2014年6月30日月曜日

茅の輪の「茅」とは?

今日は一年のちょうど半分にあたる日で、
全国の神社では「夏越の大祓(なごしのおおはらえ)」が行われていると思います。
東京の富士塚がある神社では富士山の山開きもあわせて行われますので、
露店が出たり、ある種のお祭りという感じです。
これは入谷の小野照崎神社の茅の輪です。
右手方向ににあるミニチュア富士山もこの時だけ登れるのですが、
これはまた別の機会にご紹介します。

私も実家の近くの神社に行ってみました。
これをくぐると半年分の厄災が落ちるという「茅の輪(ちのわ)」が設置されています。
田舎の平日の昼間なので、人が少ないですが、
実は、この後駐車場で行われる餅蒔き会場の方に人が大集結しているのでした。
ご祈祷も空いているので、いつもこの時間帯を狙って来るのです。

 実は茅の輪ってしげしげと見たことがありませんでした。

藁ではなく笹でもなく、草の葉っぱです。

「茅葺き屋根(かやぶきやね)」とはよく言いますが、
母の実家は川のすぐ側にあったことで、
葦を何年分かためておいて葺いていたと聞いています。

これは、旧浜田庄司邸である、益子参考館の母屋。
葦か茅だけでなく、藁も使われているようです。

英語でも"thatched roof"という言葉があります。
あの「サッチャー首相」の"Thatcher"は、「草葺き屋根職人」という意味です。
これは16世紀に立てられたというthatched roofの、私の先生のお宅です。
イギリスの建築文化財にのGrade2に指定されており、
上に保護ネットがかけられています。

じゃあ、茅って一体どんな草なのでしょう?
調べてみたら「茅」は「ススキ」を指すものの、
「茅の輪くぐり」の「茅」は、ススキとは別種で、ススキより背が低い
「チガヤ(なんと困ったことに漢字が同じ「茅」)」で作るのだそうです。
笹の葉で巻かれることが多い「ちまき」も
元々はこのチガヤの葉を使っていたので「茅巻き」だったとのこと。

ネットで調べた写真を見てみたら、
先月出かけたところの川縁にたくさん生えていた、
綿毛のある草がどうもそれだったようです。
黄色い花の間に生えている白い穂の草です。
どうしてこの写真を撮っていたかと言うと、
この白い綿毛がそのまま刻苧綿(こくそわた)に使えるんじゃないかと思い
手に取って観察していたからなんです。
実際、細かい種を取り除くのが大変そうだと思いすぐにあきらめましたが、
葉の大きさからしても、
地元の神社の茅の輪にはススキが使われている可能性が高そうです。

チガヤはサトウキビに近い種類で、
根に糖分をたくわえて甘いため、昔は食用にもされていたとか、
いや〜、全然知りませんでした。

雑草としてかなり生命力が強いことで厄除けに使われるのでしょうし、
防腐効果があるから食品の包装にも利用され、
屋根に使うくらいですから、水切りも良く腐りにくいのだと思います。
茅の輪からいろいろと勉強になりました。

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7月12日に、この茅の輪はチガヤでなくススキだろうという
ご指摘を頂きました。
チガヤは丈が低く、茅の輪を作るだけの量を集めるのも大変なので
笹を使っているところもあるのではないかとのことです。

2014年6月29日日曜日

ブラジルは赤

ワールドカップ、残念ながら日本は敗退してしまいましたが、
開催国ブラジルは今日、辛うじてPK戦で勝ち残ったようですね。
サッカーのブラジル代表は「カナリア軍団」とも言われ
黄色のユニフォームがトレードマークになっていますが、
「ブラジル」という国名は、
「赤い木」の意味である、マメ科の「ブラジルウッド」
 (Caesalpinia echinata)が語源となっています。

"brazil"という言葉はポルトガル語の"brasa"(残り火)から来ており、
材が真っ赤な木を例えたものなのでしょう。
ブラジルウッドの別名「ペルナンブーコ」または「フェルナンブーコ」
(pernambuco)は、
「ペルナンブーコ州」という地名になり、
今回のワールドカップのスタジアムの一つもありますね。

