2014年5月8日木曜日

黄色のひそひそ話

先日、富岡製糸場が世界文化遺産に登録され話題になり、
昨年は富士山も登録され、日本国内にも次々と世界文化遺産が増えています。

それらに先駆けて、2007年に世界文化遺産となった「石見銀山」。
我々の世代ではもちろん島根県の銀の鉱山、
さらには石見銀山生活文化研究所「群言堂」を連想する方もおられるでしょう。
しかし、戦前生まれの世代の方に「石見銀山」と言うと、
間髪入れず「ねずみとり」と続けられることがあります。

シャーロック・ホームズの小説やドラマの殺人事件によく登場するのがこの「鼠取り」、「猫いらず」とも言われたものですが、
成分は亜ヒ酸、つまり砒素化合物です。
過去に砒素は安価で確実に鼠を退治できるということで、
世界各地で広く使われていたのです。
しかし、「森永砒素ミルク事件」に代表されるように、
犯罪に使われることになったことから販売されなくなりました。

世界遺産の名誉のために付け加えれば、
この「ねずみとり」は実際には石見銀山でなく、
同じ石見の国で銅や亜鉛を産出していた笹ヶ谷鉱山の産物で
江戸時代には既に名前が世にとどろいていた石見銀山の名前を冠して
販売していたそうです。

そんな毒のある物質も美術工芸品に使われていました。
砒素化合物の顔料は発色が鮮やかな上に退色や変色がおこりにくいことから、
古代から世界各地で使われていたのです。
特に英語で「orpiment」、ラテン語で「Auripigment」(ともに黄金の顔料という意味)
と言われる
硫化砒素(As2S3)である「石黄(せきおう)」または「雄黄(ゆうおう)」は、
黄金を連想させるような鮮やかな黄色であり、
別名を「King's yellow(王様の黄色)」とも言います。
これが石黄の原石です。

同じ硫化砒素でもAs4S4の「鶏冠石(けいかんせき)」英語でrealgarはオレンジ色で、
これも大変美しい色です。
鶏冠石の原石です。
これらは同じ場所で取れることが多いため、混同されている場合もあります。

左が石黄、右が鶏冠石を顔料にしたものです。
これらも現在では入手には手続きが必要になる上、驚く程高価です。

石黄が雄黄と言われるなら、鶏冠石が雌黄なのかと言えばそうではなく、
日本ではオトギリソウ科フクギ属、ガンボージの木の実から採取される
黄色樹脂「ガンボージ」、別名:藤黄(とうおう)が
雌黄(または「草雌黄(くさしおう)」)とされています。
ガンボージも鮮やかな黄色を出す染料でもありますが、
エタノールに溶解するため、樹脂にも分類されます。
銀の上にこれを塗ると金に見えるということで、
梨子地漆(なしじうるし)の材料ともなっています。

しかし、中国漢方では石黄が雌黄、鶏冠石が雄黄と表記されているとか。
ややこしいですね。

石黄も、その鮮やかな発色が好まれ漆に混ぜて使われていた時代がありました。
さらに、これを藍で染めた緑色の漆用の顔料(「青漆(せいしつ)」)も作られ、
これがお椀などにも塗られていた時代がありました。
そして、現在もミャンマー漆器に使われている黄色と緑は
この石黄から作った顔料だということで、
ちょっと怖いような気もしますが、
ミャンマーでは漆を手で塗っているにも関わらず
砒素中毒が原因で亡くなっている職人さんがいるとも聞きません。
不思議なものです。

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