2014年6月16日月曜日

蟻と化学

先月から蟻が大量発生し、家の中まで入って来て困っています。
蟻が寄ってくる甘いものを全部片付けたところ、
今度は米びつの中に入って糠を運び出していたのにはびっくり。
雑食性なのか、どうして食べられるものを区別するのでしょうね。

蟻に刺されたことがある人はわかると思いますが、
刺された瞬間から痛がゆく、蚊よりかゆみが長く続きます。
これは蟻の持つ毒、「蟻酸(ぎさん)」によるものです。
蟻酸は、17世紀のイギリス人博物学者John Rayにより
大量の蟻から初めて抽出されたそうで、
英語の"formic acid"は、ラテン語の「蟻」"formica"から来ています。
蟻酸には、殺菌、殺虫、殺ダニ、防腐などの効果があり、
革なめしや繊維加工にも使われています。

"formic"という言葉で気づく人がいるかもしれません。
シックハウス症候群で問題になった「formaldehyde:ホルムアルデヒド」(CH2O)
の酸化が進むと、この蟻酸(CH2O2)になるのです。
学校の実験室にあったホルマリン漬け標本を覚えておられる方も多いでしょうが、
ホルマリンは、この「ホルムアルデヒド」を水に溶かしたもので、
ホルマリンには防腐効果があるのです。

学生時代、漆工の下地で使う姫糊(上新粉で作った糊)の
腐敗防止と、糊下地の耐水性を増すために、
糊にホルマリンを少量混ぜることを教わりました。
その臭いのきつさ(糊の熱がさめないうちに混ぜると気化してしまいますが、
糊はなかなか熱が冷めないのです)と、
いちいち量を計る面倒さ(ほんの少量で大丈夫)もあったので、
私はあまり使っていませんでしたが、
お椀などの食器に使うのはやはり好ましくなさそうですから、
現在は混ぜている人は少ないと思います。

シックハウス症候群で問題になるホルマリンは
ベニヤ板の接着剤として、ユリア樹脂とあわせて使われています。
「ユリア」とカタカナで書かれると一見わかりませんが、
これは「尿素」(CH4N2O)のことです。
安価で強力な接着性があるため、現在でもホルマリンの使用量を最低限にして
使われています。
数日前に梅毒患者の尿で加工されたフェルト帽の話を書きましたが、
尿素も、畑の肥料だけでなく、身近なところに姿を変えて存在しているのですね。

尿素つながりでついでに。
「ウレタン」を英語で書くと"urethane"、
正確には製品化されているものは
「ポリウレタン(polyurethane):ウレタン樹脂」ですが、
これも元々はureaから来ています。
英語の発音は「ポリユーリシン」に近い感じで、
これはちょっと紛らわしいですが、これは尿素を材料としているものばかりでなく、
ウレタン結合をしている物質を指しています。
イギリスの学校時代、同級生のイギリス人が
「Urethane, urea...yuck.」って言ってましたが(笑)

ところで、イギリスの学校では化学の授業が必須だったため、
必死で英語の化学物質名を覚えました。
幸い、イギリスの義務教育では化学が必須でないため(!!)
化学の授業自体が生まれて初めてという学生と一緒の勉強で、
(特に、48歳にして生まれて初めて化学を勉強するという同級生は
毎回顔が真っ青でした)
「酸てなに?アルカリって何?」なんて基本からスタートする
割合簡単な授業だったのでなんとかついて行けましたが、
「クエン酸」の「クエン」は英語じゃなく日本語で「枸櫞酸」だったと知ったり、
英語の名前を覚えることでその由来がわかったものや、
化学記号"K"と英語"potash"とが一致しないカリウムは、
元々はpot-ash(灰)だったとか、
同じく英語では"sodium"のナトリウムは「ソーダ」から来ているとか、
身近なものに置き換えることで、少し化学に親しみが出るようになりました。

ところで、蜂や蟻に刺されたら、尿をつけると早くなおるという民間療法もありますが、
毒の成分蟻酸をアンモニアで中和するということですが、
よくよく考えてみれば尿は中性で(でなければ皮膚が溶けますね)
アンモニアは尿素が分解されなければできないことと、
また、蜂の場合、痛みを起こす原因は
毒に含まれるアミノ酸や酵素のようなタンパク質だそうですから、
これはあまり意味がないとのことです。

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