今年の初め、アメリカの友人の教え子が来日し、
たまたま日程の都合がうまく合い、
漆刷毛師のTさんの工房に連れていくことができました。
実は私もTさんの工房訪問は初めてでした。
Tさんは現在日本にたった2件しかない漆刷毛職人の一人で、
数年前に文化財選定保存技術保持者に認定されています。
これが市販されている漆刷毛です。
先に黒っぽく見えているのが毛の部分ですが、
そして、普通の刷毛や筆のように
先端だけに毛が入っているのでなく、
持ち手になる木の板の中にも毛が入っていて、
毛がすり減ったら、板を削り出して使うことができるのです。
通常は、持ち手部分に和紙を貼って、
その上から漆を塗って使います。
下2本は私の使っている漆刷毛ですが、
ここ数年は、使うのが年に数日だけなので、
あまり手入れがされていなくてお恥ずかしいですが。
通常は、持ち手部分に和紙を貼って、
その上から漆を塗って使います。
下2本は私の使っている漆刷毛ですが、
ここ数年は、使うのが年に数日だけなので、
あまり手入れがされていなくてお恥ずかしいですが。
刷毛に入れる髪の毛は、
漆と糊を混ぜた「糊漆(のりうるし)」で固めてあります。
これを「毛板(けいた)」と呼びます。
これが毛板です。
この日はたまたま、真ん中の毛板のような両端の狭まった形のものを作られていました。
この毛板を真ん中で切って貼り重ねて作ったものがいちばん上の刷毛だそうです。
両端の長さとボリュームが足りない毛も
無駄にせず使える形状がないかと工夫してみたというお話です。
近年は長い髪の毛が入手しづらいため、
材料の人毛のほとんどが輸入品になっています。
人毛を糊漆で固める時は、
毛の反対側を手で押さえていなければなりませんので、
まず一方を糊漆で固め、
固まってからもう片方を固めるという作業工程になるため
真ん中になる部分がちょっと膨らみます。
いちばん下のまっすぐな長方形のものが普段作る毛板なのですが、まず一方を糊漆で固め、
固まってからもう片方を固めるという作業工程になるため
真ん中になる部分がちょっと膨らみます。
この日はたまたま、真ん中の毛板のような両端の狭まった形のものを作られていました。
この毛板を真ん中で切って貼り重ねて作ったものがいちばん上の刷毛だそうです。
両端の長さとボリュームが足りない毛も
無駄にせず使える形状がないかと工夫してみたというお話です。
こんな鎌刷毛の試作品も作ってはみたものの、
これではとても高いものについて採算が取れないとのことです(笑)
これではとても高いものについて採算が取れないとのことです(笑)
さて、作業の様子を見せていただきます。
まずは毛揃え作業から。
櫛で梳いて長さが足りなかったり、曲がった毛を除き、
髪の毛を手で抜きながら長さを揃えていきます。
漆刷毛に使う人毛は、キューティクルを全て洗い落としてから使うため、
根元と先端の区別はつけなくて良いのだそうです。
次に、髪の毛の長さを3つに分けていきます。
同じ毛束の中でも、微妙に長さが違うわけですね。
これをそれぞれ束ねて、使う時まで置いておきます。
人毛のほかに、乾漆刷毛など必要に応じて馬毛などの硬い毛も使われます。
こんな形で売られているんですね。
それぞれの毛でできた刷毛はこれ。
馬も毛の色だけでなく、たてがみと尻尾の毛でも硬さが違います。
漆刷毛に使われる板はヒノキの割製材。
柾目でなければ使えません。
これは丸太の状態で買うので、製材するまで木目は全くわからないため、
いくら専門家でも外れを引くことがあり、買うのは一種の博打だそうです。
これも、木を見られる人が高齢のため、
この方が亡くなったら・・・というところに来ているそうです。
漆を使ったことがあるとは言え、
やはり今日は漆を使わない作業を見せてくださいます。
次は、毛板から刷毛を組み立てる作業です。
毛板を刷毛の寸法にあわせて切ります。
次にヒノキの板に幅を合わせて
こちらも丸包丁で押し切ります。
同じ寸法のヒノキ板で毛板を挟みます。
次に、サイザル麻と楔を使っての巻き込み作業です。
ほんとうは糊漆を使って接着するのですが、
今回は形だけ。
動きに全く無駄がありません。
美しいですねえ。
巻き込んだ刷毛はこんな感じでぐるぐる巻きです。
このサイザル麻の紐でないと楔を打ち込んだ時にゆるんでしまうので
使えないそうです。
毛板と板を接着した糊漆が完全に乾いたら
削って両横に細い木を貼り付け毛板を完全に隠し、
最後にきれいに削って完成です。
接着した刷毛はこのように
工房の壁ににたくさんぶら下がっています。
そして、Tさんのカンナはちょっと面白い形をしています。
カンナの刃の頭を切り落とすことで、少しでも重量を軽くし、
体への負担を軽くしているのだそうです。
このカンナはヒノキ板を削るだけでなく、
カンナ刃だけを取り出し、刷毛の毛を削り出す時にも使います。
Tさんが現在、原料の毛の入手よりも困っているのが
毛を揃える時に欠かすことができない、
「砲金」という特殊な合金でできた金櫛を作る業者さんの廃業です。
廃業の一報を聞いて、慌てて他の刷毛職人仲間で在庫を買い占めたそうで、
今残っているのはたったこれだけだとか。
この他にも、Tさんがずっと使われていた床屋さん用のベークライトの櫛も
既に入手ができないそうで、
どちらも頻繁に使うと櫛の歯もどんどん減ってしまいますから、
今の手持ち分がなくなったらもう刷毛は作れないとまでおっしゃられていました。
お子さんがいらっしゃらないTさんのところには
現在、今年で年季が開けるお弟子さんのUさんがおられます。
TさんとUさんが今後も刷毛作りを続けられるように
刷毛作りの材料も道具も供給が続くようにと願っています。
特に人毛は、我々の頭に生えている毛が使えます。
自分の体の一部で作ることができる道具は
綴れ織り職人さんが自分の手の爪を櫛状に加工される他には思いつきませんが、
漆刷毛は他の人にも使ってもらえます。
ご自分、あるいはお知り合いで髪の毛を伸ばしている方で、
長いままで切るご予定がある方、
「漆刷毛用ヘアドネーションプロジェクト」
「漆刷毛ヘアドネーションプロジェクト」
があります。
(※それぞれの漆刷毛職人さんが別個で行われています)
どうぞご検討ください。
Tさん、Uさん、Tさんの奥様、どうもありがとうございました。
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Tさんのお弟子さんUさんのブログ「狐の道具箱」には、
漆刷毛の製作現場の様子がさらに詳しく出ています。