2014年12月29日月曜日

ラックを訪ねて1500里(2)

私が研究所に着いた日には、
所長のラマニ博士がハイデラバードでの会合に参加中でお留守で、
技術移転セクションの農業経済担当のヨギ博士が
所内での宿泊やらいろいろアレンジして下さいました。
私が泊まったのは増設された棟で、
エアコンがついているので値段も高いそうです。

研究所はラーンチー郊外のNamkumという地区にあるので、
敷地内のゲストハウスはいちいち町中のホテルから通わずとも済み、
さらに朝夕の時間には隣接の広大なラック農園を散歩できる、
ラックマニアには夢のような環境なんですが、
ヨギ博士と、東大で昆虫学の博士課程を修了したというモノブルラ博士が
日本は南アジア連合(SAARC)の加盟国でないために宿泊費が高くなるし、
町中のホテルの方が安いし町中も見られて面白いんじゃないかと薦めてくれました。
しかし、結局なんだかんだでゲストハウスにまるまる一週間いました。

これが泊まった部屋です。
ヒーターと大型テレビもついてますが、ネット環境はありません。
なんと最初毛布が一枚しかなく、もう一枚頼みました。
インドはどこも暑そうな印象がありますが、北部の冬は特に夜から明け方が寒いのです。

風呂はシャワーのみで、水洗トイレは直してもらったけれど最後までダメで
いちいちバケツで水を汲んで流してました。

さて、ラックの話に戻ります。
宿舎に荷物を置いて昼食を食べ、図書館に案内してもらってから
やっと農園に連れて行ってもらいました。
これが私が最初に見たラックのついた木です。
大喜びの私に、ヨギ博士がラックをちょっと取って渡してくれました。

親指についたのがラックの色素です。
既に夕方なので辺りが暗いですが、クスミ種のラックです。
これらはFlemengia semialataというマメ科の木の根元からついています。

クスミ種のラックカイガラムシが着く木は
現地でクスム(Kusum)と言うSchleichera oleosaと、
Berと言うインドナツメZizyphus mauritianaの2種のみで、
クスムは木が育つのに最低15年かかる上に樹高が高く、
木に登っての作業が危険を伴うこと、
Berは木にトゲがあって作業がしづらいことなどで、
代替植物を探していたところ、この低木が見つかったそうです。
低木で作業がしやすい上、半年で根元から新しい茎が伸びて
半年後には再びラックが接種できるという理想的な植物です。
しかし現在はまだ実験中で、
データがまとまってから農民に育て方などノウハウを伝授するそうです。

根元が真っ黒になっているのは、
カイガラムシが木の樹液を吸って
その余分を甘い汁Honey Dewとして出すため、
それに黒カビがつくためです。

なので、木にラックがいるかいないかの判断に
この黒いカビが葉についているかどうかがひとつの目安になります。
これがラックがついているBerの木の葉です。
知らない人が見たら一体何の病気なのかと思いますよね。
葉が光合成するのにはあまり良くなさそうです。

そして、その上にはラックがこんなに。

Honey Dewとはその名の通り、甘い汁です。
翌朝農園を散歩していて見つけました。
舐めてみるととても甘くて美味しいです。

この蜘蛛の巣についているのも上から降ってきたHoney Dewです。
我々には美味しいけれど、蜘蛛は食べないんでしょうね。

クスミ種、と言うなら他にも種類があるのかと言えば、
研究所のマークにもなっているPalasの木につくのが
ランギーニ(Rangeeni)種のラックです。

ラック樹脂の性質はクスミの方が堅牢で透明度も高いことで、
市場価格も高いことから、
インドでは現在市場の半分がクスミになっているそうです。

ランギーニ種がつくのは前にお見せしたPalas(ブテア)とBer(インドナツメ)、
そして、タイなどではRain Tree (Samanea Samen)

中国ではPigeon pea (Cajanus cajan)というマメ科の植物などです。
(これには今ラックがついていません)

しかし、ランギーニ種はクスムやFlemingiaの木には着かないそうです。

両方の種のラックがつくというBerの木についているラックが
ランギーニかクスムか、どう見分けるのか聞いたところ、
脆いのがランギーニで、硬く締まっているのがクスミと言われたものの、
最初の成長段階では全然わかりませんでした。
農園の作業所の前に摘まれた、ラックカイガラムシの幼虫が出た
ランギーニ種の種ラック(broodlac)の山です。
これは「プンギ」と呼ばれ、新鮮なラックとは別扱いにされるそうです。

これがランギーニ種と言われても...まだまだ勉強が足りません。
(続きます)

※この調査は生き物文化誌学会「さくら基金」の助成を受けて行われました。

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