2017年3月15日水曜日

カンナ革命

岐阜県立森林文化アカデミーでのワークショップの2日目です。
午前中は、徳永さんの削り技について。

鉋仕上げはサンドペーパーのように表面を荒らさない、
わかっていても、なかなかできるものではありません。

「皆さんの中で、一枚刃の鉋を使われている方はおられますか?」
今日は木工の専門家ばかりが集まっていることに気づき、
あげそうになった手を引っ込めました。
木工のど素人の使う一枚鉋とは全く意味が違います。

「皆さんがこれまで学校で習ったことはすべて忘れてください。」

徳永さんの使う鉋はすべて一枚鉋、
それも、三木市で砂鉄を集め、
ご自分でタタラを作って玉鋼を作り、それで鉋の刃を作っている
原田さんという鑿鍛冶さんの鉋をお使いだそうです。

会場から質問が
「そのの鉋刃を買うことができますか?」
「買えません。」(笑)
鉋を使えない人に刃を与えても無駄、とは正論ですが耳が痛い話です。
市販の鉋刃でもそんなに変わらない、単に研ぐ回数が増えるだけだそうです。

しかし、その使い方も常識とは異なります。
「木に負担をかけない」
「鉋の台で木を押さえない」
「浮かしなが刃で削る」

研ぎ台を兼ねている道具箱から取り出されたのは砥石と、


豆鉋や南京鉋などの入っている引き出しです。
台はすべて手作り。





お弟子さんの道具箱も、とにかくひとつひとつが美しい。

まずはお弟子さんの一人が、1枚刃の鉋で実演をしてくださいます。
真ん中上側に杢があり、逆目になるはずなのですが、
削られた板はつるつるしています。


何が秘訣なのかを知りたくて、みんなが鉋に興味津々。


刃口も特別狭いわけでもないです。

別のお弟子さんが南京癌なを迂回、やはり逆目がある椅子の背を削ります。
さらさらと軽いタッチです。

若干ハマグリ刃にするのがコツ、
幅広の鉋屑を出す必要はないし、筋がつくのを防ぐそうです。

背削りの鉋だけは、鉋刃の研ぐ方を裏にして入れています。

ここで、徳永さんが研ぎの実演をしてくださいます。
道具箱の上が研ぎ台です。
手を汚さないため、ブラシを使って水を補給するのがポイント。

直線研ぎでなく回転研ぎです。
名倉は品質が一定しないので使わないそうです。



 研ぎは3-4分で終わらせるため、荒砥はよく下りるものを使う。
この合成砥石(ナニワの1000番のダイヤモンド砥石)の
砥石層は約1mmと薄いのに1万円くらいするので、3−4年持たせるそうです。

とにかく砥石も台も汚れていないのにも驚きました。

道具箱の上は微妙に斜めになっています。

続いては徳永さんによる削りの実演です。




さらさらと表面を撫でるような動きです。

完成品が美しいことがすべての答えです。


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こちらもnaeさんのブログ、
岐阜県立森林文化アカデミーのブログ

をご参考にしてください。

曲木の80˚C

先月末、岐阜県立森林文化アカデミーで開催された
「曲木」と「撥水セラミック塗料」の2つのワークショップに参加しました。

2つの講座とも兵庫県の徳永家具工房の徳永順男(としお)さんが講師です。

徳永さんは家具の製作だけでなく、
撥水セラミック塗料の開発にも関わられていることから
同アカデミーの久津輪雅准教授の企画で
2つのワークショップが2日にわたり開催されたのです。
貴重な機会、私も泊りがけで参加しました。

(この日に限ってカメラが行方不明だったため、携帯での撮影ですみません)

徳永さんはこれまでThornet式蒸し技法を始めとする様々な曲木技法を試したものの、
どれも今ひとつ満足いく結果が出なかったことから、
この方法を考案されたそうです。

曲木に必要な道具、まずはバンドソーの刃を利用した帯鉄です。
帯鉄の全体はこんな感じです。両端に木の持ち手が付けられています。

ここが持ち手、兼、材のストッパー部分です。
曲げる木が帯鉄の寸法にぴったり収まる長さや幅にならないと木が割れてしまうので、
寸法が長すぎる場合は木片を挟み、
幅が足りない時は帯鉄を2枚使って調整をするそうです。

その他
・曲げる木全体を包める大きさの布
・アルミホイル
・アイロン(家庭用の普通のもの)
・軍手(熱くなるので)
・曲げる形状にあわせて作った木型
・クランプ(Gクランプ数個とパイプクランプ)
が必要になります。
水を補給する入れ物もあると良いです。