「ペルナンブーコ」または「フェルナンブーコ」と言えば、
バイオリンを演奏される方には、高級な弓の素材として馴染みのある名前だと思います。
硬い心材のみがバイオリンの弓に最適なのだそうですが、
残念ながら近年、絶滅危惧種に登録されてしまったことで、
今後の入手は難しくなるのでしょう。

昨年、高崎市染料植物園を訪問した際、
ブラジルウッドと、同じマメ科で赤い色の染料として使われる蘇芳(すおう)が
別の木だとわかったというブログ記事を書きましたが、
"pau-brasil" (赤い木)という名前はもともとがインドに生える蘇芳のことで、
ポルトガル人が蘇芳に似ているからこの木もそう呼んだということです。

日本でも蘇芳は古来から漢方薬や繊維の染めに用いられるだけでなく、
正倉院の「赤漆欟木厨子」や、赤春慶など(現在は合成染料を使用)
木地を蘇芳で赤く染めた上に透明な漆を塗って仕上げる技法もあります。

同様に、ヨーロッパの17〜18世紀の木工技法書には、
ブラジルウッドのチップを使って木や象牙を染める方法が良く出ています。
以下は、絶滅危惧種になる前に入手していたブラジルウッドのチップで、
古典技法の復元実験をやった際の写真です。
ブラジルウッドを細かくするのはかなりの手間ですから
このように細かく砕いた市販品を使うのが楽です。
蘇芳の材はどちらかと言えばピンクがかっているのに比べ、
ブラジルウッドはオレンジ色がかっています。

これに水とお酢を加えて煮出すのですが、
水だけで煮ると水が薄いピンク色に染まる程度が、お酢を加えたとたん、
驚くくらい真っ黄色になります。
赤い木のはずなのに・・・と一瞬慌てますが、
ここに明礬を加えると、
一瞬で赤くなります。これは何度やっても面白い瞬間です。
さらに攪拌しながら煮出して行くと
かなり濃い赤が出ます。
適当なところで木の粉を濾します。
左が粉の状態のブラジルウッド、右が煮出した汁です。
かなり濃い赤になります。
白い紙の上に塗るとこんな感じです。
オレンジよりもピンクに近い赤です。

こんなに美しいブラジルウッドと蘇芳の赤の成分「ブラジリン」は
残念ながら退色しやすいのです。
サッカーのブラジル代表がこの色のユニフォームだったら、
かなり印象が違いますね。

2014年6月24日火曜日

割り箸で糸

今年は両親の手術と入院が続き、
家母親は漆にかぶれることもあり、
手を汚さないで母屋でできる作業の割合が増えています。

そんなある日、物置を片付けていたら恐ろしい品を発見してしまいました。
大きな茶箱をあけてびっくり。
おそらく祖父母の代に買っていたと思われる、大量の布団綿です。
何かこれを使う方法がないかといろいろ調べてもみたところ、
布団綿を使ってシャツを作られる女性の記事を見つけました。

ここまでたどりつくにはどれくらいかかるかと思いつつ、
でもやってみなければわからない、というわけで、
先日久しぶりに東京に寄った際、
染織の生き字引、Tさんに、綿をどうしたらよいかご相談しました。

「割り箸一本あれば糸は紡げるわよ」

説明だけではわからないので、実際にやって頂きました。
まずは、綿をほぐしたものを適当な大きさに巻いて
「篠(しの)」という固まりを作ります。
綿の繊維がなるだけ縦方向になるようにみて作るのがコツだそうです。
最初は篠から少々の綿をつまみ、それを数センチだけよじり、
割り箸に巻いてからスタートです。
実際はお話しながらの作業なので、音声は消してありますが、
このように割り箸だけでちゃんと撚りができているのです。
まるで手品のようです。
「こういうのは慣れだから」
とおっしゃるTさんも今では、
機械の方が早いからそればかり使っているとのことです。

この後Tさんの前で何度か試してみたものの、
せっかくTさんが撚ってくれた部分まで無駄にしてしまうほどへたくそで、
「練習しないとできないから」と、Tさんから練習用の綿を分けていただき
以前、M先生から頂いていたスピンドルを使ってやってみました。

