京都で手描友禅の職人をされていた森本喜久男さんは、
30代の時にタイの博物館で見たカンボジアの絹絣に魅せられたことがきっかけとなり、
タイを経て、カンボジアのシエムリアップで
内戦によって失われてしまう寸前にあった伝統染織を
以前染織に関わっておられた方々と共に復活させ、
そんな森本さんの活動報告会に参加して来ました。
会場となったのは滋賀県の柏原という、中山道の宿場町の一件の古民家でした。
柏原はもぐさで有名で、
テレビで見たことはありましたが行くのは初めてでした。
古い町並みが残る落ち着いた雰囲気の通りです。
この写真の左手が会場になった古民家「古ゞ屋」さんです。
座敷にはIKTTで作られた製品が並んでいました。
これが、カンボジア原種の蚕から取れる絹糸の精錬する前の状態です。
糸の表面にセリシンというタンパク質がついているので触るとゴワゴワしていますが、
精錬すると柔らかく、クリーム色になるそうです。
日本や中国の蚕の繭からは1500mくらい糸が取れるが
カンボジアの原種の蚕の繭からはたった2-300mしか糸が取れないため
現地では劣ったものと考えられていた。
でも、最近の日本の絹の着物は、染み抜きのために擦ると穴が開いてしまう。
糸を長くとれる蚕が優秀とされ、糸の品質が軽視されてしまっている。
そして、ツルツルしているのは本物の絹の艶じゃない。
人の手で糸を紡ぐと、糸に人間の呼吸によるリズム、波ができる。
そういった糸で織ると、糸の波によって布を「まとう」ことができる。
機械で紡いだ糸はリズムが均一でツルツルになり、
それで織った布はまとうことができない。
これは手紬だからまとえるんです、と、
アーモンドの葉で染めた真っ黒いシルクのストールをまとわれながらのご説明です。
森本さんがどんな方かご存知ない方が圧倒的に多い会場で、
カンボジアの「伝統の森」の全体写真からはじまり、
ゆったりとした口調でお話下さいました。
「ものづくりの基本は土である」
「いい布のためにはいい土を」
染めに使う植物をはじめ、蚕を飼い糸を紡ぎ、
土を良くするための牛を飼うところまで全て村で行っていて、
現在、材料は全て村内で調達できているそうです。
しかし、今年は特に洪水被害が大きく、
10月には織りの道具や材料が全て流されてしまったそうです。
しかし、そんな写真を映し微笑みながら「みんな自然の恵みなんですね」と。
水が引いた後、数日間みんなで森の中を探したところ、
その多くを、自分達が植林した木が「受け止めていてくれた」
これを見た時はほんとうにありがたいな、と思われたそうです。
森本さんは現地に残っていた織り手さん達の
「手の記憶」から復興をスタートされました。
文字に書かれているわけでも、口伝でもない、見えないものです。
現在、第2、第3世代になる子供を連れて仕事をしているお母さん達の写真。
「この方がお母さんも安心して、ハッピーで品質が良い布ができるんです」
ここで生まれた子供達のための小学校も建てられたそうで、
将来は大学まで作りたいとのこと。
「伝統は守るものでなく、作るもの」
カンボジアにはもともと存在しなかったニットを取り入れた絹製品も作られています。
黄色は、沖縄にもある「フクギ」の樹皮で染めたものだそうです。
英語で言うガンボージです。
自然のものには独特のぬくもりがあり、「布は薬になるんです」
終了後、草木染めをされている地元のご婦人からの
「藍を色落ちしないで染めるにはどうしたら良いのですか」との質問に、
「自分で藍を種から蒔いて育ててみて下さい」
と答えられていました。
「ものづくりはいつも最先端」
「世界の最高品質のものを目指す」
「心と自然環境を取り戻す」
工芸というジャンルを超越された発想に
いろいろ目からも脳からも鱗が落ちた日でした。
森本さんと、この報告会を企画された皆様に感謝です。