我々が普段目にする絹は、
カイコガ(Bombyx mori)の繭から作られますが、
その他の蛾の繭からも絹糸がつくられています。
人により改良が繰り返され家畜化し、
野生では生き延びることができなくなった蚕は
「家蚕(かさん)」と呼ばれるようになりましたが、
それと違い、自然の中でも育つ蚕は
「野蚕(やさん)」と言われます。
日本にも「ヤママユガ(Antheraea yamamai)」や
「クスサン(Caligula japonica)」など数種の野蚕が生息していますが、
希少でほとんど見かける機会はありませんが、
インドや中国では、野蚕もそれぞれの特色を生かして利用されています。
政府に「染織省」があるインドには、
アッサムに"Central Muga
Eri Research & Training Institute"
という、ムガ蚕(Antheraea assamensis)とエリ蚕(Samia cynthia)、
ジャールカンドのラーンチには
"Central Tasar Research and Training Institute"
という、タサール蚕(Antheraea mylitta)研究と訓練の専門施設があります。
この研究所は1964年に創設され、
現在40人の科学者がおり、
養殖と加工技術を農民に指導しているのだそうです。
道路を挟んで、研究所と農園があります。
タサール絹の製造工程の絵の前にいるのが所長さんです。
所長さんのご案内で、まずは農園から見学となりました。
所長さんのご案内で、まずは農園から見学となりました。
こちらが農園側入り口です。
入ってすぐの場所には、タサール蚕の餌になる木の苗がたくさん準備されていました。
これらが分類されて農園に植えられます。
きれいに並んで植えられています。
(下の方に塗られた白色は石灰を含んだシロアリ防除薬です)
カイコガは桑の葉しか食べませんが、
タサール蚕は何種類もの木の葉を食べます。
これ以外にも沙羅双樹(Shorea robusta)など
餌になる木はたくさんあるようですが、
主力はTerminalia arjunaとTerminalia tomentosaの2種。
この2種のうち、arjunaは葉が細長く
tomentosaは葉が広いということで容易に区別がつきます。
ということで、T. tomentosaで育つタサール蚕を見せていただきました。
この場所には、鳥などの被害を防ぐためネットがかけられています。
え、これで野蚕っていうの?と言われてしまうかもしれませんが、
家蚕のように日に何度も桑の葉を取ってきて与えるという手間がなく
木につけて放っておけばいいから"Wild"なんだそうです。
これが繭を作りだす準備に入ったタサール蚕です。
どこにいるかわかりますか?
どこにいるかわかりますか?
ゆうに10センチ。
あちこちにこんな大きな繭がぶら下がっています。
繭の作り始めはこんな感じで、葉っぱの陰でわかりません。
タサール蚕は、年に3度のライフサイクルを繰り返すそうで、
最短は6~8月の間で、35日で成虫になり、
次は8~10月の間は45日間
冬は気温が下がり、餌の葉も少なくなるため、
70~120日で成虫になるのだそうです。
気温が低くなりすぎたり、湿度が高くなりすぎるといけないらしいので
そのため、生育地域が限られるようです。
さて、研究棟に戻ります。
見本のため、蓋を切って蛹が取り出されていますが、
様々な大きさの繭があります。
これら、それぞれが違う種類のタサール蚕だそうです。
これが一覧表。
糸の長さなどそれぞれ異なるようです。
この柄の部分も、ちゃんと糸になるんですよ。
隣の部屋では、加工が行われていました。
繭から糸を引き出しています。
最新の機械だけでなく、
昔ながらの手回しの糸繰り器もあります。
生糸と
紬糸。
紬糸はこんな機械で作られるようです。
タサール絹は独特の美しいツヤがあり、
王族の衣装としても使われてきました。
そして次に、こんな機械を使ってさらにほぐします。
ほぐした糸はカード機にかけられ、
紡いでギッチャ糸にされます。
そして、織機にかけられ、
さまざまな製品になります。
ラックのインド最大の産地、
つまり世界最大産地のラーンチですから、
この地元産の2つの素材を使った製品が作られればいいのに、と思っていましたが、
やはり既に作られていました。
この他、絹のセリシンを使っての化粧品や薬など
科学的利用の研究もされているそうです。
この日は、限られた時間の訪問だったため駆け足の見学で、
是非また、日本から人を連れて十分な時間を取って来るように、
もし来るなら、繭を採取し、糸を引き織物にするまでの訓練工程が見られる
7月から8月の雨期の頃が良いと言われました。
7月から8月の雨期の頃が良いと言われました。
訪問を検討されている方のご参考までに。
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この調査は科研費の助成により行われました。
この調査は科研費の助成により行われました。
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