2015年8月1日土曜日

ちいさな藍、大きな出会い

7月の最終週末、
京都北部の北山杉の産地、右京区の京北山国の家で開催された南アジア研究集会で
ラックについてお話をさせていただきました。

右京区と言っても、京都中心からゆうに1時間半のうねうね道の先で、
京都市の広さに改めてびっくり。
京都市に合併して今年で10年だそうです。
そんな場所なので、京都駅から観光バス一台を貸し切りでの移動で、
運営担当のお二人がテント泊になるほど多くの方が参加され、
多くの方に興味を持っていただけて有り難かったです。

さて、2日目の終了後、運営担当のおひとり、Uさんから、
せっかくの機会、少し足を伸ばし、
さらに北にある美山町の「ちいさな藍美術館」に行きましょうと誘って頂きました。
以前から行きたいと思いつつ、車がないと辿り付けなそうな場所だったので、
願ったりかなったり、もちろん二つ返事でOKです。
運営担当の皆さんと会場の片付けをし、朝食の残りのご飯で昼食を済ませ、
4人で一台の車に乗って出発。
美山町も市町村合併し、現在は南丹市です。
かやぶきの民家が軒を連ねる美山の北村。
遠目から見ても、屋根の状態が良いのに驚きますが、
ちゃんと屋根用の茅を育てて、何年かおきに葺き替えているそうです。
美術館は、この集落の右手方向の中腹にあります。

こちらがちいさな藍美術館の入り口です。
左手に植わっているのは藍です。
この写真を撮った道までは車が入れます。
左手の茅葺きの建物が住居兼仕事場兼展示室兼売店です。
ここは、新道弘之さん個人のコレクションを展示する個人の美術館なのです。
(※このブログを公開するためご連絡したところ、
但し、新道先生はいけません。
公開されるなら、センセイは廃業しましたので、新道さんと読んでください。」
とお返事をいただいてしまいましたので、
大変恐縮ながら「さん」で書かせていただきます。)



建物は寛政8年(1796年)に建てられた、旧中野八郎右衛門家住宅です。

暑いので、まずは何か一杯飲んでから、と言われて案内された右手側には、
井戸からの水が飲める蛇口にコップが用意されていました。

この石製の流しも、このお宅と同じ江戸時代からのものだそうです。
この薄さと形状、石工の凄い技術にまずは感心、
美味しく冷たいお水に続いて感心。

入ってすぐはミュージアムショップと受付です。
ここにはご夫妻の作品などが販売されています。

その奥、右手に入るとお仕事場です。
とてもきれいで整頓されていて、無駄がありません。

新道さんが開発されたという、
嵐絞りをもっと効率良く作る器具をさっそく説明してくださいました。
着尺を一定の力で引っ張りながら皺をつけて巻き取っていくことで、
有松・鳴海などで人力で何日もかける仕事がもっときれいにできるという発明です。
新道さんはさらっと説明されましたが、
この筒の太さや布の貼り方、角度、距離、何度も試行錯誤されたのは間違いありません。

これがこの器具を使って皺をつけて染めた着尺です。

並ぶ藍甕が壮観です。

全く臭くありません。

 奧には作品を展示するギャラリー
ここだけ空気が違います。

 こちらは二階の展示室。
新道さんの藍染コレクションが並びます。
大変興味深いことは、
合成藍で染めた近代の染織品でも、技術が優れていたりするものなら、
分け隔てなく展示されていることです。
量産されたため顧みられず捨てられてしまったような品が
ここにはきちんと残っているのです。
「もうね〜、今はこんなんできへんよ〜。」と言いながら見せてくださいます。
偏見なく、確かな技術を見る目があるからこそ物の価値がおわかりなんですね。
だから、稀少な品が自然と集まって来るし、
いろいろな方が先生に托されたくなるのでしょう。
「うちの特徴は、展示品でも動かして見られること。」と、
貴重な版木の使い方をひっくり返しながら説明してくださいました。
裏にも模様が彫られているのです。

もちろん、この展示環境にも圧倒されます。

下で見せていただいた嵐絞りの一種の、工程を見せる展示品です。

確かにこれだけ細かい皺を人の手でちょっとづつ正確に折りたたんでいくには
途方もない時間がかかるのは理解できます。

展示品をまだしっかり見終わらないうちに、
「もう暑いから、下でお茶でも飲もう!」とお声がけ。
後ろ髪を引かれながら降りると、またそこは別世界でした。
秋の紅葉はさぞかしきれいでしょう。
春はしだれ桜が咲くそうです。

連れて来てくださったUさんは、
実は新道さんとこの美術館では10年ぶりの再会で、
まさかのような奇跡的な話も。
そんな事件もここならさもありなんと思える不思議な場所でした。

感動さめやらぬ帰り道、車の脇に大きな鳥がいきなり近くに舞い降り、皆びっくり。
野生の鷹でした。
あまりの素早さで、なんとか一枚だけ撮れた写真には、
まるで加工したようにタカの背景に月が写っていました。

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ちいさな藍美術館
京都府南丹市美山町北上牧41
http://shindo-shindigo.com/
Tel/Fax: 0771-77-0746
開館時間:午前10:00~午後5:00
入館料:250円
休館日:木、金曜日(祝日開館)
冬季休館:12月1日〜3月31日
※展示替えなどで予告なく休館のこともあるそうですので、
特に遠方からの訪問前には電話でのご予約をお奨めします。

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