今回使ったのは、幅30mm、長さ110cmの山桜の木でした。
小口が割れやすいので、必要なサイズよりも長めの木を使う必要があります。

まずは、濡らした布で曲げたい木全体を包みます。
この際、小口は出ていても構いません。
タオルのような厚い布でない方が良いようです。


次に、アルミホイルで全体を包みます。

それを、高温のアイロンで数秒づつ押さえつけながら4面を徐々に温めます。
木の太さ1cmにつき10分が目安なので
今回の30mmの木は30分くらいになります。
アイロンはアルミホイルの表面を滑らせるのでなく
一箇所に数十秒くらい留まり、温まったら移動、
という感じで、各面を繰り返し温めます。

木の内部温度を80˚Cくらいにすることがポイントだそうで、
必要に応じて小口方向から水も補給します。
温まってくると小口の反対側から蒸気が出てきます。

木の温度が十分上がったことを確認したら、木を帯鉄にセットし、
木の中央部をクランプで木型に止め、数人で一気に曲げます。

あんな固い山桜の木がびっくりするくらいするっと曲がり、
会場から一斉に「おお〜!」という声が上がりました。

パイプクランプで両端を止めて、このまま少々おきます。

さわれる程度まで冷めたらクランプと板金を外します。

クランプを取ってももう戻りません。
アルミの中に木が入っているとは思えないような角度です。


アルミホイルと布を取ると、こんな模様ができていました。
曲がった内側を触ると、表面が微妙に凸凹しています。


翌朝の状態。こんなに曲がっているのかと改めて驚きます。
木が完全に乾いてから鉋がけしてスムースにします。

寒い部屋にしばらく置かれていたにも関わらず微妙に暖かく
木の保温力も実感しました。

この日の工程は、絶好の位置に座られていたnaeさんのブログ
http://wood78.com/blog/2017/03/01/gifushinrin_iron/
岐阜県立森林文化アカデミーの久津輪さんのブログ
http://www.forest.ac.jp/academy-archives/steam_iron_bending/
をご覧いただくとさらによくご理解いただけます。

今回、私が曲木ワークショップに参加したかった理由は、
一体どのように作られたのかがずっと謎だったからです。

平面だったはずの漆パネルがなぜ3次元曲面に?

フランスの家具職人、J.A. Rouboの
"L'art du menuisier ebeniste "に、曲木加工の図が出ています。
熱した砂袋を使う、ということだけは人から聞いていましたが、
残念ながら本文が古いフランス語ということもあり、
どのくらいの温度の砂を使っていたのかなどの詳細が全くわかりませんでした。


そして、今年になり、蒔絵パネルを貼ったBombe commodeの製作技法の
新発見についての論文が出たのです。

蒔絵パネルは薄くスライスされていることも知られていましたが、
さらに、四隅から切り込みを入れていたというのがわかったのは大発見。
あとは薄い板を曲げる方法だけでした。

このタイミングで
「木は80˚Cくらいから曲がるようになる」という情報が得られたことは奇跡です。
機会を見つけて3次元曲面でも実験してみたいと思います。

。。。。。。。。。。。。。。。。
貴重な方法を惜しみなく公開してくださった徳永さんとお弟子さん、
この企画をしてくださった久津輪さん、
また、当日の記録を見せてくださったnaeさんにお礼申し上げます。

2017年3月14日火曜日

香ばしい香りの藍布

名古屋の月日荘さんで3月16日まで開催されている
川口市の正藍型染師、田中昭夫さんの作品展。

開催までの経過はこちらに詳しく出ているので余計なことは書きません。
月日荘さんは、名古屋の町屋をうまく生かしたギャラリーです。

入り口にも

外にも素敵な作品が。
中は予想通りお客さんで大混雑。(中の写真撮影はできませんでした)

田中さんは御年82歳、型紙彫りから染めまで全てお一人でこなされるそうです。
残念ながら後継はおられません。
体力的に今回が最後の展覧会ということで、
日本全国からお客さんが集結されていました。

ご本人は寡黙な職人さんという感じで、
この展覧会のために準備された冊子にせっせとサインをされておられました。
その手がとても白くて美しい。全く藍が染まっていません。

