2015年12月28日月曜日

ラックを訪ねて中国編(1)

去年の同じ時期にインドにラックの調査に行きましたが、
今年は中国の雲南省での調査です。
中国語でラックは「紫胶(ji jiao/ズージャオ)」
または「虫胶(chong jiao/ チョンジャオ)」と言います。

中国にもインド同様、最初はラック研究所として設立され、
その後、ラック以外の昆虫資源に分野を拡大した
中国林業科学院資源昆虫研究所が雲南省の省都、昆明にあります。
この研究所は、西南林業大学に隣接しており、
同大学の学生などとも共同研究を行ったりしています。
しかし、昆明はラックを養殖するには寒すぎるため、
実験農園は南部にあり、研究者はそこに通って研究を行うそうです。
中国語がほとんどわからない私は、
英語の堪能な研究員のCさんと、
マネージメント部門長のもう一人のCさんの業務に同行という形で
双江、墨江、元江の3つの町で見学をさせていただきました。
双江(Shuang Jiang:シュアンジャン)は
雲南省都の昆明より、ミャンマー国境の方がはるかに近い場所なので、
飛行機で最寄りの臨滄(リンツァン)まで行きました
日本のニュースで連日報道されている北京とはかなり違う青空です。
暖かい南部では冬の石炭の消費量も少なくて済むのでしょう。
ちなみにこの空港は、昆明往復の飛行機しか発着しません。

中国にはおよそ20のラック精製工場があるうち、
双江の工場は松ヤニの製造も行うこともあって、最大級だそうです。
最初は国営工場だったところを、現在の経営者が購入し、
来年1月には新工場も稼働予定ということで、
建設中の工場も見せていただきました。

ここが稼働すると、年間2,000トンのラック、
20,000トンの松ヤニの精製が可能となるそうです。

この工場の裏手に、ラック養殖用の木の植栽地も作られていました。
南岭黄檀(ナンリンホワンタン:Dalbergia balansae)」という、
この地の主流のKerria yunnanesisという種類のラックカイガラムシの寄生木で、
夏に高品質のラックが採れるとのこと。
この木の植栽には、資源昆虫研究所が協力しているそうです。

中国のラックカイガラムシは他にも
Kerria chinensis, Kerria sindica, Kerria ficiなどの種類があり。
寄生木も複数種ありますが、
たくさんのラックが収穫できる木はインドのK. laccaのものとは異なるそうです。

次に、稼働中の現在の工場に移動しました。
「ラック良種培育基地」の看板通り、
ここにも、ラックの寄生木が何種類も植えられていました。

れは、「钝叶黄檀(ドゥンイエホワンタン:Dalbergia obtusifolia )」
雲南で最も重要な木で、乾燥に強く、冬季に良いラックを作るそうです。

これはイチジク属の「小叶榕(シャオイエロン:Ficus concinna
観葉植物のベンジャミンよりちょっと大きめの葉です。

となると「大叶榕(ダーイエロン:Ficus altissima)」は、同じイチヂクの仲間で、
いわゆるゴムノキのようです。
この会社の木にも以前はラック虫がいたそうです。

この工場では、松ヤニの精製を行うために石炭を燃やし、熱するため、
その余熱を使って、洗浄したシードラックを乾かしていました。
今日はシードラックを乾かすだけで、シェラック作りは後日になるため、
松ヤニの製造場所の方も見学です。

松ヤニの原料の水抜き作業中です。

原料を加熱し、松ヤニとテレピンを蒸留します。

この赤いタンクで加熱精製された松ヤニをタンクに詰めているところです。
金属タンクもここで作られています。

松ヤニは冷めてから封がされるようです。
膨大な数ですが、このほとんどが日本に輸出され、
タイヤの材料にされているとの話です。

この会社では、シードラック、シェラック、シェラック粉末、ラック色素、
松ヤニ、テレピンの6種類を製造しており、
日本にはエージェントを通しての輸出だそうですが、
日本の会社は粉末シェラックを好んで購入するとのことです。

そして、地元産の雲南種のラックを見せていただきました。
で、でかい!
昔から数人の方に雲南種をもらっていて、
インドのものより大きく分厚いのは知っていましたが、さらにそれを上回る大きさ。
中庭で大騒ぎしていたら、今度は奧からこんなものが。

ごま粒ほどの大きさしかない、生まれたばかりのラック虫が樹液を吸えるのは、
樹皮が柔らかい若い枝だけです。
こんなに太い枝なのに、その年に伸びた若い枝ということになります。
この木は「思芽黄檀(スーマオホワンタン:Dalbergia lanceolaria var. assamica (Benth.) Thoth.)」という木で、
ラックの質はそれほど良くないそうです。

インドではこれほどの太さのものは見ていませんでした。

これは大きすぎて持って帰れないだろうと言われ残念無念。
いつか、これがまだ木についているところが見たいものです
(続く)
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この調査は生き物文化誌学会さくら基金の助成で行われました。

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