長野で使われていたものだそうです。
鍵状になった部分に綿の繊維を引っ掛けて引っぱり、回転させて撚るのですが、
そこまで行くまでがまた一苦労。
Tさんの割り箸法でも繊維が均一に出せないところからつまづき、
最後は指でこよりを作るようなことに。

真ん中がこよりのようにして作った糸。
あと2つは下の紡錘を使って作った糸です。
これが一番均一にできているとは言え、
これで数時間かかっているんじゃどうにもならず、
夜なべして頂いた綿を半分使ったところで、現在忙しくなり挫折中です。
Tさんに見せたら笑われるのは確実。。。。

篠から魔法のように次々繊維が引き出される様子を見ていると
うまくできるようになればさぞや楽しいだろうなと思います。
残念ながら現段階ではシャツを作れるような細い糸を作るのは到底無理どころか、
毛糸のように編むとしても、そこまでの量を作るにどれだけの時間がかかるのか、
昔の人の布作りの大変さを改めて感じただけでも、
やった甲斐があったと言えるでしょうか?


ところで、妹の植えていた綿は、
忙しいらしくちっとも移植されないままで置かれています。
場所によってはそろそろ花が咲く時期らしいのですが
残念ながらこれは私は手出しができません。

2014年6月19日木曜日

木綿の「サッカー」

ワールドカップ開催中のため
母親は普段のような番組が見られないことがあり不満げです。
イギリスでは"Football Widow"という言葉もあるくらい、
ワールドカップやユーロ開催中は女性が放置されるだけでなく、
現実に、元々サッカー(football)に興味がない人たちも相当数おり
(実際私の周りはほとんどがそうでした)、
特に嫌っている人たちは、開催時期だけ関係ない国に旅行するそうです。
実際、クリケットとラグビーが好きでサッカーが大嫌いの友人Jは、
昔はその時期に日本に行く用を作って静かに過ごせたのに、今じゃ日本も・・・
と、昔を懐かしんでいました。

ところで、サッカーのユニフォームはポリエステル100%だそうです。
化繊というと、どうも汗を吸い取らないようなイメージがありますが、
特殊な加工方法により、
汗を早く吸い取って蒸発させ、常にさらっとした肌触りを保てるのだとか。
そのせいでお値段も相当になるにも関わらず、長持ちもしないそうで、
大きな大会の場合、試合毎どころか、
前半後半でもユニフォームを変えるくらいのようです。
そういえば、小競り合いでユニフォームを引っ張られると
簡単に破れるようなシーンも見ますね。

木綿は天然繊維でなんとなく良さそうに感じられますが、
汗や雨にあたると肌にべったりくっつき、
あまり気持ちの良いものではありません。

そんな木綿をさらっと感じさせるため、肌への接地面を減らした布があります。
パジャマや甚平などに使われる「サッカー」と呼ばれる布です。

footballのサッカーは"soccer"ですが、これは"sucker"、
正確にはsheersucker"。
もちろん球技には関係なく、ヒンドゥー語が語源で、
元々は亜麻に行われていたそうです。
このしわはアイロンをかけても戻りません。

本来の"sheersuckerは、
縦糸に張力(または伸縮率)の異なる2種の糸を使って作る
「しじら織り」を指すのだそうですが、
現在では織り上がった布に縞状に苛性ソーダを捺染することで、
(または、縞状に防染してから苛性ソーダ液に浸す)
苛性ソーダがついた部分だけが縮んでしわになるという、
「リップル」と呼ばれる加工方法のものも
今では「サッカー」として販売されています。

木綿や麻などの植物性セルロースの天然素材はアルカリにも強いため
苛性ソーダのような強アルカリを使った加工が可能になりますが、
絹や毛のような動物性でタンパク質が主成分の繊維は痛んでしまうので使えません。
しかし、ほんものの「しじら織り」はできますね。

これからの季節、サッカー地のシーツやパジャマで涼しくサッカー観戦、
というのもいいですね。

2014年6月16日月曜日

蟻と化学

先月から蟻が大量発生し、家の中まで入って来て困っています。
蟻が寄ってくる甘いものを全部片付けたところ、
今度は米びつの中に入って糠を運び出していたのにはびっくり。
雑食性なのか、どうして食べられるものを区別するのでしょうね。