「藍染」というと我々みんな思いつく独特の匂いがありますよね。
ここにはそれが全くありません。
ない、だけでなく、布から何とも言えない香ばしい香りがするのです。

会場入り口で流されていた川口市民ギャラリー製作の動画を拝見しながら
近くにおられた企画の方からご説明もいただきました。

・型染の型を彫る刀が美しい。
刃がきれいに研げているだけでなく、通常汚れがちな手元部分が汚れていない。

・型染めの糊の粘りがとても強く、型の上に厚塗りされている。
乾いた後ホースで水洗いしても落ちない。
餅米を使われているそうでこれを練るにはかなりの力がいると思われる。

・糊の上に振りかけるのはおが屑でなく炒りぬか。
炒りぬかを使えば後で藍の餌になって無駄がない

香ばしい香りはこの炒りぬかのものなのでしょうか。

田中さんはサインにお忙しそうだったため、
企画者のお一人からさらにいろいろお話を伺いました。

・とにかく時代と商売に逆行した、今では貴重な職人さん

・染め作業の半分は精錬にかける

・良い染めをするためには布から選ぶ必要がある

・手が染まってないと藍染職人と思わない人もいるけれど、
型染職人さんなので布は伸子張りしてあり、伸子を持って藍甕に浸すので手がきれい。

・見学に来られたものの、藍甕に藍の華が浮いていないのを見て
「藍が建っていない」と帰られた人もいる。

・繊維の中まで藍が染み込んでいるから、青い色が手や他のものにつかない。

などなど、藍染の常識を覆されました。

驚くほど濃紺に染まっていた江戸時代の蚊帳生地に惹かれたものの、
残念ながら予算が足りず、こんな貴重なものを切ってしまうにも忍びなく
後ろ髪を引かれながら諦め、
かわりに端切れを買ってきました。

くっきりすっきり、眺めているだけでうっとりです。

長板中型なので、裏表が違うのです。
赤や茶色はベンガラなどの顔料を豆汁で溶いたものを刷り込みだそうです。

大変ありがたいことに、企画者の方が出版社に許可を取った
田中さんの記事2つがネットにアップされています。


「きものと装い」1980年 pp.44-45, pp.81-84

この香りは、ネットで写真を見ているだけではわかりませんでした。
企画してくださった皆様、どうもありがとうございました。

2017年3月7日火曜日

虫で染める赤いフェルトコースター

3月5日(日)に、大阪市立科学館で、
ラック研究会と大阪市立科学館の共催で
「虫で染める赤いフェルトコースター」ワークショップを開催しました。
「虫で染める」というタイトルで、果たしてどれだけの方がご参加くださるか?
内心ドキドキしておりましたが、
おかげさまで、小学生から大人までの
男女さまざまな年齢層の方にご参加いただけました。

講師は、京都御所の南に「天然色工房tezomeya」を構える青木正明さんです。
奥様もお手伝いに来てくださいました。
2時間のワークショップの中で、
1. フェルトができる繊維のしくみ
2. 繊維に色が染まるしくみ
3. 色を染められる昆虫

という3つの情報が盛り込まれました。
講師をお引き受けいただいた青木さんのおかげです。
青木さんの後ろに写っているのは、羊毛、絹、木綿の繊維の電子顕微鏡写真です。
なぜフェルトを作るにはウールでなければダメなのか、という理由が
この羊毛繊維の表面の鱗状のもの
(「キューティクル」は人毛だけの呼び方なので、これは「スケール」と呼ぶそうです)
が、熱で開いて絡まり合うから、という理論も教えていただけました。
これを、青木さんが考案されたザルを使う方法で行います。

このような羊毛の束を、細かくちぎってザルの中に並べ、
次はそれに交差するように並べ、というように繰り返して何層かに積み重ねます

これにぬるめの石鹸水をかけて右、次は左へとせっせとモミモミします。

するとあら不思議、だんだんフェルト状にまとまってきます。

これを水洗いして、明礬を溶かしたお湯で先媒染します。
加熱中にも、青木さんが面白い話をいろいろしてくださいます。

媒染し終わったら、容器を洗って不織布をセットし、
粉状にしたラックを入れて、温度が上がりすぎないよう
温度計で測りながら煮ます。

赤い色が出てきましたよ。

これを濾して、お酢をちょっと入れて加熱。
お酢を入れるとラックの赤い色が鮮やかになるのです。
そこに先ほどのフェルトコースターを入れると、

あっという間に真っ赤になりました。
今度はお料理みたいですね(笑)

これを水洗いして完成です。
私は写真を撮ったり人のところを見に行ったりで集中が足りなかったせいで、
ちょっと形は変ですが、なんとかできました〜!
これを星型やハート型など切って好きな形にもすることができます。

「虫で染める」というテーマにあわせ、
ケルメスとコチニールという、
赤い色を出す別のカイガラムシの現物もお持ちいただき、
それで染めたものの写真もあわせて説明もしてくださいました。

