2016年6月17日金曜日

東ブータンの染色3:アカネ

さて、次はアカネです。

藍染をやっている間に、前夜から水に浸しておいたシンシャパを煮ていました。
シンシャバは切ったらすぐに水に浸すこと、
若い葉よりも古い葉(しっかり青くなった葉)が良いそうです。

ちなみに、煮る前のpHは5くらいでした。

この竃の灰がまた灰汁になって使えるという、素晴らしいリサイクルです。

グラグラ煮ます。

熱いうちに染めをする布や糸を入れます。濾さないんですね。

ほんとうはこのまま煮た方がいいらしいのですが、
竃が一つしかないので、アカネを煮るために一旦竃から下ろしています。
シンシャバでの下染めも、前日までにやって乾かしておいた方がいいそうです。

今回は乾かさないでそのまま使います。

で、うっかりしていたらすでにアカネを煮はじめてしまっていて
写真を撮り損ねてしまいました。
かなり大量に入れたというので、漉すところを見ていたら、

こんなに大量!

さすがに二度煮出すそうですが、いや〜、すごい量です。


漉した染め液に、シンシャバ染めをした布と糸を入れます。

煮染めします。

途中、糸がからまないように様子も見ます。

そのまま冷まします。

シンシャバ染めをしていないで染めると色はどうなるのかなあ?
と、突然思いついて、持っていた白い木綿のタオルを浸させてもらいました。
地元の女性は「こんなのに色がきれいに染まるわけないのに」という顔で
いやいややってくれます(苦笑)

そして、適当な時間置いておいたあと、洗わない状態で干します。

左がタオル、右がブラのストール。
やはりシンシャバ下染めの絹は色がきれいに染まりますね。
お手伝いの女性も、薄い絹地のストールがお気に入りのようで、

藍の生葉染めと重ねてみてます。
さすが着道楽のブータン人ですね!

さて、最後はウコンです。(続く)


===============================
この調査はサントリー文化財団の助成で行われました。










東ブータンの染色2:藍の生葉染め

さて、素材の写真を撮影している間にも、
お手伝いに来てくださった女性お二人が着々と作業に入っていました。


庭にあった石臼の穴にリュウキュウアイの葉を詰めます。

それを杵で搗きます。

どんどん細かくなります。

全体の色が濃くなったら、
用意しておいた堅木の灰で作った灰汁(pHは11と12の間)に
搗いた藍の葉を加え混ぜます。
この時点でのpHは10と11の間でした。
通常はこれを2晩おいて発酵させ、
その中に未精練のブラ糸を入れて、最低でも3−4晩置いておくのだそうです。
未精練とはいえ、
絹をそんなに長時間漬けておいて大丈夫だろうか?とも思いますが・・・

今日は時間がないので、
あらかじめ用意してくださっていた藍染め液の様子を見せていただきます。
糸を絞り、
糸を広げ、そして再度漬け込みます。

その間、先ほどの灰汁を加えた藍葉液はこんな感じに。
発酵が進んでいないので、あまり濃くは染まらないということですが、
試しに、日本から持参した絹ハンカチなどを入れさせていただきました。

手も青く染まりますよ〜

日本から持ち込んだシルクのストールはこんな感じに。


こんな布は見たことがないと、織りもやる地元の女性も興味津々です。
基本、ブータンでは染めた糸で布を織り、
織った布を染めるということはしないのです。

左からストール、ブラの布、日本のシルクハンカチ、
染まり方も色もそれぞれ違います。

でもまだこれじゃ薄いからダメ、ということでさらに漬け込みます。
ちょっと上に出した部分は、
これでグラデーションがつかないかなあという期待がありましたが、
この段階からでは全くわかりませんでした(笑)

これは洗わないで干して、乾燥してから水洗いとなります。
そして次はアカネです。

===================
この調査はサントリー文化財団の助成で行われました。

東ブータンの染色1: 素材のいろいろ

5月から6月にかけて、ブータンに漆の調査に行っていました。
かつて漆器製作を行っていた地域での漆の木の存在確認と、
ブータン漆器の木地製作に欠かせない素材のひとつ、
染めに使った後のラックの塊「ラチュ」を入手できないかということで、
東ブータンのRadiに行きました。

宿からはこんな感じで向かいの村が見えますが、
谷の反対側のRadiの方が土地が肥えていて、豊かなのだそうです。

絶好の染め日和!

すでに竃に鍋もセットされてます。

実は、せっかくなので
ラック染めの様子をぜひ見せてもらいたいと思っていたのですが、
残念ながら近年のラック不足で、
インド産の合成染料を混ぜて使っているとのことでした。

これがインド産の合成染料の箱。日本円で一箱100円くらいです。
"Industrial Use Only"とあります。


粉末ではなく固形です。

下がラックだけで染めた糸、
上が染料を加えて染めた糸。
合成染料だけでは染めないというのもちょっと不思議です。

他の天然染料での染めを見せていただくことになりました。

それぞれの素材を並べて準備してくださっていました。
左上から
リュウキュウアイ(Strobilanthes cusia)の生葉と、ブータンの藍玉。
藍玉は、葉っぱを丸めて乾燥させるだけで、何も混ぜていないそうです。
藍の葉がついた木は見たことがある?と聞かれたので、
あれば見せて欲しいと言ったところ、
ほぼ坊主になった鉢植えがありました。

ウコン。これはカレーに入れるウコンとは若干違う種類だそうです。

茜。日本の茜と違い、木質化した蔓を使います。
この近所にも生えているのですが、これはわざわざ別の村から買うそうです。

黄色いビニール袋の中身はリュウキュウアイの生葉です。

ボケの実(コマン)を乾燥したもの。
日本のボケよりもかなり大きな実です。
雲南省では鍋料理に入れられていましたが、
酸度調整に使われます。

そして、ブータンのラックです。
昔はこの近くでも養殖されていたと聞いていたのですが、
この宿の奥さんPさんは昔からモンガル州の人から買っていたそうです。

そして、もう一つ、ブータンの染めに重要な材料がこれ、
"シンシャバ"と言われる下染めの葉です。
前夜から細かく刻んで水に浸してありました。
藍染以外の全ての染めの下染めに使うとのこと。
ブムタンで使われているハイノキ科の木の葉ではなく、
ツヤと厚みのある緑色の濃い葉のようです。
これの完全な形の葉はないの?と聞いたら、

こんな枝だけになったものしかないということで、
正確な種名は残念ながらわかりません。
葉のつき方から、マメ科の木でもありません。
峠のような標高の高い場所にしか生えない木なので、
この近くにはないとのことでした。

そして、糸はインドのメラ・バザールで入手する
ブラという野蚕の紡糸です。

これと、日本から持ち込んだ布も使っての染め開始です。
(続く)


=====================

この調査は2015年度サントリー文化財団の助成を受けて行われました。