2017年4月22日土曜日

キーカンにはマコー(1)

2月に タイとラオスにラックの調査に行ってきました。
タイは昨年夏の猛暑の影響で、
秋の収穫は前年の数パーセントという壊滅的不作で、
残念ながら写真は掲載できませんが、
みなさんがいろいろ対策を考えられているところでした。

そして、隣国のラオス北部ルアンプラバンです。
ラオ語でラックは「krang (カン)」または「ki krang (キーカン)」と言います。
"ki"は分泌物というような意味だそうです。

ここではラック染めが行われている他、
2011年に訪問した時には、
市場のあちこちで接着剤として売られているのを見かけ、
もしかしたらラックの一般普及度は世界で一番高いのでは?と思っていた国です。
煎餅のように薄い円盤状のものがラックです。

ラオス国営航空のシートベルトも一般的なグレーでなくラック色です。
(写真を撮り忘れたのでここからお借りしました。
http://www.nomadicnotes.com/lao-airlines-vientiane-to-ho-chi-minh-city/)

街中の染織品店にも、赤紫のストールなどがたくさん売られていて
いやが上にも期待が高まります。

これだけ街中にあるんだから、どの工房でもラックは染めているだろう、
と思ったらこれが大間違いでした。

ルアンプラバンの空港とメコン川の間に
数件の染織、紙、木工の工房などが集まっている工芸村があります。
ここにはメコン川下りのボートの発着場があり
観光客のお土産を作る工芸村が自然にできたそうで、
今では小型観光バスも来るのですが、
村までの道と、村の中心の道路は未舗装の凸凹の泥道です。

さっそく染織工房の看板が。
ここのどこかでラック染めを見せてもらえないだろうか、ということで
まずは一軒目。
解説の右一番上の写真がラックです。
つまり、ラオスの代表的な染め材料ということですよね。

それぞれの染め材と、染めた糸の見本も置かれていましたが、
ラックは見るからに古く、固まっています。

ラック染めを見せてもらえないかと訊ねてみましたが、
今、ラックがないのでできないという返事でした。
なら仕方ないと、別の工房を探すことに。

織り、紙、木工、漢方薬、
と、様々なお店を覗きながらどんどん先へ歩きます。
漢方薬屋の横には紙の原料となるコウゾ(カジノキ?)らしき木を発見。


そして、道を挟んだ向かいにベニノキ発見。


ベニノキの奥が染織の店でした。

奥に行くと、染め作業場所があり、
染材の並んでいる棚の一番上にラックがありました。


さっき見たラックよりも若干新しく、糸の色もきれいです。
ラックだ〜、と騒いでいると、
お店の奥さんが、ここに2ヶ月水に浸したのがあるよ、と見せてくれました。

ラックは、触ると指で潰せるくらいに柔らかくなっています。
ここの染めはラックを一切加熱しないで染める方法で、
別の村に住む知り合いから教えてもらったそうです。

このラックは3年くらい前に北の村から売りに来たのを買ったものだけれど、
ここ数年は売りに来ていないというお話でした。
譲ってもらえないかお願いし、少し購入させていただきました。

ここでは染め体験もやっていると言われましたが、
既に市内の有名工房での染め体験の時間が迫っており、
お話を一通り聞いた後一旦移動しました。

有名工房の染め体験は、お値段は相当のものでしたが、
こういう場所でどういう感じでラック染めを教えているのかを調べるつもりでした。

しかしここで大誤算が!
予約時間から散々待たされた後で、ラック染めははできないと言われます。
現在の染めの担当者がラック染めは鉄媒染法しか習ったことがなく、
それには数日前から準備が必要なので、
先ほど入手したラックがあってもできないとのこと。
さらに、先に支払った体験料の半額しか返せないと言います。
(染色をされている方はわざわざここで体験しないと思いますが、
どうぞご注意ください)
こんなところで不快な人間と不毛な論争をして無駄な時間を費やしたくないので
とにかく半額払い戻してもらい、急いで空港近くの工房に戻りました。

すると、さっきの奥さんはお昼寝中、
ご主人は外出中で連絡が取れない、という返事。
仕方なく、店主が戻るまで村の端まで他の染色工房を当たります。


見本はあってもできないと、ここでも断られました。

やっぱりラックはちょっと古いような。

そしてまた別の工房でも
染材見本棚にはちゃんとラックがあるけれど
結局ここも、染めの担当者がいないからできない、と断られます。
ここのラックはさらに見るからに古い感じです。

どの染織工房でもこういった英語の解説パネルをが掲示されています。
政府の指導が入っているんでしょうね。

すっかり夕方になり、最初のお店に戻ったところ、
奥さんも起きていて、さっそく交渉です。
明日の午後から地方のお祭りに出かけ
戻るのが数日後なので、明日の午前中の2時間くらいなら、
という話に一旦なったのですが、
「あ、でもマコーがないからダメだわ、無理。」と一転。

「既に水に浸して準備できているラックがあるのにどうして?」と言っても、
「マコーがないと染まらない、マコーは山にしかなくて、
今の時期はもうないから無理、ダメ。」の一点張り。

マコーって何?と言っても、山にある木、としか教えてくれません。
これまで各地のラック染めの処方をいくつか読んでいましたが、
そこに書かれていたタマリンドの葉や実、明礬でもないそうです。

「何か酸っぱいもので代用できないの?」と言っても、
ダメ、できない、と、もう譲りません。

マコーが何なのか、何故それじゃないとダメなのか理由もわからないまま
お店の閉店時間になってしまい、引き下がるしかありませんでした。

「マコー」って何なんだよ〜!!

目の前にラックがあるのにラック染めができないこと、
そして、他の工房でラック染めができなくなっていることにショックを受け、
なんとも腑に落ちない気分のまま宿に戻りましたが、
翌日からは気を取り直し、ラック産地に向かいます。

果たして産地にラックはあるのか?
そして、ラック染めはできるのか?
(続く)

=======================
この調査は生き物文化誌学会さくら基金の助成で行われました。



0 件のコメント:

コメントを投稿