現在、東京では19世紀イギリス絵画の展覧会が2つ同時に開催されています。
「ザ・ビューティフル」三菱一号館美術館(ヴィクトリア&アルバート博物館所蔵品)
「ラファエル前派展」森アーツギャラリー(テート・ギャラリー所蔵品)
この2つの展覧会の作品に関わる重要人物の一人が
ウィリアム・モリス(William Morris)です。
ウィリアム・モリス(William Morris)です。
ヴィクトリア&アルバート博物館にはモリスの部屋があります。
もともと食堂として作られたこの部屋は、しばらくの間
家具など一切置かないで内装がじっくり見られるようになっていましたが、
博物館の財政を少しでも改善するため再改造され、現在ではカフェになっています。
ロンドンにはモリスに関係した場所がたくさんあります。
生地である北東部Walthamstow(「ウォルタムストゥ」と発音)のモリスの旧宅は
"William Morris Gallery"となっており、
郊外にはRed Houseと呼ばれるナショナル・トラスト管理の元住居、
そして西部Hammersmiths郊外には、モリスが晩年を過ごした、
現在WIlliam Morris Societyの本部がある
ケルムスコット・ハウス(Kelmscott House)があります。
ケルムスコット・ハウス(Kelmscott House)があります。
この家はモリスの生まれる前の1780年代に建築されたものですが、
モリスが先にグロスターシャー郊外に持っていた別荘、
Kelmscott Manorにちなんで命名したそうです。
実は、目の前のテムズ川の上流にKelmscott Manorがあり、
舟で行き来できたからだとのことです。
モリスは最初ここでカーペットのような織物を作っていましたが、
そののち、社会主義運動に傾倒してからはここで集会を開いたり、
近くの建物を使い、彼の理想とする「美しい本」
"Kelmscott Press"を製作しはじめました。
入り口は階段を下りたところです。
馬車の出入り口だったところが入り口になっています。
モリス達が理想とする「美しい本」を目指して作っていた
Kelmscott Pressを印刷していたプレス機です。
使われていた活字の現物も残っています。
活字の書体も、中世の手書き文字からデザインしたものです。
文字だけでなく、19世紀後半までは挿絵も手で彫られた活版が使われていました。
当時の新聞の図版は、専門職人がツゲの木を彫って作っていたのは知っていましたが、
ここではツゲでなさそうなベニヤ板まで使っていたということに驚きです。
緻密なツゲよりも柔らかい線が彫れたということでしょうか?
1983年にWIlliam Morris Societyがこれらの活字と図版を手で組んで、
手漉きの紙に印刷した見本です。
わざと耳を残した仕上げです。
右ページにはKelmscott Houseの正面と、
以下の文章が書かれています。
"...if I were asked to say what is at once the most
important production of Art, and the thing most
to be longed for, I should answer, a beautiful House;
and if I were further asked to name the production
next in importance... I should answer, a beautiful
Book. To enjoy good houses and good books in
self respect and decent comfort, seems to me to be
the pleasurable end towards which all societies of
human beings ought now to struggle."
William Morris
第1に美しい家、第2に美しい本、
それがKelmscott HouseとKelmscott Pressだったとしたら
ここは彼の美学が完結した場所と言えるのかもしれません。
Kelmscott Pressについての解説文もオリジナル活字で印刷されています。
モリス(写真前列中央の髭の男性)の右は娘のメイです。
中庭が見える奥の部屋です。
椅子などもシンプルです。
窓から見える階段。
モリス直筆のデザイン画や、
このような人物画も飾られていました。
親友ロセッティとモリスの妻Janeの複雑な関係を知ってしまうと、
晩年のモリスは宗教的なものに救いを求めていたのかも?と勘ぐってしまいます。
そして、目の前が別荘のKelmscott Manorにつながるテムズ川です。
このあたりはまだそれほど川幅も広くありません。
写真の右手方向にテムズ川を上った先がKelmscottです。
そして下流のテムズの支流であるウォンドル(Wandle)川には、
彼が染織工房を構えたマートン・アビー・ミルズ(Merton Abbey Mills、
現在は商店や住宅、イベント会場になっていて古い建物はごくわずかです)、
さらに先の支流リー(Lee)川の近くが生家のMorris Gelleryです。
Kelmscott Houseは、木曜と土曜の午後2時から5時までしか開いていませんし、
スペースも狭く、展示品もそれほど多くはありませんが、
私が訪問した時には手摺りのオリジナルカードなども販売されており、
地下鉄ディストリクトライン、レイヴンズコート・パーク(Ravenscourt Park)駅からも
それほど遠くありませんから、
モリス好きの方には郊外のロンドンも見られて良いかと思います。
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