2017年7月30日日曜日

暑さの利用

あちこちでの豪雨のニュースがあった今年、
幸いというか、うちの近くでは雨はなかなか降らないまま梅雨明けしました。

そうなったら熱を利用しないのは勿体ない。
今年も太陽を利用したお歯黒を作ります。

庭の梅をお酢と氷砂糖で漬けた梅サワードリンクから
梅を取り除き、梅ジャムにした残りの種に
水を入れ、そこに錆びた鉄を入れ、蓋をします。
密栓すると爆発するので蓋はゆるめにしておきます。
これを、日光で熱せられた敷石の上に置くと
梅のクエン酸にお酢と砂糖が入っているので、すぐに泡が出てきます。

数日これを繰り返すと、緑っぽい黒色に変化してきます。

今回入れた錆びた鉄は、折れたヤスリの刃です。
瓶を振っていますので、写真ではわかりにくいですが、
水に浸っていた部分だけきれいに錆が落ちています。
この後反対側も入れてさび落としも兼用です。

梅の果肉や鉄の粉が入るとムラになるので
コーヒーフィルターで濾してから使います。

先に紅茶で染めておいた絹糸をこのお歯黒液に浸しました。
左が元の紅茶の色、右が同じ糸を鉄媒染したものです。
乾くと紫がかったグレーになりました。
これでボタンホールを縫います。

土用の仕事

土用と言えばウナギ、ばかりでなく
いろいろな植物作業が適している時期のようです。
まずは、藍。

6月に生葉染めをしてた時に一度刈りましたが、
空梅雨のせいで部分的に葉が枯れかかってきたり、
虫に喰われてきた場所もあったため、
このあたりでもう一度刈ってみます。
ちなみに、写真の右の方に生えているのはエゴマです。
やはり雨が少ないせいか、これはちっとも大きくならないです。

刈ってから急いで葉と茎を分けます。
茎には藍の色素がないので使えないのです。
葉は全部を一度に乾かせないので、半分くらいはチャック付き袋に入れ
冷凍庫に保管しておきます。
分けた茎は土をかけておくと、そこからまた芽が出て育ち、
秋までに刈れるくらいに育ちます。

しかし、今年は藍にあまり手間をかけていられません。
実は、今年は苧麻(からむし)の加工に初挑戦しているのです

ある道沿いに毎年苧麻が大量に生えていた空き地がありました。
苧麻と麻は日本の古い衣服材料で、
宮古上布や越後上布のような高級な布の材料です。
麻は免許がなければ育てられない植物ですが、
苧麻はこのように今でもあちこちに雑草として生えています。

この空き地の苧麻をいつも横目で見て通り過ぎていたのですが
去年、突然そこが整地され、家が建ってしまいました。
なくなってしまうとなると欲しくなるのが人の常、
それから目を皿のようにしてあちこちを見ていたら!

さっそく看板の出ていた管理会社に電話して許可をもらい、
刈らせていただきました

このように葉の裏が白いのが特徴です。
葉っぱは現場でできる限り取って、茎だけを束ねて持ち帰りました。

実際の苧麻を使う職人さんは上の方を切りそろえますが
どの程度まで糸が引けるかも知りたいので
念のため全部持ち帰りました。
しかし、茎だけでもかなりの重量でした。

皮はこんな感じで簡単にぺろりとめくれます。
しかし、糸のために畑で育てられているものとは違い、傷も多く
幅広のままめくるのはなかなか難しく、
ドラム缶の水に浸して、ぼちぼち剝いています。

ところで、一度皮を剝いた中の茎部分も水に浸しておいたところ
最初には採りきれなかった短めの繊維がヌルヌルになってとれてきました。

この写真の中で、綿みたいに白く固まった部分がそれです。
上布などを作る糸には使われない部分なのでしょうが、
これも何かに使えそうなので、取っておくことにします。
ちなみに、漆器を作る際、欠けや段差を埋める時
「刻苧」という漆の充填材を使います。
刻苧の「苧」がまさに苧麻なわけですね。
この短い繊維を使ってほんものの刻苧を作ろうと思います。

さて、糸の方ですが、これがなかなか進まないので、
まずはほんのちょっとだけ試してみます。
横の方のばらけてきた細い部分を割いてみました。

拡大するとまだ表皮が残っています。
試しにこの段階で漂白剤に浸してみました。

最初はこんな茶色っぽい繊維が、

こんな真っ白になりました。
とても美しいです。
高級織物を作るのでないので、これでも十分に思えてしまいます。

しかし残念ながら
今のところバケツ二杯もとれた苧麻の皮を全部処理する余裕はありません。
ある程度不要部分を腐らせたら、
洗って乾かして保存するしかなさそうです。

2017年7月18日火曜日

バナナとモモタマナ

カンボジアの伝統絹織物の復活に尽力された森本喜久男さんが
7月3日にお亡くなりになりました。
森本さんと親しくお付き合いのあった方とは違い、
偉そうな追悼分も書けませんので、しばらく考えておりました。

