2017年3月14日火曜日

香ばしい香りの藍布

名古屋の月日荘さんで3月16日まで開催されている
川口市の正藍型染師、田中昭夫さんの作品展。

開催までの経過はこちらに詳しく出ているので余計なことは書きません。
月日荘さんは、名古屋の町屋をうまく生かしたギャラリーです。

入り口にも

外にも素敵な作品が。
中は予想通りお客さんで大混雑。(中の写真撮影はできませんでした)

田中さんは御年82歳、型紙彫りから染めまで全てお一人でこなされるそうです。
残念ながら後継はおられません。
体力的に今回が最後の展覧会ということで、
日本全国からお客さんが集結されていました。

ご本人は寡黙な職人さんという感じで、
この展覧会のために準備された冊子にせっせとサインをされておられました。
その手がとても白くて美しい。全く藍が染まっていません。

「藍染」というと我々みんな思いつく独特の匂いがありますよね。
ここにはそれが全くありません。
ない、だけでなく、布から何とも言えない香ばしい香りがするのです。

会場入り口で流されていた川口市民ギャラリー製作の動画を拝見しながら
近くにおられた企画の方からご説明もいただきました。

・型染の型を彫る刀が美しい。
刃がきれいに研げているだけでなく、通常汚れがちな手元部分が汚れていない。

・型染めの糊の粘りがとても強く、型の上に厚塗りされている。
乾いた後ホースで水洗いしても落ちない。
餅米を使われているそうでこれを練るにはかなりの力がいると思われる。

・糊の上に振りかけるのはおが屑でなく炒りぬか。
炒りぬかを使えば後で藍の餌になって無駄がない

香ばしい香りはこの炒りぬかのものなのでしょうか。

田中さんはサインにお忙しそうだったため、
企画者のお一人からさらにいろいろお話を伺いました。

・とにかく時代と商売に逆行した、今では貴重な職人さん

・染め作業の半分は精錬にかける

・良い染めをするためには布から選ぶ必要がある

・手が染まってないと藍染職人と思わない人もいるけれど、
型染職人さんなので布は伸子張りしてあり、伸子を持って藍甕に浸すので手がきれい。

・見学に来られたものの、藍甕に藍の華が浮いていないのを見て
「藍が建っていない」と帰られた人もいる。

・繊維の中まで藍が染み込んでいるから、青い色が手や他のものにつかない。

などなど、藍染の常識を覆されました。

驚くほど濃紺に染まっていた江戸時代の蚊帳生地に惹かれたものの、
残念ながら予算が足りず、こんな貴重なものを切ってしまうにも忍びなく
後ろ髪を引かれながら諦め、
かわりに端切れを買ってきました。

くっきりすっきり、眺めているだけでうっとりです。

長板中型なので、裏表が違うのです。
赤や茶色はベンガラなどの顔料を豆汁で溶いたものを刷り込みだそうです。

大変ありがたいことに、企画者の方が出版社に許可を取った
田中さんの記事2つがネットにアップされています。


「きものと装い」1980年 pp.44-45, pp.81-84

この香りは、ネットで写真を見ているだけではわかりませんでした。
企画してくださった皆様、どうもありがとうございました。

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