2016年2月21日日曜日

インド調査2016(5) Ajrakh工房のラック染め

ラック染めをする布には、ミロバランで下染め済みの
野蚕を含む数種類の絹地とウールを合計6枚選びました。
最初から色が濃いのはラーンチー特産のタサール絹です。

お昼はムスリムのSufiyanさんのお宅でヤギのカレーをごちそうになり、
向かったのはさらに別の作業場です。

複数の広い作業場をお持ちでうらやましいですが
しかし、これまで良い水のある場所を見つけて工房を構えても、
暫くして川が干上がってしまったり、
先の大地震でせっかく掘った井戸の水に鉄分が混じるようになり使えなくなり、
新たに良い水のある場所を求めて、何度も移住を繰り返して来られたのだそうです。

ミロバランの粉の入った袋が積まれていました。
他の材料はほとんど地元産でも、これだけは南インドから買っているけれど、
一キロたった30ルピー(約60円)だそうです。
ほぼ送料だけじゃないですか!

さて、染め用のお湯70リットルが沸くまで、まずは媒染液作りです。
まずは明礬1キロを水に溶かします。

溶けたらそれを半分に分けます。

まず、アルミ媒染する布(ミロバランで下染めした絹とウール)を
この明礬液に浸します。

半分に分けた液のもう一方には
錆びた鉄と砂糖とタマリンドの種で作っておいた鉄媒染液を加えます。

バケツの色でわかりづらいですが、鉄媒染液はそれほどたくさん加えません。

ミロバランで黄色っぽかった布が鉄媒染で緑っぽく変化しました。
そして、日に干して乾かします。

次にタマリンド。
柔らかい鞘は甘酸っぱく、このまま食べられます。
前夜から水に浸しておいた方が良いそうですが、
今日は急ぎなのでお湯に浸し、後で水を加えて温度を下げました。

さて、ラックの登場です。
しかし、今まで見てきたラックとかなり雰囲気が違います。
「これはどこで買ったラックですか?」
「いや、買ってないよ、近所で取ってきたやつだよ」
え〜〜〜!
「ピッパリーという木についているやつを取って来るんだよ。
場所は親父が知ってるけど、自分は良く知らない」
「ピッパリー」という木の英語名がわからないので詳しく判断ができないのですが、
間違いなく天然もののラックというわけです。
「1年以上前のもの、古いよ」
突然目の前に現れた「天然ラック」にうろたえる私をよそに、
Sufiyanさんはそんな貴重な品を、一気にがさ〜っとお湯に入れました。
先に聞いていたら、大きい塊をサンプルでもらったのにと大後悔。

お湯でラックが少々柔らかくなったところで、
職人の皆さん総出で、ラックの粉砕大会です。
Sufiyanさんの息子さんまで参加。

手真っ赤っか〜〜〜

砕いたラックをバケツに入れ、

お湯を加えるとこんな感じ。

これを沸騰したお湯70リットルの中に入れます。
大鍋はアルミ製です。

そこに、ふやかしておいたタマリンドを加えます。
以降、全く濾しません。

タマリンドを食えると紫っぽい赤が一気に赤くなります。

ノートの紙をちぎって入れてみました。
上がタマリンド前、下がタマリンド後です。
pH試験紙を忘れたのが残念無念。

30分くらいかき混ぜながら煮続けて色を出します。

職人さん達もちょっと休憩タイム。
我々もここでちょっとお茶を頂きます。

さて、そろそろいいかな、というところで、
先媒染してから十分乾かしておいた布のうち、
まずアルミ媒染分だけを投入します。
(布は濡らしていません)

燃料に使うアカシアの枝を使いながら布投入。

乾いた布でムラにならないのだろうか、
ラックを濾してないけど、布にくっつかないのかという心配をよそに、
作業は進みます。

鍋はかなりの高温のはず。
長いゴム手袋を嵌めただけで、平気でお湯に手を突っ込んでかき回します。

度々布を広げながら、染まり具合も見ます。

30分くらいこの作業を繰り返しました。

1枚取り出して軽く水洗いし、
まあいいんじゃない、というところでアルミ媒染した布を全て取り出し、
次は鉄媒染した布を入れるはずだったのですが、
ここでSufiyanさんがおもむろに


うわあああ!!
と、叫ぶ間もなく、横に置いてあった、カナダの会社から買ったという
ラック色素を投入してしまいました。。。。

どうも、色が予想よりも薄かったようです。

そして、何でカナダの会社なのか?という質問に、
去年アメリカに行った時に知ったからで、
インドではどこで買えるのか知らないから、というお答え。
カナダでラックは育たないんだから、
買うのならインドのラック会社から買う方がいい、
後で連絡先を教えるから、と、
何故か日本人がインド人にインドの会社を紹介するという不思議なことに。

というわけで、鉄媒染はアルミ媒染より少々濃い目になった模様。
ラックの色を濃く出すために石灰水を加えることもあるけれど、
プリント加工を行う場合は明礬に影響を及ぼすので使えないそうです。

取り出した布は水洗いします。

ラックもタマリンドも一切濾していないので、
布の表面にこのようなラックの塊がばんばん着いてます。
でも,古いラックなので溶けて布にべったりは着かないというのは本当のようです。
お湯で洗えば取れるよ、とは言われましたが
ウール地はかなり手こずりました。

この塊も勿体ないと思い、一箇所に集めていたのですが、
息子さんに一気に水中に入れられてしまいました〈涙)。

Sufiyanさんの工房ではラック染めは年に2回しかやらないそうで、
この時出た樹脂はどうしてるの?と聞いたら
全部捨ててる、って答え。
勿体ない!樹脂として使ってよ!とお願いしてきました。

洗った布はやはり地面の上で乾燥です。
石とかブロックとか、布が傷まないのかとか、そういうことは関係ないようです。

残った染め液ももちろん無駄にしません。
どんどん絞りの布を染めています。

端の方はタイヤのゴムチューブを巻いて防染しています。

絞りの糸をほどくとこんな感じ。
Sufiyanさんの義理の弟さんが6日かけて絞りを行ったものだそうです。

この後、黄色い部分に木版プリントをして完成させるそうです。

今回の実験で染めた布は全て実費で購入させて頂いた他、
絞りを途中までほどいた状態の絹・綿の布も資料として入手させて頂きました。
ガイドのDさんは、前日もこの工房にお客さんを連れてきたくらい
頻繁に訪れているそうですが、
ラック染めを見たのは初めてだそうで、
かなり貴重な経験をさせて頂きました。
Sufiyanさん、どうもありがとうございました。


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この調査は科研費の助成により行われました。

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