私はカンボジアに行ったことがありませんが、
日本で二度お目にかかりました。
そのうちの一回が、2014年4月に開催された、
岐阜県の福井県との県境、石徹白での自然染色ワークショップでした。
森本さんは社会貢献的な部分での評価と報道が多くされていますが、
実際にどのように自然物を使った染めをされているのか、
カンボジアに行かずとも見られる、またとないチャンスと思い参加しました。

1泊2日のワークショップの詳細を書くのは、
これが森本さんの絶対的な方法だと思われてしまっても困りますので、
数年経過した今、思い出したことを書いてみます。

「木綿は自然の色素に染まりにくいといわれているけれど、
灰汁でしっかり精錬すれば染まる。
灰に水を注いで、上澄みがヌルヌルしていればOK。
一番良いのはバナナの灰。」

バナナはカリウムが豊富な植物ということが知られていますが、
つまり、炭酸カリウムが豊富で精錬に適しているということでしょう。

ヌルヌルは、漂白剤を触ると手がヌルヌルするのと同じく
アルカリで皮膚や油脂が溶ける、
つまり繊維の油やタンパク質を落としてくれるということです。
しかし、残念ながら日本でバナナの木は暖かい地域でないと育ちません。
バナナの皮でも大丈夫と言われましたが、
なかなか大量に手に入れることはできないですね。
日本にあるカリウムが豊富な木は何でしょう。

「木綿はオーガニックの方が染まりやすい。」

最近、処分品で買った白い木綿のTシャツを染めたのですが、
何度も精錬したり、タンニンで処理してから染めても定着しませんでした。
オーガニックコットンはお値段も相当なので
自宅で育てている綿の木からの綿が十分たまったら
糸にして染めてみようと思います。

「染め材は細かく砕いてよく煮て、持っている色素を全部いただく。
そして、必ず細かい布で濾す。
染めには時間をかけること。一晩、1日置いたっていい。」

「鉄媒染用のお歯黒は鉄とライムと黒砂糖で作る。」
カンボジアは暖かいので、外に放置しておけば十分だけど、
石徹白は気温が低いので、ということで、鍋を火にかけました。

かつて、黒い漆「呂色」を作るのにもお歯黒が使われていました。
江戸時代には、古釘に熱した焼酎を注いで放置したり、
お酢を注ぐ方法がとられていました、
酢酸鉄、クエン酸鉄、タンニン鉄の違いで、
それぞれ若干色味が異なるので、
現在、呂色漆を作る際には硫酸鉄や水酸化鉄をベースに
複数の酸化鉄を混ぜて色の深みを出すそうです。

以前ご紹介しましたが、私は以下の方法でお歯黒を作っています。

ケヤキの樹皮で染めた二重織りの絹のストールを
明礬で媒染した後、水洗いし、広げて見ていたら、
森本さんが「ちょっと貸してみて」と、下の方だけをお歯黒液に浸します。



手は染まってないよ、と見せてくださいます。

お歯黒液につけたところはみるみるうちに色が変化して、
こんなシルバーグレイと黒に近い焦げ茶に変化しました。
この瞬時の判断、さすがだと思いました。

「黒色はアーモンドの葉を使う。」
森本さんが2日目にかけていらした黒いショールがそれのようです。

しかし、アーモンド??
イギリス在住時代、2月頃、近所に桜によくにた花が咲いていて、
大家さんによればアーモンドの花だとのことでした。
カンボジアのような暑い国に育つような木にはとても見えなかったので、
不思議に思っていました。

そして、2月のラオス調査で
大きく真っ赤な葉っぱを発見。


寺院の庭にあったこの木は、日陰を作るために植えられているようです。

帰国後、植物に詳しい友達に聞いてみたところ、
モモタマナ (Terminalia catappa)だと言われました。
別名、Indian almond。
これで謎が解けました。
日本では沖縄や鹿児島など暖かい地域にしか育たないようです。

先に知っていたら落ちていた葉っぱを全部拾って帰ったのに。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

森本喜久男さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

2017年6月18日日曜日

藍色だけじゃない

さて、今日は珍しく結果からです。
これは全て藍の生葉で染めたものです。
(左2つが絹、右はウール)

今月も報告書やらいろいろめじろ押しの中、
庭の植物は待っていてくれません。
今年の藍は全てこぼれ種からのひとり生えということと、
5月の暑さのせいもあってか、例年より成長が早く、
5月末の時点でこんなに育ってしまっていました。
空梅雨でもあり、一番刈りをしないと枯れてしまいそうだったので
この写真から2週間後、ようやく一気に刈り取りました。
慌てていたため写真はありません。

