インドに来て是非見たかったものの一つに、
ラックの腕輪(Lac bangles)作りがあります。
ラックは熱可塑性の性質を持つ樹脂であり、
ブータンやラオスなどでは、染料を煮出した後のラックは、
農具や刃物を木の柄に接着する接着剤として使われています。
さらにブータンの木地師はラックを使って
器を作る木地を木工轆轤の回転軸に接着します。
器を作る木地を木工轆轤の回転軸に接着します。
強い接着力、かつ、衝撃ですぐに取れるという性質をうまく利用しているのです。
ラマニ所長にはラック腕輪作りを見たいという希望を伝えていましたので、
まずは日曜日の午後、ラーンチーのメインロードという商店街に近い
Baba Lah Chudi Centerという腕輪(chudi)屋さんに連れて行ってもらいました。
こんな裏通りの商店街にあります。(青い看板の店)
店頭にあるのは結婚用の腕輪セットです。
右に壁、左もすぐ壁、奧はすぐに階段という、
ウナギの寝床どころかドジョウの寝床くらいの狭い店舗です。
町中にラックの腕輪のお店はここの他にも他の町にもたくさんありますが、
どこもこの程度の大きさです。
とにかくすごい数の腕輪が所狭しと並んでいるだけでなく、
どんどん下からも出て来ます。
手の大きさによって異なるサイズのものもあるのです。
これは、金属の腕輪の型の上に、ピンクのラメ粉を混ぜたラックを入れて形をつけ、
赤いビーズの大玉と輝くガラスを嵌めたもの。
婚礼用はこれでワンセットだとか。
赤は結婚している女性用の色だそうです。
全てが手作りで流行もあり、
次に来ても同じものはないよ、と言われても迷うばかり。
これらの腕輪のほとんどがインド北西部のジャイプールで作られているそうで、
作っているところは見られないと言われ、
サンプルとしていくつかを買ってみました。
数日後の、明日にはラーンチーを離れるという日、
ラーンチーに残ったたった一人の職人の作業を見せてもらえるということになり、
今度は研究所の色素分析担当のアルナブ博士が同行してくれました。
アルナブ博士もラーンチに赴任してまだ3年くらいで、
この店に来るのは初めてだそうです。
実は、先日の店の二階が工房になっていました。
この方がお爺さんの代からラック腕輪を作っているという
ラーンチーでたった一人になった職人さんです。
道具はこれくらい。(定規は私が持参の物を採寸のために置きました)
炭火で樹脂を炙って柔らかくして、鉄板の上で木のコテを使って延ばします。
奧にあるのは、そのラックを中に填め込むための金属の腕輪です。
一人がラックの輪をつくり、
もう一人がそれを腕輪の金具のくぼみに填め込むという分担です。
ラックを金属の腕輪の溝に隙間無く埋めているところです。
これは、階下の店舗で売っているような細かい細工を施すものでなく、
金属の腕輪の加飾部分が表になるもので、
腕にあたる側にラックを填め込むものでした。
日本人が珍しいせいか、 下の店からもう一人やってきて、
ラックを伸ばして何かを作りはじめました。
蛇ができました。
さらに曲げて、切れ端も加えて蛇の一家だそうです(笑)
1キロのラックに金属粉と秘密の素材を混ぜて
合計2キロにして使うそうです。
見ているだけだと粘土みたいで面白そうに見えますが、触ってみると結構熱いです。
このようにラックというのは
我々が知っている以上に様々な加工ができる素材のようです。
(あと少し続きます)
※この調査は生き物文化誌学会「さくら基金」の助成を受けて行われました。