蟻に刺されたことがある人はわかると思いますが、
刺された瞬間から痛がゆく、蚊よりかゆみが長く続きます。
これは蟻の持つ毒、「蟻酸(ぎさん)」によるものです。
蟻酸は、17世紀のイギリス人博物学者John Rayにより
大量の蟻から初めて抽出されたそうで、
英語の"formic acid"は、ラテン語の「蟻」"formica"から来ています。
蟻酸には、殺菌、殺虫、殺ダニ、防腐などの効果があり、
革なめしや繊維加工にも使われています。

"formic"という言葉で気づく人がいるかもしれません。
シックハウス症候群で問題になった「formaldehyde:ホルムアルデヒド」(CH2O)
の酸化が進むと、この蟻酸(CH2O2)になるのです。
学校の実験室にあったホルマリン漬け標本を覚えておられる方も多いでしょうが、
ホルマリンは、この「ホルムアルデヒド」を水に溶かしたもので、
ホルマリンには防腐効果があるのです。

学生時代、漆工の下地で使う姫糊(上新粉で作った糊)の
腐敗防止と、糊下地の耐水性を増すために、
糊にホルマリンを少量混ぜることを教わりました。
その臭いのきつさ(糊の熱がさめないうちに混ぜると気化してしまいますが、
糊はなかなか熱が冷めないのです)と、
いちいち量を計る面倒さ(ほんの少量で大丈夫)もあったので、
私はあまり使っていませんでしたが、
お椀などの食器に使うのはやはり好ましくなさそうですから、
現在は混ぜている人は少ないと思います。

シックハウス症候群で問題になるホルマリンは
ベニヤ板の接着剤として、ユリア樹脂とあわせて使われています。
「ユリア」とカタカナで書かれると一見わかりませんが、
これは「尿素」(CH4N2O)のことです。
安価で強力な接着性があるため、現在でもホルマリンの使用量を最低限にして
使われています。
数日前に梅毒患者の尿で加工されたフェルト帽の話を書きましたが、
尿素も、畑の肥料だけでなく、身近なところに姿を変えて存在しているのですね。

尿素つながりでついでに。
「ウレタン」を英語で書くと"urethane"、
正確には製品化されているものは
「ポリウレタン(polyurethane):ウレタン樹脂」ですが、
これも元々はureaから来ています。
英語の発音は「ポリユーリシン」に近い感じで、
これはちょっと紛らわしいですが、これは尿素を材料としているものばかりでなく、
ウレタン結合をしている物質を指しています。
イギリスの学校時代、同級生のイギリス人が
「Urethane, urea...yuck.」って言ってましたが(笑)

ところで、イギリスの学校では化学の授業が必須だったため、
必死で英語の化学物質名を覚えました。
幸い、イギリスの義務教育では化学が必須でないため(!!)
化学の授業自体が生まれて初めてという学生と一緒の勉強で、
(特に、48歳にして生まれて初めて化学を勉強するという同級生は
毎回顔が真っ青でした)
「酸てなに?アルカリって何?」なんて基本からスタートする
割合簡単な授業だったのでなんとかついて行けましたが、
「クエン酸」の「クエン」は英語じゃなく日本語で「枸櫞酸」だったと知ったり、
英語の名前を覚えることでその由来がわかったものや、
化学記号"K"と英語"potash"とが一致しないカリウムは、
元々はpot-ash(灰)だったとか、
同じく英語では"sodium"のナトリウムは「ソーダ」から来ているとか、
身近なものに置き換えることで、少し化学に親しみが出るようになりました。

ところで、蜂や蟻に刺されたら、尿をつけると早くなおるという民間療法もありますが、
毒の成分蟻酸をアンモニアで中和するということですが、
よくよく考えてみれば尿は中性で(でなければ皮膚が溶けますね)
アンモニアは尿素が分解されなければできないことと、
また、蜂の場合、痛みを起こす原因は
毒に含まれるアミノ酸や酵素のようなタンパク質だそうですから、
これはあまり意味がないとのことです。