乾燥させて云々、をしている余裕もないので、
手持ちの絹糸2かせ分を生葉染めをすることにしました。

生葉染めでは通常の藍染のように濃く染めることはできません。

刈った葉の量は結構多かったので、勿体ないなあと
液を鍋に移し、糸の半分弱をそこに戻し、加熱しました。
翌日作業をする余裕がないので、とにかく腐らせたくないという理由でした。

これだけでは少ないので、
いつかセーターにしようと取っておいた
羊毛布団の中身、つまり糸になっていないウールの塊も
適当に足してかき回し、冷めるまで放置しました。

翌朝にはこんな状態でした。
表面は藍色。

絹糸を引き上げた時はこんな感じ。

で、取り出してみたら、あらびっくり。
絹はブルーグレー、羊毛はなんと茶色になっていました。
羊毛も、浮かんで空気に触れていた部分だけが青っぽく染まっていて、
いわゆるムラ染め状態です。

最初の写真は乾かして、糸を玉に巻いた状態です。

アキヤマセイコさんのに、藍で7色を出す方法が書かれていたのを思い出しました。
残念ながら知り合いに貸しっぱなしで手元にありませんが、
現実にできることがわかってびっくりです。

羊毛は涼しい時に暇を見つけて紡がないと
この後、蒸し暑くなったら触りたくないです(笑)

2017年5月30日火曜日

野蚕の糸引き

豊橋のイベントにも出展していたアトリエ・トレビさんは、
野蚕(やさん)のスペシャリストです。
絹のことになるとお話が止まらず、いつもいろいろ勉強になります。
見本として展示されている野蚕繭です。
茶色いのがヨナグニサン(Attacus atlas ryukyuensis)とその仲間、
緑色がヤママユ(Antheraea yamamai)、
金色がクリキュラ(Cricula trifenestrata )です。

下の籠に入った白いのが、我々に一番馴染みの深い絹の素材、
桑の葉を食べる「家蚕(かさん)(Bombyx mori)」です。
家蚕にもたくさんの種類があります。

この他にもムガ蚕(Anthraea mylitta
サク蚕(Antheraea pernyi)
エリ蚕(Samia cynthia ricini)など様々な野蚕があり、
そのうち、タサール蚕(Anthraea mylitta ほか35種)については、
いろいろ説明させていただきました。
この柄の部分もちゃんと糸にされます。

さて、2月のラオスで驚愕。
中の蛹を食べるのだそうです。

インドのタサール繭よりかなり小ぶりですが
タサール蚕の糸は高級織物素材です。
「糸は取らないの?」と聞くと、これから糸ができることも知らないようでした。

お値段を聞くと1キロ2,000円くらい。
養殖でなく山奥から取ってくるそうで、
観光地の市場とはいえ、ラオスでは高級食材でしょう。

もちろん繭の中身は持って帰れませんから、
小さい包丁を借りてさっそく切開作業開始です。
繭のサイズのいっぱいいっぱいまで蛹が入っているので、
蛹を傷つけないように硬い繭を切るのはかなり大変でした。
うっかり蛹に傷をつけると、黄色いベタベタの汁が出てきます。
(虫嫌いの方ご注意)

なるべく糸を長く取りたいので、
最小の切り口で蛹を取り出そうと四苦八苦していると、
向かいの店のおばちゃんまで「そうじゃない」と出てきて、
さっさと縦に数カ所切り込みを入れます。
いやいやいや、蛹じゃなく繭が欲しいんだと言っても、
これから糸ができると思っていない方々には意味がわからないようでした。
(作業に必死だったため、作業中の写真はありません)
そして、市場で座り込んで繭を包丁で切っている我々の様子に
不思議そうに見ていく通行人。

ちなみに、市場で繭のまま売っているのは、
この方が日持ちするからだそうです。

空港ではスーツケースを開けられましたが、中に虫がいないことを見せOKでした。
インドのタサール繭(半養殖)と比べると小粒で硬く、色も黄色っぽいです。
左がラオス、右がインドの半養殖品。

さて、解舒実験です。
お湯だけ、重曹水のお湯では柄の部分以外はほぐれませんでしたが、
炭酸ソーダのお湯では簡単にほぐれました。

インドでは柄の部分(ナーシー)は分けて糸にするそうですが、
量が少ないので一気にやってしまったところ、
ナーシーの方が圧倒的に先に柔らかくなり
逆に面倒くさくなりました。
残念ながら繭は切れているので、生糸にはなりませんが、
できる限り長い糸を引いたものが左下、
それ以外は右の塊。
柄、繭表面、内側、もっとも内側では糸の質が全く異なります。

