昨年秋、京都で開催された漆の展覧会に、
たまたま関空着で来日した、イギリスの友人の知人の知人だというMさんが、
漆についていろいろ質問があるので直接聞きたいとのことで、
ホテルに荷物を置いてすぐタクシーで直行して来ました。
Mさんはこの時が初来日で、日本語も全く話せないのですが、
なんと本とYouTubeだけで独学で漆を勉強しているという人で、
これまで自分の作ったという作品の写真を何枚も持参していました。
イギリス人ということで、完全な初心者かと思っていたら、
伝統的な梨地も含め、とても独学とは思えないレベルの仕事で仰天。
漆も道具も全て日本からネット通販で購入したとのこと。
いやはや、凄い時代になりました。
Mさんから質問されたものの一つに、シボ漆がありました。
シボ漆とは「絞漆」とも書きますが、
漆にタンパク質を混ぜると粘りが出て、
通常なら縮んでしまうような厚みにも塗れるだけでなく、
独特の模様が出せるというものです。
自分も変塗をやっていた時にシボ漆は作りましたが、
学生時代に先生から、「卵白や膠は難しいよ」と言われ
一番簡単だという豆腐でしかやったことがありませんでしたが、
Mさんは、豆腐では自分の思うようなシボができないので、
是非卵白でやりたいのだが、どうしても漆が分離してしまうので、
どうしたら良いのか?ということでした。
これまで豆腐のシボ漆で困ったことがなかったことで、
卵白についてはわからなかったので、
当日の当番だったFさんにも聞いてみたところ、
「少しづつを手早く混ぜれば大丈夫ですよ。」とのこと。
Mさんは「帰ったらさっそく実験する!」と、喜んで帰って行かれました。
展覧会が終わった後、せっかくなので自分でもやってみようと、
家にあった潤漆(うるみうるし:弁柄漆と呂色を混ぜた漆)で実験してみました。
要は、水溶性タンパク質を混ぜれば良いのですから、
最近、米粉パンを作る時に加えるために売られている粉末グルテンと、
古くなって全く接着力がなくなってしまった瓶入りの鹿膠もついでに試してみました。
卵白を混ぜる時はスポイトで少しづつ加えながら手早く混ぜると
最初は分離しているものがある瞬間からさっと混ざり、
一気に粘度が上がり、餅のようになりました。
(どうしても両手を使わねばならないため、作業中の写真は撮れませんでした)
これを、学生時代に中塗りを研いで放置していた実験手板を
マスキングテープで区切ってそれぞれをヘラ付けしました。
左上から:卵白、卵黄、古い瓶入り鹿膠、MH膠
左下から:何も混ぜない潤漆、ウサギ膠、豆腐(水切りしたもの)、グルテン(粉末)
ヘラ付けですので、何も混ぜない状態のものが縮んでいたり、
裏も別の実験に使っている手板の汚れはご愛敬として下さい。
それぞれの素材を漆に混ぜる分量や、もちろん膠の濃度も関係してくるとは思いますが、
それぞれに特徴が出るのは面白いですね。
卵黄は油分が含まれていることもあって、一番柔らかく、つや消しになり、
古い鹿膠がヒビ塗りみたいな効果が出るのも面白いなと思いました。
豆腐はかちかちで、グルテンは塗った直後にはあった角が完全に消えてしまいました。
MH膠は既に製造中止になってしまった粉末膠ですが、
柔軟性が高いが接着力は弱いウサギ膠とはあまり差が出ませんでした。
鹿革の上に漆を印刷した印伝の漆もタンパク質添加漆です。
この上に重ね塗りをして研ぎ出したり、
膠などの濃度や配合比を変えたりすることで、さまざまな表現ができそうです。
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