2014年6月13日金曜日

復活する草木

数日、所用で家を留守にしていましたが、
帰宅した翌日、父親が「これは藍と違うか?」と言いに来ました。

ユンボで蹴散らされた地面の比較的上の方にあった種から芽が出て来たのですね。
(左上は去年のこぼれ種から出てきた百日草)

100粒以上蒔いた種の中からたった3本です。
この時期にこの大きさなので、どこまで育つかわかりませんが、
強い種が残ったことと期待しています。

去年の冬に上部が枯れた日本茜も、気がついたら再び育ってきていました。

そして、マイマイガにほぼ坊主にされていた漆の木は、
しばらく目を離した隙にちょっと不思議な形に枝を伸ばしていました。

一ヶ月前はこんな状態だったのですから(左側)。
時期が来れば、ちゃんと復活するものは復活するんですね。

長期で留守にすることがしばしばあるため、
全て鉢やプランターでなく地植えにしていますが、
毎日自分の植えた野菜の苗にせっせと水やりしている父には
私はものぐさだと映っているようです。

2014年6月11日水曜日

アリスの帽子屋の謎

ロンドンのテムズ川南部のバス通りに、
The Mad Hatter Hotelというホテルがあります。
http://madhatterhotel.co.uk

このホテルは帽子工場だった建物を改造したのだそうです。

ご存知のように"The Mad Hatter"と言えば、
「不思議の国のアリス」に出て来る登場人物です。
(Wikipediaより)
この右端にいるトップハットをかぶっている人物です。

さて、Mad Hatterとは何か?
その理由がマンチェスターの南、ストックポートにある
帽子博物館(Hat Works Museum)の配布する資料に詳しく書かれていました。


ここに書かれている英文の説明をざっと訳してみますと、
山高帽などの帽子を作るため、
ウサギなどの動物の毛をフェルト化する工程で、
二硝酸水銀(mercuric nitrate, Hg(NO3)2)が使われていました。
水銀が獣毛のからまりを良くする効果があるためなのですが、
その理由は帽子屋によって違うことを言うそうです。
水銀がフェルトを作るのに役立つということは
実はフェルトに使われる毛皮の洗浄に尿が使われており、
治療に水銀が使われていた梅毒を煩った帽子職人の尿が
より効果的だったことからわかったのだそうです。
この尿で処理されたフェルトはオレンジ色になるので
これを"carrotting"(人参化?)と言うそうですが、
梅毒患者の尿で処理されたウサギの毛で作られた帽子・・・
尿はローマ時代には洗濯にも普通に使われていたり、
絵画の古典処方を読むとよく出て来るとは言うものの、
いくら高級な山高帽でも、
その工程を知ってしまうとちょっと使いたくないですねえ。

さて、水銀が人体に吸収されると、最初はアル中のような症状から
異常な行動をするようになり、
そこから、水銀中毒自体をmad hatter's diseaseと言うようになったとか。
もちろん現在では水銀の工業的使用は規制されていますが、
例えば漆器に使う水銀朱然り、
やはり水銀しかできないこともいろいろあるために、
世界的な全面禁止はどうしても難しいでしょう。

また、水銀に金を混ぜて溶かし金属に塗り、加熱して水銀を蒸発させて鍍金する
アマルガムメッキも欧米では禁止されています。
気化した水銀が人体や環境い有害だからですが、
奈良の大仏を鍍金した時にはどれだけの水銀があたりに気化したのか、
考えると凄まじいものがあります。
当時の奈良にmad hatter's diseaseが広まっていたのは間違いないでしょう。

2014年6月6日金曜日

蚕と桑

先日の自然染色ワークショップに、
自宅で飼っている蚕を持ってこられていた方がいました。
まだ小さいうちなら食べる桑の葉も少なくて済むけれど、
既に5令になって食べる量も半端でないからということで、
桑の葉もビニール袋に入れてお持ちでした。
真ん中の蚕は脱皮中です。
写真右下の食べ残しを見ると、小さいぶどうの房のようなものがありますが、
これが未成熟の桑の実です