お話上手で知識豊富な青木さんですから、内容が盛りだくさんすぎて時間が足りず、
「猩々緋(しょうじょうひ)」の説明のところで時間切れで、残念。
猩々はお酒の好きな想像上の
ショウジョウバエと猩々の関係は、どちらもお酒が好きなところ、
ということを後で教えてもらいました。

近年、「気持ち悪い」という苦情を受けたジャポニカ学習帳の表紙から
昆虫の写真が消えてしまったという話題もあったばかりです。
また、スターバックスでおきたアレルギー事件で、
コチニール色素が食品に使われているということが知られたことにより、
ラック色素で検索をかけると、一般の方のブログに、
「我々は虫を食べさせられていたんですよ!ひどい!」
というような文章が書かれているのも見つかります。

なので、正直、このご時世にわざわざ往復ハガキを買ってまで
どれくらいの方が申し込んでくださるのか心配していましたが、
定員以上のお申し込みをいただき、
残念なことに数名の方にはご参加いただけませんでした。
せっかくお申し込みいただいたのに申し訳ありません。

今後も、専門家以外の方やお子さんにも
天然素材を体験していただける機会を作りたいと思っています。
青木さんご夫妻と岳川さんに改めてお礼申し上げます。


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この行事は科研費の助成により行われました。心よりお礼申し上げます。

2017年3月6日月曜日

灰をつくる

一昨年の春、東北方面に出かける前に
なんと、近所の家で庭木の大伐採が行われていることを知らされ、
慌てて駆けつけたところ、そこには椿の大木も含まれていました。
椿といえば、染色家が喉から手が出るほど欲しがる椿灰の材料となる
アルミニウムが多く含まれる植物です。

電車の時間のギリギリまで何往復もして、葉のついた枝を家に運び、
そのまま留守中乾かしました。

帰宅後、葉と枝を分ける作業をしましたが、これがもう難儀で、
父親が暇を見てやってくれていましたが(こういう作業が好き)
住宅地でこれを燃やすのは最近いろいろ面倒なため、
袋に入れて置いていたのですが、
どういうわけか最近父が「あれはまだ燃やさないのか?」と言い出したため
風がなく小雨っぽい曇天だったこともあり、
ようやく灰作りを決行しました。

椿灰は葉が一番良いというので、葉だけ燃やしたかったのですが、
父が頑として「枝も入れないと燃えない」と言い張り、
ずっと火の番をするような時間の余裕もないため
今回は枝と葉の混ざった灰で妥協しました。

使うのはオイルか何かの入っていた缶、
椿の葉は100均の布団袋にいっぱい、
小枝はホームセンターで売っている土嚢袋2袋分です。
万が一のための消火用の水も準備して着火、
一度火がつくとどんどん燃えますが、
全ての葉と小枝が缶に入るまでには5時間以上かかりました。

以前、F先生から、5トントラック山盛りの椿の葉を燃やして灰にした時
わずか1キロくらいにしかならなかった、という話を伺っていたので、
あの大量の葉と枝が缶いっぱいに入ってしまったというのにまず驚きましたが、
棒でかき回したら、下ではまだ黒い炭が燃え続けているのです。

そこで、この組み合わせを父が考案。
缶の上に2本、金属の棒を二本渡し、
その上に特大の中華鍋、そして重石の水を入れたヤカン。
空気を供給するような隙間を作りつつ、
雨が入らないように蓋もする、というシステムです。

一昼夜燃え続けて、缶の中の半分量まで減りました
しかしまだかき混ぜると、黒い枝が混じっています。
これらが全て灰になるまで燃やし続けなければなりません。
たまにかき混ぜて空気も補給。

さらに翌日は、もっと量が減っていました。
しかしまだ、黒い炭が残っています。

ここからさらに2日
ここまでになりました。
もう底の方にほんの少ししかありません。
ここまで5日です。

念のため、冷えるまで置いてからふるいます。

先日、ラックの調査で行ったラオスでは現在も主要燃料が薪のため、
染色も薪をくべながら行います。
都市部では薪が勿体無いからという理由からか、冷水染めもするようです。

ある染色工房では、このような竹でできた蒸しざるに灰を入れ
水を注いで、自然に落ちてくる灰汁を貯めて使えるようにしてありました。
染色用のかまどからここまでわずか二歩。
燃料から出た灰まで無駄なく活用できる、
ガスが普及した日本では逆に贅沢に思えるシステムだなあと改めて思いました。