豊橋のイベントにも出展していたアトリエ・トレビさんは、
野蚕(やさん)のスペシャリストです。
絹のことになるとお話が止まらず、いつもいろいろ勉強になります。
見本として展示されている野蚕繭です。
茶色いのがヨナグニサン(Attacus atlas ryukyuensis)とその仲間、
緑色がヤママユ(Antheraea yamamai)、
茶色いのがヨナグニサン(Attacus atlas ryukyuensis)とその仲間、
緑色がヤママユ(Antheraea yamamai)、
金色がクリキュラ(Cricula trifenestrata )です。
下の籠に入った白いのが、我々に一番馴染みの深い絹の素材、
桑の葉を食べる「家蚕(かさん)(Bombyx mori)」です。
家蚕にもたくさんの種類があります。
この他にもムガ蚕(Anthraea mylitta)
サク蚕(Antheraea pernyi)
エリ蚕(Samia cynthia ricini)など様々な野蚕があり、
サク蚕(Antheraea pernyi)
エリ蚕(Samia cynthia ricini)など様々な野蚕があり、
そのうち、タサール蚕(Anthraea mylitta ほか35種)については、
いろいろ説明させていただきました。
この柄の部分もちゃんと糸にされます。
さて、2月のラオスで驚愕。
中の蛹を食べるのだそうです。
インドのタサール繭よりかなり小ぶりですが
タサール蚕の糸は高級織物素材です。
「糸は取らないの?」と聞くと、これから糸ができることも知らないようでした。
お値段を聞くと1キロ2,000円くらい。
養殖でなく山奥から取ってくるそうで、
観光地の市場とはいえ、ラオスでは高級食材でしょう。
もちろん繭の中身は持って帰れませんから、
小さい包丁を借りてさっそく切開作業開始です。
繭のサイズのいっぱいいっぱいまで蛹が入っているので、
蛹を傷つけないように硬い繭を切るのはかなり大変でした。
うっかり蛹に傷をつけると、黄色いベタベタの汁が出てきます。
(虫嫌いの方ご注意)
なるべく糸を長く取りたいので、
最小の切り口で蛹を取り出そうと四苦八苦していると、
向かいの店のおばちゃんまで「そうじゃない」と出てきて、
さっさと縦に数カ所切り込みを入れます。
いやいやいや、蛹じゃなく繭が欲しいんだと言っても、
これから糸ができると思っていない方々には意味がわからないようでした。
(作業に必死だったため、作業中の写真はありません)
そして、市場で座り込んで繭を包丁で切っている我々の様子に
不思議そうに見ていく通行人。
ちなみに、市場で繭のまま売っているのは、
この方が日持ちするからだそうです。
空港ではスーツケースを開けられましたが、中に虫がいないことを見せOKでした。
インドのタサール繭(半養殖)と比べると小粒で硬く、色も黄色っぽいです。
左がラオス、右がインドの半養殖品。
さて、解舒実験です。
お湯だけ、重曹水のお湯では柄の部分以外はほぐれませんでしたが、
炭酸ソーダのお湯では簡単にほぐれました。
インドでは柄の部分(ナーシー)は分けて糸にするそうですが、
量が少ないので一気にやってしまったところ、
ナーシーの方が圧倒的に先に柔らかくなり
逆に面倒くさくなりました。
ナーシーの方が圧倒的に先に柔らかくなり
逆に面倒くさくなりました。
残念ながら繭は切れているので、生糸にはなりませんが、
できる限り長い糸を引いたものが左下、
それ以外は右の塊。
柄、繭表面、内側、もっとも内側では糸の質が全く異なります。
このタサール風の蛾はAntheraea frithiではないかという話です。
ついでに、あるラオスの染織工房では、
蛾が羽化したあとの繭を、捨ててしまうというので
もらってきていたのをほぐしてみました(右)。
蛾が羽化したあとの繭を、捨ててしまうというので
もらってきていたのをほぐしてみました(右)。
日本の家蚕と比べて小さく、毛羽だっています。
東京のKさんが育てたエリ蚕の繭(左)と比較してみました。
エリ蚕は吐き出す糸が短いので生糸にはならないそうですが、
煮なくても指でつまめば簡単に繊維がほぐれます。
それに比べてラオスの家蚕繭は、一見柔らかそうに見えてたのですが
煮てもなかなか全部がほぐれないばかりか、蛹の抜け殻のゴミも多く、
糸にせず捨ててしまうというのも理解できます。
繊維自体はエリ蚕の方が太くてしっかりしています。
繊維自体はエリ蚕の方が太くてしっかりしています。
そして、数年前から岩手の漆山に大発生しているのがこれ。
「スカシダワラ」とも言われるクスサン(Caligula japonica)の繭です。
去年は重曹で長時間煮てみましたが、ちっともほぐれません。
今年は炭酸ソーダ(ソーダ灰)でやってみました。
しかし、時期的にほとんどが地面に落ちていた繭だったため、
繊維をほぐそうとしてもブチブチに切れてしまいます。
かつて釣り糸に使っていたというくらい丈夫なはずのクスサンの糸です。
できれば繭ができる夏の終わりから秋に採取したいところです。
これに似ていると思われるのがクリキュラです。
インドネシアで養殖したものを少量いただいていたのですが、
クスサンに比べるとはるかに簡単にほぐれました。
そして、黄色で太くて強い!
「クスサン」はその名の通り楠、桜、ケヤキ、そして漆の木にもつくのですが、
「クリキュラ」はウルシ科のマンゴーにもつくそうです。
インドではかつてマンゴーばかり食べさせた牛の尿から黄色の染料
(インディアン・イエロー)を作っていました。
クリキュラの黄色がマンゴー由来としたら
漆についたクスサンと、他の木についたクスサンの繭の
質や色の差がわかったら面白そうです。