2013年4月25日木曜日

川と皮と革

先月末に姫路に行って来ました。
目的は、世界でもここでしかやっていない「川晒し」という方法で脱毛した生皮から
太鼓皮を作られている現場の見学です。

2月に初めてお目にかかった時の「是非見に来てください。」という社交辞令を真に受け、ほんとうに見学に行ってしまいました。
こちらのお店です。

通常、生皮の脱毛処理には日本も海外も石灰や薬品(日本では糠漬けという方法もあり)が使っていますが、川に生皮を1週間から10日ほどさらしておくことで、
微生物の力により薬品を使わずとも毛が抜けるのだそうです。

当日は、小雨混じりの天候となりましたが、
無事に川まで入れる程度にとどまっていてくれました。
既に1週間前から漬けてあったのが、産地の違う牛の生皮3枚です。


雨などで川の水量が多くなりすぎると皮が流れてしまうので、梅雨に入ってしまうとできなくなります。なので、一年でも限られた時期のみの作業になります。

この姫路市内を流れる市川という川の水深、水量、水質などがこの技法に適していた、
と簡単に言ってしまえばそれまでですが、実際は、適度な水流の強さの場所を探すのにも
何度も試行錯誤を繰り返されたそうで、
せっかく漬けておいた皮を流してしまったこともあるそうです。

1週間から10日ほど川に漬けていた皮からは、面白いように毛が抜けます。
しかし、同じ日に漬けた皮でも、それぞれの質が違うために、するりと抜けるものと
まだ引っ張っても抜けないものがあります。
漬けすぎれば今度は皮が腐ってしまいます。
川から出しても良いかは、大﨑さんがそれぞれの毛を引っ張って判断します。
また、雨がひどくなると皮が流されてしまうので、
雨量によっては漬けた皮を川から一時的に出す作業もあります。
水を含んだ皮は十数キロにもなり、かなりの重労働です。


 引き上げた生皮です。

この後、工房に戻り、生皮の裏を機械で剝いて平滑にしてから、脱毛処理です。
刃が潰してある「セン刀」という道具を使います。

カマボコという木の台の上に皮を広げ、上から下へセン刀を滑らせます。
皮の表面(銀面)を傷つけないような力の入れ方がポイント。
傷が入ると商品価値が一気に下がり、ここまでの苦労が水の泡ですが、
ここで生前に皮についていた傷なども見えてきます。

ご覧のように表面を滑らせるだけで毛がきれいに取れます。
匂いも、川のコケのような匂いで臭くありません。

 この牛の毛は昔は絨毯などに使われたそうですが、
今では使い道がなく産業廃棄物だそうです。
何か良い利用方法はないものでしょうか?

 脱毛した皮は水で洗浄してから、特製の木枠に釘を使って張りつけます。
この時も、引っ張りすぎないのがポイントです。

木枠に張ってから、表面に残った毛を丁寧に除去します。
(黄色く見えているのはライトです)
このまま屋内で扇風機で風を当てながら、10日ほど乾燥して完成です。

実は、3月はじめに近江八幡で左義長祭りに使われる巨大な太鼓を見たばかりでした。

石灰処理と川晒しの皮の太鼓の音色も比較したいですね。

ちなみに、「皮」と「革」の違いは、なめしてないかあるかの差です。
今回は川、皮、革の3つの漢字の変換に、パソコンも右往左往してます(笑)。

(にわか勉強なので、間違った語句や表現があればご指摘ください)

大﨑様、ありがとうございました!

2013年4月24日水曜日

花はまだ

しばらくご報告できませんでしたが、数日で一気に育った漆の花芽、
週末からの寒さで縮こまったままです。

今日は雨なので、開花は来週かな。
葉っぱの成長もぼちぼちです。



2013年4月23日火曜日

Japan Waxと和ろうそく

日本人なのに、Japan Waxというものを最初に見たのはイギリスでした。
高級蝋ということで、専門の材料店にいくとちゃんと売っていたのですが、今、確認のためにオンラインショップで探してみたらリストから消滅していました。
そりゃ、日本でも手に入れるのが大変なのだから、当然でしょう。
これはハゼの蝋らしいです。

