2014年7月19日土曜日

コチニールの赤

先日の「赤く染める」の話はラックが中心だったことと、
コチニールについてはペルーに行かれた竹田晋也先生が
現地の写真をお見せくださるとのことで、あまり詳しくは触れませんでした。

竹田先生が2008年に雲南懇話会でも使われたスライドの写真には
メキシコのティオティワカン遺跡の壁画や、
ペルーのパチャカマック遺跡の外壁に塗られたというコチニールの赤色の写真の他、
ペルーのリマに日本人の天野芳太郎氏が設立したた天野博物館の展示品のうち、
遺跡の砂の中から発掘されているにも変わらず、
鮮やかな色が残っているコチニール染めの染織品を見ることができます。
高松塚古墳の壁画に用いられたラック色素も1000年を超えていますが、
コチニールの耐久性も相当なものです。

「コチニール」とは、南米のウチワサボテンにつくコチニールカイガラムシのことで、
少量でも鮮やかで耐光性に優れる赤色が取れることが
南米を征服したスペイン人により発見され、
その後、世界各地で養殖が試みられたばかりでなく、
それ以前にヨーロッパで使われていたケルメスカイガラムシは
色素量が少なく、使われなくなってしまったのです。

コチニール養殖のためにオーストラリアに輸入されたウチワサボテンは
残念ながら何故かそこではコチニール養殖は失敗に終わったのに反し、
天敵のいないオーストラリアの地で爆発的に繁殖してしまい、
今度は南米からウチワサボテンの害虫を輸入して駆逐したという話です。
(詳しくはギルバート・ワルドバウアー著「虫と文明」をお読み下さい)

コチニールは、雌の成虫だけが赤い色素を持ちます。
以下の写真は、以前、イボタ蠟の養殖地の写真をお送りくださった
河合省三先生からお送り頂いたものです。
(河合先生、ありがとうございます)
 ペルーのコチニール養殖地。ウチワサボテンが大量に栽培されています。

 この白っぽい部分が、コチニールカイガラムシです。

拡大するとこのような感じです。
大きく丸いのが雌のカイガラムシ本体で、卵を持っています。
白っぽい粉のようなものは、水をはじく蠟分だそうです。

卵を持った雌のコチニールカイガラムシをこのような袋に入れて
新しいサボテンに接種して増やすそうです

生長した雌は、刷毛などでサボテンから落として集められ
乾燥してから出荷されます。
こちらが普通に見かけるシルバー・コチニール。
これは、天日かあるいは低温オーブンで虫を殺して乾燥したものです。
乾燥しているため、生きた虫の大きさの1/4程度でしょうか。

こちらは、カイガラムシにお湯をかけて殺した後に乾燥した
ブラック・コチニールです。
シルバーの方が色が良いからか、
これに白い粉をまぶしてシルバー・コチニールとして売られているものもあるとか。

これは、私が持っているコチニール5種と(左下以外)、
ブータンのラック樹脂からカイガラムシの雌だけを取り出したもの(左下)を
それぞれ5匹づつ一昼夜、精製水に浸した色出し実験です。
この状態で色がこれだけ違うということがおわかり頂けるでしょうか。

実際の染めには、ペルーではレモン汁を加えてオレンジ色に近い赤に持っていったり、
逆に、水酸化鉄を加えて濃い紫にしたり、様々な赤を出しています。

まだまだ実態が知られていないラックやコチニール色素ですが、
実は、食用色素として我々の口に入っています。
虫を食べている、と嫌がる方もおられるようですが、
蜂蜜も蜂の身体を通して濃縮されているものだと考えれば、
コチニールやラックも、植物の汁を吸って色素を作っているだけで、
決して虫の身体を食べているわけではありませんので、
ご安心頂けるのではないかと思うのですが。

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