あれからひと月以上経過し、あちこちで桑の実が熟す季節です。
うちの近くの空き地にも桑の巨木があります。

こんなにたくさん実がついているのに、
空き地でも誰かの土地ですから勝手に採ることはできません。
もったいないなあと思っていたところ、
やはり他にも気がついている人は結構いました。

私の実家でも昔は古い家の屋根裏で蚕を飼っていたそうですから、
桑を植えていた家も他に何件もあったのでしょう。
この時期なら実を目印に桑を見つけることは簡単です。

ところで、今年漆の木についていた毛虫は、
10年に一度くらい大発生する「マイマイガ」という害虫だということが判明しました。
実際、糸を取ろうとヨーロッパからアメリカに持ち込んだものが大発生し
山が丸坊主になったりしているそうです。
数匹残して繭を作らせようかなんて暢気なことをしていたら、
自分の家の漆の木だけでなく、近所にも被害を及ぼしかねず、
自分の無知を恥じるばかりです。
うかつに知らない虫は育てないという教訓になりました。
しかし、虫は汗腺がないからかぶれないんですね。

ところで、漆の木についたアブラムシは漆の色の茶色になり、
一見してアブラムシとはわかりません。
この後漆が体内で固まらないのか、ちょっと気になる。

2014年6月1日日曜日

サンドペーパーの木

「小椋」さんという名字の方は
木工轆轤職人の集落であった滋賀県愛知郡(現在の東近江市)
「小椋庄」が出自だといわれていますね。
「小さい」に「ムク」の「椋」で、なんで「おぐら」と読むのか。
その理由はさておき、
サンドペーパーのない時代に、木工職人が木を磨くのに使っていたものとして、
以前紹介した「木賊(とくさ)」
(これもなぜ「木」「賊」で「トクサ」なのか不思議ですが)
のほかに、ムクノキの葉があります。

これは都内の某所に植わっているムクノキです。
神社や公園のような場所に大木が植わっているのですが、
ご覧の木のように、大木になると大概は手が届く場所に葉っぱがないので、
下に落ちている枯れ葉を拾うしかありません。
もちろん、公共の場所に植わっている木の葉をむしるのはやはり怒られますし、
実家の近くでは残念ながらまだ見つられていません。
自分の家に一本植えたいなとも思い
実を拾って蒔いたりもしたのですが、
知らない植物は全て抜く父親がいる間は生やすのは難しそうです。

さて、最近用事があり、一度も行ったことのない町まで出かけました。
炎天下、徒歩で延々と田舎道を歩く道すがら、
こんなところにムクノキはないかなあと思って、ほんの10歩ほど歩いたところに、
なんと、ほんとうにムクノキが!

まだ若い木のせいか、手の届く高さに葉っぱがあります。

どうやって判断するかは簡単です。
触ってみて表裏ともにざらざらしていたら正解!

ナナフシもびっくり。

歩道にはみ出している部分だけちょいといただきました。
乾燥させるには、ちゃんと新聞紙か何かに挟まないとくるくる丸まってしまうので
持ち帰るためにはきちんと葉っぱを重ねて折れないようにします。
こんなふうに縮れてしまっても、
もう一度水に浸しておけば戻ります。

上がまだ乾燥途中、下が乾燥したもの。

よく見ると細かい毛がたくさん生えています。
これが木を研磨してくれるのです。
(下の定規の目盛りは1mm)

これはN先生から10年くらい前にいただいた市販の椋の葉です。
きれいに大きさがそろえてあり、10枚ごとに藁で縛ってありました。
これは漢方薬として使われるほか、
陶芸では「木の葉天目」の模様を作るために使われていますが、
今では採取する人もあまりいないかと思います。

ところで、ブータンの木工轆轤職人も
別名「サンドペーパーの葉」と呼ばれる
「ソクスム」まはた「ソグソグパ」という葉を使って
木地を磨いていました。


日本のムクノキはAphanantte aspera
ブータンのサンドペーパーの木はTrema politoria
同じニレ科の植物です。

国は違えど、最初に気づいた人はすごいと感心するばかりです。