さて、先々週に、近江の和ろうそく職人さんが語る会というのに参加して参りました。
その職人さんの作業風景などは、こちらで動画が見られます。

日本では西日本ではハゼ蝋、東日本では漆蝋を使って和蝋燭が作られていましたが、今は漆蝋がなく、東日本の和蝋燭屋さんで扱っている商品もハゼ蝋です。
(※上のリンクの和ろうそく屋さんでは米ぬか蝋の蝋燭なども作られています)

左から、蝋燭の芯になるある種の藺草を和紙に巻いた芯、それの束、そして、ハゼの実です。このハゼの実はわざわざ長崎から買っているそうです。



左2本が和ろうそく、右の3つが石油パラフィンの蝋燭ですが、炎の違いがおわかりになるでしょうか?


さて、会津磐梯山の麓、福島県耶麻郡猪苗代町の野口英世の生家のすぐ傍に
「会津民俗館」という施設があります。



ここに、国の重要有形民俗文化財に指定されている昔の製蝋小屋があり、


中にはこんな道具が。


蝋を絞る「ドウ」という器具と、漆の実を搗いて、実から種を取り除く臼。


漆の実から種をとった果肉部分だけ入れる麻袋と、右は絞った蝋を入れる箱。

蝋分の含まれた果肉部分を蒸す竈。


第1展示室には製蝋道具や蝋燭作りの道具が展示されています。

漆の実と、実を枝から外す道具。


蒸した漆の果肉は熱いうちに麻袋に詰められてからドウに入れられ、
屈強な男性が2人でくさびを打ち込み絞るのです。


巨大な漆蝋の塊、そして、蝋燭作りの道具です。
蝋を手で何度もかけて太くしていったのですね。


彩色を施す道具材料です。「赤い蝋燭と人魚」を連想させます。


会津の絵蝋燭というのはこうやって作られていたのですが、
今では漆蝋を取る人はいません。
現在、漆の実は一部を、まさに「話の種」としての漆コーヒーに使うくらいで、
ほとんどは見向きもされず捨てられています。
しかし、蝋燭ができるくらいの量の蝋を取るためには
かなり大量の実が必要となりますから、現在の漆の生産量の減少ぶりからしても、
復元する量の実を採取するには効率としてかなり悪いです。

この民俗資料館、母屋が国の重要文化財というだけでなく、
これら製蝋資料など、日本でもここだけしかないという貴重な品が
多くあるにもかかわらず、案内してくださった地元の方によれば、
野口英世記念館には観光客が大勢来るのに、
ここまで来る人はほとんどいないのだそうです。
お近くに行かれたら是非寄ってみてください。

余談ですが、翌年会津市内で和蝋燭屋さんを見つけて
漆蝋の蝋燭について質問をしてみたのですが、
スパイと間違われたのか、詳しいことは何も教えてくれませんでした。

2013年4月22日月曜日

柿渋の素

季節外れですが、去年の11月の写真です。

これは豆柿という、柿渋の原料になる小さい柿です。
もちろん渋柿ですが、
渋を取るにはまだ青いうちでなければいけないのです。
これはちょっと熟しすぎてしまっていますが、
種を取って植えようという目的で頂いていたものです。


実は、うちの裏手の家では昔柿渋を作っていたそうなのです。
これを聞いたのがこの豆柿をもらってきた時。
当時を知っているお祖母さんは耳が遠く、去年の末に長男さんのいる東京方面にいかれてしまい、まだ柿渋のお話を伺える機会がありません。
この実は別の方から頂いたものです。

そろそろ植えてもいい時期かと、写真を見て思い出したところです。

2013年4月21日日曜日

ブータンの茜

 2011年夏にブータンに行った際、東ブータンのタシヤンツェで伝統技芸院の先生に
工房を案内していただいてる途中のこと。
突然「これ、染め物に使う草だよ。見てごらん。」と、
いきなり道ばたにあった草をむしって手で揉み出しました。



