまだ鮮やかな朱色です。

この朱色、「丹塗(にぬり)」と呼ばれますが、実は、

鉛丹(えんたん):四酸化鉛 Pb3O4
別名「光明丹(こうみょうたん)」
英語名 Red Lead

弁柄(べんがら): 酸化鉄(III) Fe2O3、別名「紅殻(べにがら)」
英語名 Red Iron Oxide, Indian Red

(しゅ):硫化水銀 HgS、別名「銀朱」「水銀朱」「朱砂」
英語名 Vermilion, Cinnabar

の3種類の異なる赤色顔料が使われていました。


現在市販されている漆芸用の水銀朱です(日華化成製)
左から「黄口」「淡口」「赤口」「本朱」で、
粒子が細かくなれば黄色っぽくなり、粒子が粗いものが茶色に近くなります。
「辰砂(しんしゃ):英語名cinnabar」は中国などで産出する天然の朱ですが、
日本では現在、少量が人工的に生産されています。

元々「丹」は水銀朱を指していましたが、
平安時代頃から「鉛丹」が使われるようになりました。
水銀朱はコストがかかりすぎること、
また、人工的に作る製造工程で出る廃液の問題などで、
現在では建造物に使われることはまずありません。
ですから、歴史的建造物の修理や新築の際には鉛丹と弁柄を混ぜて
色をあわせて使われているようです。

これが鉛丹です(ドイツ、Kremer Pigmenteで購入)
一番黄色味が強い黄口朱と比較しても、赤というよりもオレンジ色です。
鉛丹は酸素を遮断する性質があり、
現在でも金属のさび止め塗料として使われています。
鉛と言うと重い印象がありますが、
この顔料は粒子が細かく大変軽いものです。

「弁柄」と言う名前はインドのベンガル州が由来です。
日本でも縄文時代の遺跡から「パイプ状弁柄」という
有機微生物の作用によりできた天然弁柄が出土しており、
土器の彩色に使われていたことがわかっています。

岡山県の吹矢(現:高梁市)では、近くの銅鉱山の副産物の硫化鉄鉱から
「緑礬(ろうは)」FeSO4・nH2O
というものを作り、それを焼いて水洗などの処理をを繰り返し、
発色の良い人工弁柄を作っていました。
この弁柄は、磁器の絵付けや漆器用の顔料はもちろん、
ガラスや宝飾品の研磨材などにも用いられていますが、
ご存じのようにこれは赤というよりは茶色に近く、
単体では社寺建築でイメージするあの赤色にはなりません。

西日本の古い町並みには弁柄塗りの家屋がよく見られます。

先日行ったインドでも、西ベンガル州に隣接しているJharkhand州に
天然に取れる弁柄を住宅の壁に塗っている村がありました。
弁柄は耐候性に優れた顔料なのです。

さて、ここまで白化してしまったこの塔の朱色は
一体何だったのかという疑問が残ります。
個人的には顔料本体よりも
混ぜた塗料本体(バインダー)の方に問題があったのではないかと思っています。

白くなってしまった塔だけでなく、
塔の一階の両扉には天女の絵が描かれていたのですが、
当時、修理の予算が足りないからと手がつけられなかったそうです。
常に開けられているわけではありませんが、現在はこのような状態で、残念です。

この雪の中でも椿が咲いていました。
雪の中の赤は一段と鮮やかです。

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