このタサール風の蛾はAntheraea frithiではないかという話です。

ついでに、あるラオスの染織工房では、
蛾が羽化したあとの繭を、捨ててしまうというので
もらってきていたのをほぐしてみました(右)。
日本の家蚕と比べて小さく、毛羽だっています。
東京のKさんが育てたエリ蚕の繭(左)と比較してみました。

エリ蚕は吐き出す糸が短いので生糸にはならないそうですが、
煮なくても指でつまめば簡単に繊維がほぐれます。

それに比べてラオスの家蚕繭は、一見柔らかそうに見えてたのですが
煮てもなかなか全部がほぐれないばかりか、蛹の抜け殻のゴミも多く、
糸にせず捨ててしまうというのも理解できます。

繊維自体はエリ蚕の方が太くてしっかりしています。

そして、数年前から岩手の漆山に大発生しているのがこれ。
「スカシダワラ」とも言われるクスサン(Caligula japonica)の繭です。
去年は重曹で長時間煮てみましたが、ちっともほぐれません。
今年は炭酸ソーダ(ソーダ灰)でやってみました。

しかし、時期的にほとんどが地面に落ちていた繭だったため、
繊維をほぐそうとしてもブチブチに切れてしまいます。

かつて釣り糸に使っていたというくらい丈夫なはずのクスサンの糸です。
できれば繭ができる夏の終わりから秋に採取したいところです。

これに似ていると思われるのがクリキュラです。
インドネシアで養殖したものを少量いただいていたのですが、
クスサンに比べるとはるかに簡単にほぐれました。
そして、黄色で太くて強い!

「クスサン」はその名の通り楠、桜、ケヤキ、そして漆の木にもつくのですが、
「クリキュラ」はウルシ科のマンゴーにもつくそうです。
インドではかつてマンゴーばかり食べさせた牛の尿から黄色の染料
(インディアン・イエロー)を作っていました。
クリキュラの黄色がマンゴー由来としたら
漆についたクスサンと、他の木についたクスサンの繭の
質や色の差がわかったら面白そうです。

2017年5月29日月曜日

ガラ紡と三河木綿

5月の連休中、豊橋市のほの国百貨店で開催された
『ガラ紡がカンボジアから里帰り』に行ってきました。

三河木綿の方が協力されているカンボジア・コットン・クラブと、
帆前掛け専門店のエニシング
そして、野蚕シルクのアトリエ・トレビの共同催事でした。


ガラ紡とは、日本で考案された紡績方法で、
私が最初に見たのはトヨタ産業技術記念館です。

水力を使って撚りの緩い糸を作るその機械は、
そのガラガラという音も心地よく、不思議と見飽きず、
気づいたら結構な時間になっていて、
記念館の展示の最後の方まで見られませんでした。


ここには手回し式のガラ紡機械見本があり、
実際に動かしてガラ紡のしくみを体験することができました

筒がアクリルでできているので、
中に詰まっている綿の様子がよくわかります。

会期中にはほぼ毎日お話の会が開催されており、
私が行った日は「三河の木綿と棉作り」の日でした。

カンボジア・コットン・クラブでは
使わなくなった三河ガラ紡の機械をカンボジアまで運び調整し
それを使って織物を作って、地元の人たちの生活をささえようという試みです。
今回はカンボジアから現地の工場で働く二人の姉妹を招聘しており
テレビにも紹介されたこともあって、多くの方が来られていました。
織物工場の関係者だった方々を中心に、尽力されている様子を
大変興味深く感じましたl。
私は豊橋に行ったのは初めてだったのですが、
繊維業が盛んな土地だということを今回改めて納得しました。

会場ではいろいろお話をしたり、織りや棉の種出しをやっていたため
珍しくほとんど写真が撮れませんでした。

2017年5月21日日曜日

漆の花

去年のこの時期はブータン調査にでかけていましたので、
久しぶりの漆の花です。


うちにある漆の木のほとんどは丹波1号のクローン、
全て雄の木なので実がなりません。

クローンですが、成長に差があり、
花が咲いているものとまだ蕾のものがあります。

浄法寺から持ち帰った種から育った実生苗が
雌の木だったら実に期待できますが、
今年もまだ花が咲く様子がなし。
種から発芽まで3年かかっていますので、来年に期待します。

種ができたら、
丹波×浄法寺の性質を持つ苗ができることになります。
そして今年もまた1本がここまで育って枯れてしまいました。
昨年はそのすぐ後ろの木が枯れました。
この土地のすぐ近くに井戸があるため、
地下水脈が影響しているのではないかと思うのですが
原因は不明です。
元の木は枯れても、
横からどんどん萌芽が出てきて、苗は増える一方です。

GWの後半、岩手県の浄法寺の漆植栽地で苗を植えてきましたが、
桜の花は終わっていたものの、
漆の木はまだ葉っぱも出ていないような状態でした。
日本は狭いようで広いです。