何やら汚い色ですね。


実はこれが、ブータン茜なんです。
日本の茜とは種類が違い、根っこだけでなく葉や茎にも色素があるのです。

翌年も探してみました。お、あったあった。

茜というだけあって、根っこも芽も何やら赤いです。

古い根も赤いです。

これを取っていたら、近所に住む若い夫婦が「何を取ってるの?」と
不思議そうに聞いてきました。
「これ、赤い色が染まる『ツェー』という草で、昔はこれで糸や漆器の木地も染めていたんだよ。」と教えてあげたら驚いていました。
今やブータンも合成染料が主流ですから、みんな知らないんですね。

ここから西に進んで、モンガルという地区に着いたら、あたりはもう茜まみれです(笑)

引っ張り出してみたら、数メートルの長さにまでなっていました。
茎はなんだかべたべたした繊毛みたいなものがあって、他の草や木にもからみついて成長していくのです。他の比較的温暖な地区では、気が付くとあちこちにありました。


こんなにあたり一面に生えていても、
ブータンは植物の持ち出しが厳しく制限されているために、残念ながら持ち帰れません。
雑草退治にもなるのに、何とか利用できないものかと思います。

2013年4月20日土曜日

虫と植物のコラボ

日本ではラックについてご存じない方が多いと思います。
日本では、「セラック」「シェラック」と言う名前の方がわかりやすいかもしれません。

ラックカイガラムシ(Laccifer lacca)という虫が植物に寄生して、卵を産むため、
植物から吸った樹液を元に樹脂を分泌して、いわば集合住宅を作るわけです。

というわけで、これが「スティックラック」と言う、
枝についた樹脂を乾燥させた状態です。
色が微妙に違うのは、カイガラムシの種類が違うので、
寄生する木も違うということです。
詳しくは徐々に説明していきます。


これが断面。穴のあいたところに雌が住んで卵を産んだわけです。

では、これは何に使われているのでしょうか?

合成樹脂に押されて需要は激減しているものの、
現在は塗料やコーティングが一般的です。
また、加熱すると柔らかくなる性質を活かし、
昔はSPレコードの素材とされていましたし、
塗料以前には、ここから赤色染料を取り出して染めに使われていました。
また、正倉院には世界最古のスティックラックが献納薬物のひとつとして
保管されています。

これらさまざまな用途のうちでは、接着剤という用途が最も古いと想像されます。

以下の写真は、1960年代に南アジアで使われていた封蝋数種です。

封蝋とは、封筒や小包の包装を接着するために使われていたもので、
封の上からこれをたらしておくと、それを壊さないと開封できないので、
包みが未開封だという証拠にもなりました。
また、ヨーロッパなどでは法律関係や土地所有権などの重要な書類に押されていました。右下の棒状のものが一番品質が良いもので、
上の2つは農具や刃物を木の柄に固定する時にも用いられるもので、
赤色染料を煮出した後の樹脂分だけを固めています。
いわば、廃物利用です。
「蝋」と名前がついていますが、蝋分は全体のおよそ3%しかありません。


断面は写真で見るだけだとカントリー・マームみたいですね(笑)

こちらは封蝋専用の高級品で、色素が残っているものを固めたのでしょう。
印面を鮮明にする目的か、別の樹脂も混ぜているようです。

封蝋は現在でもインド、ヨーロッパ、アメリカで作られています。

※日本でも封蠟を作っている会社があると教えて頂きました。
西日暮里にある「シールド」さんです。
ホームページの解説で、材料にある「セラミック」は
セラックの誤植のようです。

2013年4月19日金曜日

カウリの木

ロスアンゼルスのThe Huntington Library付属の植物園にあったオーストラリア産のQueensland Kauri(Agathis robusta)の巨木です。

この木からカウリ・コーパルという樹脂が取れます。
カウリは実は最近輸出規制がかかり、入手できなくなりました。

 前に写っている人物(カナダ人の友人)と比較してください。


フタバガキ科の植物はコーパル以外にも樹脂を出す木が多いです。葉も肉厚です。



樹皮の表面から樹脂が染み出しています。
これが地面に落ちて、土中に埋まって化石化したものが琥珀となります。
地表に落ちたものを友人と2人で大喜びで集めました。

採取した樹脂と落ちていた樹皮です。
透明なものと褐色のものとばらばらで、これを使うのは結構難しそうです。