東京で製作をするたった一人の漆刷毛職人、田中信行さん。
人毛を糊漆で固めた毛板を、糊漆を塗った檜板に挟み、
接着するときに、檜板の周囲に麻紐をぐるぐる巻きにして固定します。
板に糊漆を塗布し、毛板を挟みます。
4枚の板の間に毛板をうまく挟んで紐を巻きます。
板がずれないように巻くのは結構難しいです。
巻いた紐と板の間に、かまぼこ型の楔(手前の台に乗っているもの)
を打ち込みます。
ねじれがないように平行を調整します。
紐は長いまま、続けて刷毛を巻いていきます。
このまま漆が固まるまで数日待ちます。
紐は切らないで丁寧にほどいて外します。
紐を切らない理由は、このサイザル麻の紐を作る日本の会社がなくなってしまい、
もう手に入らないからなのだそうです。
この紐がなければ漆刷毛は作れない、とまでおっしゃられていました。
楔を打っても耐えられるだけの強靱さと、
引っ張っても伸びない性質が重要なのでしょう。
「サイザル麻」は、麻という名前がつきますが、
大麻の麻(hemp, Cannabis sativa)とは全く違う植物で
リュウゼツランの仲間のAgave sisalanaから採取されます。
サイザルというのは、この繊維を出荷していたユカタン半島の港の名前だそうです。
ちなみに、ダーツの的もこの繊維でできているのだそうです。
海外ではサイザル紐やロープはまだ作られているようですが、
田中さんの使い慣れていた品質には見合わないのでしょう。
ドンゴロス、または南京袋と呼ばれる、コーヒー豆などが入っている袋、
あれも麻袋と呼ばれることがありますが、
あの素材はジュート、または「黄麻(こうま)」という、これまた別素材です。
これはCorchorus capsularisという、シナノキの仲間の植物、
つまり、麻よりもアイヌのアットウシに近い繊維ということになります。
さらに意外なことには、もう一種ジュートと呼ばれる植物に
シナノキ科の植物和名シマツナソ(Corchorus olitorius)がありますが、
これはなんと、モロヘイヤです。
モロヘイヤは花が咲いた後は繊維が固くなってどうにも食べられなくなりますが、
ロープにするほどの素材なわけですね。
他に、バショウ科の「マニラ麻」(Musa textilis)という、
学名にtextileという言葉が入るくらいの植物もあります。
バショウ科、つまりバナナの仲間ですね。
ロープや織物の他、封筒などの紙にも使われています。
沖縄にも芭蕉布がありますが、これはさすがにマニラ麻とは言われませんね。
エコブームで一時、ケナフという素材が話題になりました。
これは「洋麻」ともいう、ハイビスカスの仲間(Hibiscus cannabinus)の植物です。
ケナフはアフリか原産の植物で、生長が大変早いため、
現在では世界各地に移植されて紙などの材料に使われています。
この他、「苧麻(ちょま)」という繊維がありますね。
これはイラクサ科の植物(Boehmeria nivea var.)で、英語ではラミー(ramie)
別名は「からむし」、「まお」、「からそ」と呼ばれます。
日本では福島県昭和村が本土では唯一の産地で、関係施設があります。
新潟の越後上布や小千谷縮は昭和村の苧麻で作られていますが、
八重山上布、宮古上布などは地元栽培の苧麻を使って作られています。
大麻、亜麻、サイザル麻、黄麻、マニラ麻、洋麻、苧麻と
いろいろな麻がありますが、
現在、日本の家庭用品品質表示法によれば、
苧麻と亜麻の2つだけが「麻」と表示して良いのだそうです。
でも、一般に園芸や荷造りに使われている麻紐はジュートですよね。
なかなかややこしいです。
各種繊維の断面や特徴など、
ボーケンさんのサイトにわかりやすく説明されています
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